おはようございます。
前回、大腸がんのリスク因子の1つである年齢と性別について話しました。
今回は、大腸がんのリスク因子の1つである遺伝的因子に簡単にお話します。
家族性大腸腺腫症とリンチ症候群は非常に大腸がんのリスクが高い遺伝性疾患であることが分かっています。
家族性大腸腺腫症とリンチ症候群のほかにもPeutz-Jeghers症候群や若年性ポリポーシス症候群も大腸がんのリスクの高い遺伝性疾患であると言われています。
こららの他にも、大腸がんのリスクを高めるいくつかの遺伝子多型が報告されています。
①家族性大腸腺腫症
がん抑制遺伝子であるAPC遺伝子が変異することにより発症する遺伝性疾患です。
家族性大腸腺腫症の約60%が大腸がんや大腸ポリープの家族歴があると報告されています。
家族性大腸腺腫症の典型例では10歳頃までにポリープが発生しはじめ、20歳頃にはポリープが多発したポリポーシスの状態になると言われています。家族性大腸腺腫症の患者さんにおける大腸がんの発生頻度は40歳代で50%、大腸全摘術を行わずに放置するとほぼ100%に大腸がんが発生すると言われています。
血縁者に家族性大腸腺腫症の方がいる場合は、20歳以降は定期的に大腸カメラ検査を受けることが絶対に必要です。
②リンチ症候群
DNAのミスマッチ修復遺伝子が変異することにより発症する遺伝性疾患です。
大腸がんのうち、約2-5%の大腸がんの発生に関わっていると報告されています。リンチ症候群の患者さんが、生涯で大腸がんを発生する可能性は約80%と言われています。
50歳未満という若さで大腸がんを発症した患者さんは、リンチ症候群である可能性があります。
リンチ症候群では、大腸がん以外にも子宮内膜がん、卵巣がん、胃がん、膵がん、尿管がん、腎盂がん、胆道がん、脳腫瘍などのがんも発症しやすいと言われています。
これらのがんにかかったことがある、または血縁者にこれらのがんになった方がいる場合は、定期的な胃カメラ検査と大腸カメラ検査を受ける必要があります。
③Peutz-Jeghers症候群
過誤腫性(受精卵から体の細胞が形作られる胎生期に組織の形成異常で生じる腫瘍の様に見えるが腫瘍ではない奇形の一種)の消化管ポリポーシスを発症する遺伝性疾患です。
消化管ポリポーシスの他に、身体的な特徴として口唇や口腔内、手足に色素沈着を認めます。
過誤腫性腫瘍自体が癌化するのはめずらしいですが、胃がん、大腸がん、小腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、子宮がんなどを発症するリスクが高いと言われます。
定期的に胃カメラ検査と大腸カメラ検査を受ける必要があります。
④若年性ポリポーシス症候群
胃、小腸、大腸に過誤腫性のポリープを発生する遺伝性疾患ですが、家族歴がなくても突然発症することもある疾患です。
若年性ポリポーシス症候群の患者さんでは、20歳までにポリープを発症することが多いと言われています。
発生するポリープの数は、個人差があり、生涯で数個だけの人もいれば100個以上認める人もいると言われています。
20歳前後で血便の原因を調べるために大腸カメラ検査をしたら大きなポリープが見つかったという形で発見されるケースが多いと言われています。治療しないとポリープから出血を来たし、貧血の原因となることがあります。
ほとんどの若年性ポリープは良性ですが、悪性化することもあり、予防的に切除する必要があります。
若年性ポリポーシス症候群患者の消化器癌の発症リスクは9%~50%と言われています。その中でも特に大腸がんが発症しやすいと言われています。
若年性ポリープを認めた場合は、定期的な胃カメラ検査と大腸カメラ検査が必要です。
大腸がんをはじめとする消化管がんは、その発がんリスクに遺伝的な因子も関わるため、若いから絶対に大丈夫と言うことはありません。
血便や原因不明の貧血がある、便通異常があるなど症状がある場合は、一度、胃カメラ検査や大腸カメラ検査を受けましょう。
私たちは皆さんが一人でも胃がんや大腸がんで亡くなるのを防ぎたいと思い、日々診療を行っています。
お悩みの場合は、是非ご相談ください。