こんにちは、医師の中島です。
前回まで、脳の老化を防ぐ生活習慣について、食事、便通、睡眠、運動などについてお話してきましたが、今回は「お風呂」についてのお話です。
古代ローマ人は湯に浸かることを一種の健康法と考え、当時の医学者たちはこぞってその効能を論じていたという話があります。映画にもなった「テルマエ・ロマエ」の世界ですね。
たとえば、紀元前1世紀の名医アスクレピアデスは穏やかな運動、適度な食事と並んで入浴を強く推奨していました。
彼によれば、病気とは体内の原子の動きが乱れることによって生じるものであり、適切な温度の湯に浸かることが、その運動を正常に戻す鍵だといいました。

また、紀元後1世紀、医学書『医学論』を著したケルススもまた、入浴の効能を高く評価していました。
彼によれば、入浴は単なる体の清潔を保つ行為ではなく、発汗を促し、毒素を排出し、消化を助け、筋肉の疲れを癒す万能の健康法であるといいました。
このように、昔から入浴習慣は健康寿命を延ばすことにつながることが示唆されていました。
現代において、そのエビデンスが多数報告されています。
例えば、「冬に週7回以上湯船に浸かっていた人は、週2回の人と比べて、新たに要介護認定を受けるリスクが29%も低かった」といいます。つまり入浴習慣があるほうが要介護になりにくいということです。
また、別の研究で、65歳以上で要介護認定を受けていない、約7500人を9年間追跡調査したところ、毎日湯船に浸かる習慣がある人は、そうでない人に比べて9年後の認知症リスクが26%も低いという結果が報告されています。
参考: https://doi.org/10.11390/onki.2365
他にも脳卒中や心筋梗塞のリスクの減少など、入浴習慣があるほど健康寿命が長くなるというものです。

では、なぜこのような健康効果があるのか。
一番の理由は、「温熱効果」といわれています。
温かいお湯に浸かることで血管の拡張が起こり、血液のめぐりが良くなって深部体温(脳や内臓など体の中心部の温度)が上がります。体の隅々まで酸素や栄養分が行きわたり、二酸化炭素などの老廃物を回収するという働きもスムーズになります。
血圧が下がる作用もあり、それはその場限りではなく、8時間程度、高めの血圧を下げる作用があるという報告もあります。
また、体が温まることで副交感神経の活動が高まり、心拍数が安定するなどのリラックス反応が確認されています。神経の過敏を抑え、腰や膝などの痛みが緩和されるという効果もあります。睡眠の質を高めたり、免疫力の向上も期待できます。
一方、シャワー浴では、体温は一時的には上がるものの、浴室を出るとすぐに下がってしまうため、湯船に浸かる浴槽浴であって初めてこのような健康効果が望めるということです。
では、長時間入浴する必要があるのでしょうか?
答えは、「40度前後のお湯に10分ほど浸かる」。
これで十分です。
体温が約0・5~1度上昇し、温熱効果が望め、じわっと汗が出始めたら体が温まったというサインです。
この10分というのは延べ時間であり、最初に5分入って途中であがって体を洗い、再度5分入って出るという“分割浴”でもいいそうです。
また、基本は肩まで浸かる「全身浴」がお勧めですが、心臓や肺に疾患がある人や高齢者は体への負荷が減る「半身浴」がいいでしょう。
いかがでしたか?
適切な入浴は健康寿命を延ばすことにつながりますが、入浴前後の誤った行動はリスクにもなりえます。
そのお話はまた次回。
週の中日ですね、一息ついて後半もがんばっていきましょう。