福岡天神内視鏡クリニックブログ

それでも胃レントゲン検査が勧められない理由

おはようございます、医師の秋山です。

今回は、検診「胃レントゲン検査」についてです。

先日、家に検診ガイドが届いていました。

福岡市の検診への熱心な取り組み・検診のススメが詳細に記されていました。

福岡市では、よかドック・よかドック30、各種がん検診といった受診項目を自身で選べる仕組みになっています。

よかドック・よかドック30は「生活習慣病予防」のための検診であり、とても素晴らしい制度だと思います

安価で受けられますので、ぜひ毎年の受診をお勧めいたします

 

一つだけ気になる項目がありました。

それは、厚生労働省「がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針」改定に基づき、平成30年7月から「胃がん検診」の対象者と受診間隔が変更される点です。

具体的に何が気になるのかと言いますと、「胃カメラ」

●従来40歳から毎年受けられたのが、50歳からでしか受けられなくなること

●50歳から以降も、2年に1度しか受けられなくなること

です。これを見たときは、正直目を疑いました。

 

これまでは40歳から、1年に1度カメラで胃粘膜を直接観察することができたのに、これからは50歳からでしか観察できなくなります。

しかも、2年に1度しか観察できません。

 

対して胃レントゲン検査は、1年に1度受けられることになっています。

皆さまは「胃がん検診」でどういったことが発見できると思いますか?

”検診なのだから、胃がんを早期で発見してくれるのだろう” と思うのではないかと思います。

しかし実際には、

胃レントゲン検査で、”早期胃がん”を発見することは「かなり難しい」

というのが消化器医の共通した考え方です。

 

レントゲン検査は、「胃を外側から影絵の原理で映し出すレントゲン検査」になります。

ですからどんなに優れたレントゲン検査技師が撮影して、読影医の先生がいたとしても

影絵として映ってこない平坦な胃がんは、どうやっても発見できない」のです。

レントゲン検査には限界があります。

私はこれまで多くの内視鏡検査を行ってきました。

その中で多くはないですが、毎年必ず「毎年真面目にレントゲン検査を受けていたのに、ふと胃カメラしたら進行胃がんだった」という方がいます。

50~60代の方々で、周囲でそのような話を聞いたことがありませんか?

毎年胃レントゲン検査を「胃がん検診」と信じて真面目に受診していたのに、気が付いたら進行胃がん(時には手遅れ胃がんのこともありました)になっていた

これは誰の責任というわけでもなく、

「そもそも胃レントゲン検査は、胃がん検出の早期発見に限界がある」にほかならないだけです。

正しい言葉を選ぶならば、「胃レントゲン検査は、早期胃がんの発見に向いていない」となるでしょうか。

これはこの事実をを知らない人にとっては、衝撃的なことかもしれません。

でも、実際に胃レントゲン検査を毎年受けていたのにもかかわらず、胃がんで亡くなる方が現在でもいることは事実です。

レントゲン検査も受けずに進行胃がんが見つかった場合は、仕方がないかと思います。

しかし、毎年レントゲン検査で早期胃がんが発見できると信じて、真面目に受けてきた方が進行胃がんだった場合は、正しい知識を与えられていなかったのですから不憫でなりません。

そしてその責任は誰も取ってくれません。泣き寝入りするしかないのです。

では、胃レントゲン検査を勧めている厚生労働省の方は、全員毎年胃レントゲン検査を受けているのでしょうか。

私は正直、そこのところは分かりません。私の想像ですが、おそらくこの方々は「毎年しっかり胃カメラを受けている」のではないかと思います。なぜでしょうか。

胃がんは進行が早いために、胃がんで亡くならないためには早期で発見しなければいけない重要性を知っているから」です。さらに

レントゲン検査は得られる情報量が少ない割に、苦痛を伴う検査であること

多量の放射線量が出ているレントゲン検査を毎年受けることの蓄積が、全身のがん発病の可能性を上昇させていること

も本当は知っているはずです。

だから、正しい知識を持っている人は、胃レントゲン検査を受けません

胃がんは胃カメラを毎年受けることで、早期発見・早期治療ができることを知っているのです。

でもそれを知識として全国民に伝えてしまうと、誰も胃レントゲン検査を受けなくなります。

もし全員が胃カメラを検診で受けるようになると、検診センターは内視鏡を受ける人で溢れかえってしまうでしょう。

胃カメラは詳細に観察すれば、一人10分はかかります。

検診者の入れ替えを考えると、一人当たり15分はかかるでしょうか。

検診センター側としては、レントゲンの方が効率がいいのです。

胃がんが見つかるかどうかは、残念ながら二の次になると思います。

そして胃カメラをする検診センター側は、ある程度の人件費(胃カメラができる医師を雇う必要があります)を出さなくてはならないので、コストがかかるのです。

検診にかかる時間とコストを考えると、胃レントゲンを勧める厚生労働省や検診センターの方針は、私は致し方ないと思っています。

でも、検診を受ける側は「がん検診」と信じて時間とお金を費やしているので、正しい知識を与えられずにレントゲン検診を勧められているのではたまったものではありません。

私の胃レントゲンに対する考え方は、

受けないよりはましだが、”早期胃がんの早期発見” にはあまり役に立たない検査

と捉えています。胃レントゲン検査は、精度が高くないのです。

きっとこれからもしばらくは、「がん検診」について国民に正しい知識を与えられることはないのではないかと思います。

自らが正しい知識を探して、精度の高い検診を選択して受けていくことで、自らの健康を守るしかない」

のが現状だと思います。

気楽に胃カメラが受けることができもし胃がんが発見されたとしても早期治療で完治できる時代となるように。

胃がんで亡くなる人が少しでも減る時代となるように。

私達は地道に努力していきます。

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秋山 祖久総院長

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。