おはようございます。
前回、ピロリ菌感染胃炎の中でもこの内視鏡所見があると、ピロリ菌の現感染(現在も胃にピロリ菌感染が継続している状態)があると考えられる「点状発赤」についてお話ししました。
今回は、前回同様にピロリ菌の現感染があると考えられる粘膜腫脹・皺襞腫大についてお話ししたいと思います。
ヘリコバクター・ピロリ菌の現感染があると、胃内視鏡検査で胃底腺粘膜(幽門部と噴門部の間の胃の大部分を占める前庭部近位側から食道胃接合部直下までの領域の胃粘膜)が柔らかく厚ぼったい感じの腫れた粘膜として観察されます。腫れた粘膜がでこぼこした凹凸して見られることもあります。このピロリ菌感染により腫れた胃粘膜を粘膜腫脹といいます。
粘膜腫脹は、ピロリ菌の現感染がある胃に特徴的な所見で、ヘリコバクター・ピロリ菌の未感染の胃粘膜では観察されません。
また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染により胃粘膜に活動性の高い炎症が起こると、胃体部の大彎にある胃のヒダが腫れて腫大し、グネグネと強い蛇行を認めるようになります。この腫れたて蛇行した胃体部大彎のヒダを皺襞腫大といいます。
皺襞腫大があると、胃内視鏡検査時に胃カメラから胃内にしっかり空気を送り込んで胃を膨らませてもヒダ自体が伸びて平坦化せずに腫れぼったいヒダとして認められ、ヒダとヒダの間の隙間が狭くなっているのが特徴です。
過去の疫学研究において、この皺襞腫大はスキルス胃がんなどの未分化型胃がんのリスク因子になると考えられています。
これらの粘膜腫脹や皺襞腫大はピロリ菌の除菌治療に成功すると自然に消退・軽減する事が多い所見です。
皺襞腫大は、スキルス胃がんなどの未分化型胃がんのリスク因子になると考えられているため、除菌治療を行うだけでなく、これらの所見があった場合は、少なくとも年1回は胃内視鏡検査を行い、胃がんが出現していないかをしっかりフォローしていく必要があります。
A:ピロリ菌未感染の胃粘膜には粘膜腫脹は認めない
B:ピロリ菌現感染の胃粘膜には粘膜腫脹を認める
図1.ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無による胃粘膜の粘膜腫脹の有無の違い
春間賢.胃炎の京都分類.日本メディカルセンター,2014より転載
図2.ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無による皺襞腫大と蛇行
A:ピロリ菌除菌前は幅広く屈曲したヒダを認め、発赤した胃粘膜を認める
B:ピロリ菌除菌後はこれらの所見が改善
春間賢.胃炎の京都分類.日本メディカルセンター,2014より転載
これらの胃炎の京都分類で定義されている胃炎の内視鏡所見は、ピロリ菌感染の有無・胃がんリスクを評価する上で、非常に重要な所見です。
私たち消化器内視鏡専門医は、これらの所見を一つずつ丁寧に拾い上げていくことで、患者様一人一人のピロリ菌感染の状態や胃がんリスクを評価し、胃がんの早期発見・早期治療を目指しています。
専門的な難しいお話しですが、私たち消化器内視鏡専門医が、普段どういったところに気をつけながら、検査をしているのかということが少しでも伝われば幸いです。
これらの所見を見落とすこと無く、しっかりと拾い上げて胃カメラ検査時に患者様一人一人のピロリ菌感染診断、ひいては将来の胃がんの発生リスクを推測し、必要な内視鏡検査のフォローアップのタイミングを提案していきます。ご不明な点がありましたら、是非一度、ご相談ください。
私たちは、日々、胃がんで亡くなる人を一人でも減らしたいという想いで日々、頑張っています。
ご家族にピロリ菌感染していた人がいる、胃がんにかかった人がいる、胃の不快な症状があるなどがある場合は、若くても一度は胃カメラ検査を受けましょう。