こんにちは、医師の中島です。
前回、脂肪肝を放置すると、脂肪肝炎、そして脂肪肝炎を放置すれば、5年間で20%の割合で肝硬変に進行していくことをお話しました。
今回は肝硬変の怖さについてのお話です。

肝硬変は線維化の進行度によって5段階に分けられます。F0が線維化なし、F1が軽度、F2が中等度、F3が重度、F4が末期(肝硬変)の状態です。
F2まではほとんど症状はありませんが、肝臓の表面はすでにでこぼこと荒れた状態です。ただF2まではまだ回復の可能性があります。
しかし、重度のF3や末期のF4になってしまうと、肝機能の回復は非常に難しくなります。肝移植手術という選択肢もありますが、実際には提供者や条件の制約が厳しく、ハードルが高い状況です。
ですから、肝硬変はF2の段階までになんとしても食い止めなくてはなりません。脂肪肝炎が始まった時点で治療をスタートすれば、そこまで線維化が進んでしまうことはないので、自覚症状がなくても危機感を持って、早め早めの対処をしていくことが大切です。
なお、F3以降の重度や末期になるとどういう状態になるのかも説明しておきましょう。
肝硬変はこの段階まで線維化が進んでようやく自覚症状が出始めます。主な症状は、黄疸、むくみ、腹水、疲労感、倦怠感などです。木がどんどん枯れていくように、元気や活力が失われ、痩せ細っていきます。

こうした症状が出るころには肝臓はすでに瀕死の状態、、、症状が出た時点で「時すでに遅し」なのです。
以前、お話したように、肝臓は生きていくのに欠かせない何百もの重要機能を請け負う工場の集合体であり、肝硬変はその工場の一つ一つが機能不全に陥って役目を果たさなくなった状態といえます。
例えば、解毒の役割が機能しなくなれば、有害物質を代謝することができなくなり、いくら寝ても強い疲労感が残ります。肝臓は血管内に水をとどめておくのに欠かせないアルブミンというタンパク質をつくっています。アルブミンが作られなくなれば、血管から漏れた水が体中にたまり出し、足が象のようにむくんだり、腹水がたまってカエルのようにお腹が膨れたりします。胸に水がたまる胸水の症状が出ると、呼吸さえ困難になってしまいます。
肝臓は免疫力の維持にも重要な役割を担っているため、肝機能が低下すると、些細なことでも細菌やウイルスに感染しやすくなります。よくあるのは、皮膚が乾燥してかゆくなり、引っかいた傷口から細菌が入り込んでしまうパターンです。健康な人なら問題にならないような菌でも、免疫力が落ちた体では重篤な感染症につながることがあります。
なかには、普段は人体に害をなさない「カビ(真菌)」が皮膚や肺、血液中に入り込み、命を落とすこともあります。カビは私たちの周囲に常に存在していますが、免疫が極端に弱った状態では、それすらも脅威となってしまうのです。
いかがでしたか?
肝硬変の恐ろしさがおわかりいただけたでしょうか。大切なのは、脂肪肝や脂肪肝炎のうちに治療を始め、肝硬変の芽をしっかりと摘んでおくことです。自覚症状がないからこそ、早期の発見と対処が極めて重要なのです。
週の中日ですね、一息ついて後半もがんばっていきましょう。