今回は、最近発表された論文と絡めて、最新の日本人の食物繊維摂取基準を解説したいと思います。
また、今話題の「発酵性食物繊維」についても解説したいと思います。
1 研究論文の結果と最新の日本人の食物摂取摂取基準についての解説
まずは最近発表された論文が面白かったので簡単に解説します。神戸学院大学栄養学部から今年発表された研究論文です。
Narumi-Hyakutake A,et al,” Relationship between Frequency of Meals Comprising Staple Grain, Main, and Side Dishes and Nutritional Adequacy in Japanese Adults: A Cross-Sectional Study.” Nutrients. 2024 May 26;16(11);pii:1628.
この論文の結論を一言で言うと
「主食、主菜、副菜を組み合わせた食事の頻度は栄養素摂取量の適切さと比例する」
とのことです。
具体的には、タンパク質、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、葉酸などの各栄養素は、主食、主菜、副菜を組み合わせた食事の頻度が多ければ充足した割合が多く、頻度が少なければ不足している割合が多いとのことでした。
つまりは、朝食、昼食、夕食で主食、主菜、副菜と3つとも揃えて食べた方が各栄養素がきちんと摂れますよ、 という意味です。
朝食なんかほんとに主食だけ、とか、副菜だけ、とかって人結構多いですもんね。
まあでも、この結論って当たり前と言えば当たり前なんです。 主食、主菜、副菜ときちんと食事していれば当然ですが栄養価はきちんと摂れるでしょう。
ただ、私はこういう論文が大好きです。
みんなが当たり前だと思っていることをきちんとデータとしてまとめ、論文にするという研究者ってとても好きなんですよね。まさしく「数字は嘘をつかない」です。
そして私がこの論文で興味深いと思ったのは、
「食物繊維の摂取量は、主食、主菜、副菜を組み合わせた食事の頻度に関わらず低く、実に86.1%が食物繊維摂取量不足である」
という結果です。
これは衝撃ですね。きちんと主食、主菜、副菜を摂っていても、食物繊維の摂取量が足りていない人が8割以上もいるんです。
「日本人の食事摂取基準2020年度版」においては、大まかですが、食物繊維の推奨摂取量を24g、目標摂取量を成人男性1日21g以上、成人女性18g以上と設定していました。
(後で説明しますが、最新の基準は変わっています。)
そして「国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日の食物繊維摂取量は平均で14g程度と言われています。
ですので、主食、主菜、副菜をきちんと食べていても、食物繊維摂取量が足りていないという論文の結果もうなずけますよね。
それでは、そもそもなぜ食物繊維を摂った方が良いかというと、最新の日本人の食事摂取基準に記されていますのでそこから抜粋してみましょう!
「日本人の食事摂取基準2025年度版」 によると、
食物繊維は
「数多くの疾患との間に有意な負の関連が報告されているまれな栄養素である」 と記載されています。これは、食物繊維の摂取量と各疾患のリスクが反比例しているという意味です。
食物繊維をたくさん摂れば、病気のリスクが下がりますよ、ということですね。
そして具体的に、食物繊維を数多く摂ることによって以下のリスクが下がる と記載されています。
1 総死亡率
2 心筋梗塞の発症及び死亡
3 脳卒中の発症
4 循環器疾患の発症及び死亡
5 2型糖尿病の発症
6 乳がんの発症
7 胃がんの発症
8 大腸がんの発症
さらに、食物繊維摂取量が多いと、
体重や収縮期血圧、総コレステロール値が低くなる
慢性便秘症の改善
も期待できることも記載されています。
さらにこれは最近の論文ですが、食物繊維を多く摂取することで認知症のリスクも下げることが報告されているんです!
Kazumasa Yamagishi,et al “Dietary fiber intake and risk of incident disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study” Nutr Neurosci.2023 Feb;26(2):148-155
食物繊維ってすごいんですね。
それでは私たちは1日どれくらい食物繊維を摂ったらいいんでしょうか?
最新の食事摂取基準2025年度版では、簡潔に説明すると、2020年度版と比べ、推奨量、目標量ともに1日約1g程度多く摂取するように新しく設定されました。
具体的には
2020年度版の食物繊維推奨量24g→2025年度版の食物繊維推奨量25g
食物繊維目標量は、大まかに以下のようになっています。
と変更になりました。女性の食物繊維摂取目標量は変わりませんが、男性はそれぞれ1gずつ増えています。
なぜ食物繊維の摂取量が最新の基準で増えたのかというと、先ほど説明した通り、各種疾患のリスクを下げるという研究結果が続々と報告されたからなんですよね。
食物繊維って昔は栄養素としては「要らないもの」や「役に立たないもの」という認識だったのが、ここまで私たちの健康に寄与しているとは驚きです。
次は最新の食物繊維のトピックスについて解説したいと思います。
2 最新の食物繊維のトピックスである「発酵性食物繊維」について
食物繊維のトピックスである「発酵性食物繊維」について解説したいと思います。
その前に、そもそも「食物繊維」って何からできているかご存知でしょうか?
勉強熱心な方はご存知と思いますが、食物繊維は「糖」からできてます。
「糖」が鎖みたいにたくさん繋がってできてるんですね。
おさらいですが
「糖」が1個だけが「単糖類」→ブドウ糖とか果糖がこれです。
「糖」が2個繋がってるのが「二糖類」→砂糖(ショ糖)や乳糖がここに入ります。
「糖」が3個以上繋がっているのが「多糖類」→オリゴ糖、でんぷんなどがここに入ります。
一般的に、糖のつながりが少ないもの、例えば単糖類や二糖類は消化吸収されやすいので胃から小腸までで全て吸収されてしまいます。
問題は「多糖類」です。
糖と糖と繋げる結合には、具体的にα(アルファ)結合とβ(ベータ)結合があります。
人間は、α結合を分解する酵素を持ってますが、β結合を分解する酵素は持ってないんです。
ですから、多糖類の中でもα結合してるものは胃から小腸までで消化吸収されやすく、β結合してるものはほとんど消化吸収されないということになります。
例えば、多糖類であるでんぷんは消化吸収されやすいんですが、これはα結合してるからなんですね。
そしてβ結合してる多糖類はほとんど消化吸収されずに大腸まで到達します。
→ざっくりとこれが食物繊維の正体です。
細かいことを言うと、人間はβ結合を分解できませんが、人間の腸に住み着いている腸内細菌の中にはこれを分解できるやつがいるんです。
そしてその細菌は、自分が好きな(分解できる)食物繊維が大腸内に入ってきたら、それを分解して発酵するんですね。
これを発酵性食物繊維と言います。
つまり、発酵性食物繊維とは、腸内細菌が食物繊維をエサとして、短鎖脂肪酸などの代謝物を作ることができる、そんな腸内細菌のエサとなることができる食物繊維のことです。
発酵性食物繊維を摂取すると、腸内細菌が活性化して増殖し、腸内細菌の多様性がアップします。そして、短鎖脂肪酸などの有用物質が沢山作られ、さまざまな効果が出てくるというわけです。
それでは、発酵性食物繊維はどんな食材に含まれるんでしょうか?
一般的に、水溶性食物繊維は発酵性食物繊維の割合が多く、不溶性食物繊維は非発酵性食物繊維の割合が多いと言われています。
代表的な発酵性食物繊維は以下です。
穀物類;玄米、もち麦、押し麦、ライ麦、オートミール、蕎麦など
豆類:大豆、あずき、納豆、きなこ、インゲン豆など
野菜:ごぼう、にんじん、さつまいも、長いも、じゃがいも、玉ねぎなど
果実類:バナナ、アボカド、りんご、キウイなど
海藻類:椎茸、しめじ、わかめ、ひじきなど
こんな感じです。
ちなみに、発酵性食物繊維は生だろうが焼こうが煮ろうが成分に変わらないので好きに調理して結構です。
まあ、でもこのラインナップを見てみると、普段から腸活をしっかりやっていれば、自然と発酵性食物繊維は摂っていることになりますね。
個人的に発酵性食物繊維を意識的に増やすコツとしては、主食を茶色の食べ物に変えることかなと思います。
白ごはんではなく玄米、うどんではなくそばなどですね。
どうしても白ごはんやうどんが食べたい時は、冷やしてレジスタントスターチにしちゃいましょう。
実は、レジスタントスターチは発酵性食物繊維の範疇に入るんです!
そして効果的に腸内環境を良くすることができます。
そして、このレジスタントスターチは酪酸菌やビフィズス菌が大好きですので、日本人の腸内細菌に合っていると言われています。
皆さんも、発酵性食物繊維を食べて、腸から健康になりましょう!