福岡天神内視鏡クリニックブログ

ピロリ菌を考察する その15 胃炎の内視鏡所見9 RAC像について

おはようございます。

 

前回までは、ピロリ菌感染のある胃に見られやすい胃の内視鏡所見について色々とお話してきました。

 

今回は、ピロリ菌の感染のない胃に見られる所見であるRAC(Regular arrangement of collecting venules)についてお話ししたいと思います。

RACは、内視鏡的には、「胃体部(胃底腺領域)に集合細静脈が規則的に配列した像」と定義されます。

 

RACは、内視鏡で遠くから観察すると「規則的に配列する赤い無数の点」として観察されますが、近接して観察すると「ヒトデ状の模様が整然と配列する像」として観察されます。

 

このようなRAC像が胃体部(胃底腺領域)全体に観察される場合をRAC陽性と判定し、ヘリコバクター・ピロリ菌未感染の正常な胃として診断ができると言われています。

過去の論文によれば、RAC陽性の場合は、95%の正診率でヘリコバクター・ピロリ菌未感染の正常胃と診断が可能と報告されています。

 

胃がヘリコバクター・ピロリ菌の感染を起こしていても感染している場所が胃の出口付近の前庭部付近に限られているような場合には、ピロリ菌感染があるにも関わらず、ピロリ菌感染に伴う萎縮胃粘膜領域が狭く、胃の体上部領域にまで炎症が及んでいないため、胃体上部にはRAC類似内視鏡像(ニセRAC)が観察される場合があります。

このような症例では、一見、内視鏡上のRACのみでピロリ菌感染の診断が難しいケースがありますが、これらの症例でも胃の体下部や胃角部ではRAC像が消失しているケースが多いと報告されています。

また、ヘリコバクター・ピロリ菌未感染の場合は、胃の前庭部近位側まで胃底腺が存在するため、「胃角部から前庭部小彎側にRACを認める場合は、高確率でピロリ菌未感染と診断可能」と考えられています。

 

図.胃体下部のRAC像

春間賢.胃炎の京都分類.日本メディカルセンター,2014より転載

 

図.胃角部から前庭部小彎のRAC像

春間賢.胃炎の京都分類.日本メディカルセンター,2014より転載

 

 

「胃炎の京都分類」で定義されている胃炎の内視鏡所見やRACの様なピロリ菌未感染の内視鏡所見は、ピロリ菌感染の有無・胃がんリスクを評価する上で、非常に重要な所見です。

私たち消化器内視鏡専門医は、これらの所見を一つずつ丁寧に拾い上げていくことで、患者様一人一人のピロリ菌感染の状態や胃がんリスクを評価し、胃がんの早期発見・早期治療を目指しています。

 

専門的な難しいお話しですが、私たち消化器内視鏡専門医が、普段どういったところに気をつけながら、検査をしているのかということが少しでも伝われば幸いです。

これらの所見を見落とすこと無く、しっかりと拾い上げて胃カメラ検査時に患者様一人一人のピロリ菌感染診断、ひいては将来の胃がんの発生リスクを推測し、必要な内視鏡検査のフォローアップのタイミングを提案していきます。ご不明な点がありましたら、是非一度、ご相談ください。

 

私たちは、日々、胃がんで亡くなる人を一人でも減らしたいという想いで日々、頑張っています。

ご家族にピロリ菌感染していた人がいる、胃がんにかかった人がいる、胃の不快な症状があるなどがある場合は、若くても一度は胃カメラ検査を受けましょう。

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秋山 祖久総院長

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。