福岡天神内視鏡クリニックブログ

ピロリ菌を考察する その5 ピロリ菌感染後の胃炎の状態と発生する胃がんについて

おはようございます。

 

前回、ピロリ菌感染により、どのように胃炎が進行していくのかについてお話ししました。

今回は、ピロリ菌感染後の胃炎の状態と発生する胃がんのタイプについてお話ししたいと思います。

 

まず、前回のおさらいですが、ピロリ菌は、まず胃の出口近くすぐの幽門部の幽門腺粘膜(幽門腺領域)に感染します。感染をそのまま放置しておくと、感染は徐々に胃前庭部から胃体部の胃底腺粘膜(胃底腺領域)へと胃全体に及んでいきます。

胃底腺粘膜はピロリ菌感染による活動性炎症が持続すると、炎症により粘膜細胞に変化が起こりはじめます。

どのような変化が起こるかというと、炎症で破壊された胃粘膜が修復される際に元の胃底腺粘膜ではなく、正常では胃の出口付近の幽門部のみに存在する幽門腺粘膜に置き換わって再生されます。これを胃粘膜の置換といいます。

幽門腺粘膜は胃底腺粘膜よりも薄いため、内視鏡で観察すると色調が白っぽく見え、粘膜下の血管も透けて見え、粘膜が萎縮しているように見えます。これが、ピロリ菌感染よって引き起こされる萎縮性胃炎です。

つまり、萎縮性胃炎とは、ピロリ菌感染による活動性炎症が原因で胃底腺粘膜が幽門腺粘膜に変化してしまった胃のことをいいます。

萎縮性変化が起こった後も活動性炎症が持続し、胃粘膜上皮がさらに破壊と再生を繰り返すと、今度は胃粘膜が腸管粘膜上皮の形態に変化していきます。これを腸上皮化生といいます。

これは、ピロリ菌感染による慢性胃炎の最終形態です。

つまり、胃にピロリ菌感染が起こると、まずは胃に持続的な活動性炎症が起きて、それが継続すると炎症に伴う胃粘膜の破壊と置換が起こり、やがて胃粘膜の萎縮が起こり、最終的に腸上皮化生へと至ります。

この胃炎の進行状況により胃に起きている炎症の強さは、実は異なります。

ピロリ菌は感染が起きてから徐々に炎症が強くなっていき、炎症が強くなるのに伴い胃粘膜の破壊と置換が進んでいき、粘膜萎縮が起こり、やがて萎縮が進行して胃炎の最終形態である腸上皮化生になるに伴って炎症は弱くなっていきます。

 

何だかすごく難しい話ですよね。

例えとしては、火事が起こると、火事が起きた後、少ししてからが最も火の勢いが強くなり、火事が進行して燃やすものが無くなってくると、逆に火が弱まってくるというイメージです。

ピロリ菌感染が起こると、活動性炎症により萎縮性胃炎を来たし、最終的には腸上皮化生へと至ります。

 

 

このピロリ菌感染後の胃炎の進行状態と発生する胃がんのタイプには、関連があると考えられています。

 

 

胃がんの90%以上は、胃壁の最も内側(胃カメラで見える胃の表面)の粘膜上皮細胞から発生する腺がんというタイプの胃がんです。

この腺がんは、がん細胞の増殖の仕方の違いによって分化型腺がんと未分化型腺がんに分類されます。

分化型腺がんは、がん細胞の形や並び方が胃や腸の粘膜構造を残して腺管構造を作りながらまとまって増殖するタイプの胃がんです。この増殖の仕方をするがんを膨張性がんといいます。

これに対して、未分化型腺がんは、がん細胞の形や並び方が胃や腸の粘膜構造をほとんど残してなく、がん細胞がかたまりを作らずにパラパラとひろがるように増殖するタイプの胃がんです。この増殖の仕方をするがんをびまん性がんといいます。びまん性がんである未分化型腺がんには、増殖スピードが速く悪性度が高いことで有名なスキルス胃がんも含まれます。

 

ピロリ菌感染後、ピロリ菌が猛威を振るっている活動性炎症が強い段階では、びまん性がんである未分化型腺がんが発生し易いといわれています。

一方、胃粘膜の破壊と置換が起こり粘膜萎縮と腸上皮化生が起こった段階では、膨張性がんである分化型腺がんが発生し易いといわれています。

 

一般的に、若い人ほど、胃がんの悪性度が高く進行が早いというイメージがありますが、これは若い人ほど、ピロリ菌感染による炎症の強さが強い活動性炎症の段階にあり、この段階で発生する胃がんは増殖スピードが速く悪性度が高いびまん性がんである未分化型腺がんが発生し易いからなんです。

 

若いから胃がんは大丈夫ということは決してありません。

増殖スピードが速く悪性度が高いびまん性がんである未分化型腺がんであっても進行がんになるまでは、自覚症状がほぼ無いケースも多くあります。

ご家族にピロリ菌感染していた人がいる、胃がんにかかった人がいる、胃の不快な症状があるなどがある場合は、若くても一度は胃カメラ検査を受けましょう。

ご不明な点がありましたら、ご相談ください。

癌にならない腸活 実践メルマガ講座 乳酸菌バナー 内視鏡チャンネルバナー

秋山 祖久総院長

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。