福岡天神内視鏡クリニックブログ

ピロリ菌から胃がんに至る「本当の理由」

こんにちは、医師の秋山です。

今日は「ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんの関係」について本腰を入れて書きたいと思います。

最後の方が少しややこしい話になりましたので、お時間のない方は最後の「まとめ」だけご覧になってください。

興味を持たれた方は、どうぞ最後までお付き合いください。

 

はじめに「ピロリ菌と除菌治療の歴史」について、紹介します。

以前のブログにも書きましたが、昔は日本人のほとんどの方がピロリ菌に感染していたことが推測されています。

ピロリ菌のことを詳しく知ろう

「胃がんの原因がピロリ菌である」と判明したのは意外と最近のことで、今から40年前です。

それ以前は「胃内のpH1の強酸性環境下では、細菌が生息することはあり得ない」と思われていました。

1979年、西オーストラリア大学のロビン・ウォーレン名誉教授(もともとは病理医です)が、胃炎患者さんの胃粘膜に「小さならせん型の未知の細菌」を発見しました。

ヘリコバクターの「ヘリコ」とは、「らせん・旋回」の意味があり、ヘリコプターの語源と同じです。

その後当時研修医だったバリー・マーシャル教授と共同研究をして、100人の患者さんの胃粘膜を調べた結果、胃炎や胃・十二指腸潰瘍を起こしているほぼすべての患者さんにピロリ菌が感染していることが確認されました。

2人は1982年に、この未知の細菌がヘリコバクター・ピロリ菌であることの証明となる分離培養に成功しました。

マーシャル先生は、「自らピロリ菌を飲んで急性胃炎を確かめた」という逸話があります。

2人は2005年に、ピロリ菌発見の功績が讃えられノーベル医学生理学賞を受賞しています。

1994年には、WHO(世界保健機構)が「ピロリ菌は胃がんの原因である」と認定しました。

そして2014年には「胃がん対策はピロリ菌除菌に重点を置くべきである」と発表しました。

 

 

以前は日本でのピロリ菌の除菌適応は大まかに以下の2つの場合に限られていました(厳密にはマイナーな適応がいくつかあります)。

1.胃カメラの観察で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある

2.早期胃がんを胃カメラを使って治療したことがある

これは逆に言うと、「明らかにピロリ菌がいる胃粘膜であっても、潰瘍やがんの既往がなかったら保険診療での除菌はできなかった」ことを意味します。

つまり「ピロリ菌が胃がんの原因である」ことが世間にも広まりつつありましたが、ほとんどの方に除菌適応がなかったのです。

その後痺れを切らしたと思われる検診側が、「採血だけでピロリ菌を測定する」ようになりました。

検診なので「採血でピロリ菌陽性」と診断されると、精密検査として胃カメラを受けなければいけなくなります。

しかし先ほど書いたように、当時は潰瘍や胃がんの既往がなければ除菌適応がありませんでした。

私は「明らかにピロリ菌がいる胃粘膜なのに」と思いつつも、患者さんへの説明のときは自費診療でしか除菌ができないことを話していました。

自費診療であると、当然除菌費用が高くなります。

除菌薬が7000円近くかかり、除菌ができた場合の判定も2000円前後かかります(除菌判定はとても大切です)。

当時の除菌成功率は60~70%でした(まだ胃酸をしっかりと抑える薬がありませんでした)ので、不成功ならばもう一度自費診療で2次除菌をすることになります。

この時期の多くの消化器内科医は、「検診採血でピロリ菌陽性が分かっているのに、除菌できない」というジレンマを感じていたと思います。

そして2013年になり、ピロリ菌がいる患者さん全員に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という病名で、除菌治療が保険適応となりました。

この2013年以降、「ピロリ菌総除菌時代」に突入したと呼ばれるようになります。

つまり、

1.20歳以上の方で、胃カメラで胃粘膜の萎縮やヘリコバクターピロリ胃炎を確認できる

2.ピロリ菌感染の検査して、陽性である

という2つの条件を満たせば、全員除菌治療ができるようになりました。

現在では胃酸を抑える効果の強い薬が登場したことから、1次除菌・2次除菌ともに90%を超える成功率になっています(もう少し低いという報告もあります)。

そして水道環境が改善した現代において、ピロリ菌感染者が明らかに減少しています。

数年前までは、「自分がピロリ菌に感染している確率」を割り出す簡単な方法がありました。

式「自分の年齢が、だいたいピロリ菌に感染している確率である」

今あなたが40歳ならば、40%。60歳ならば60%ということです。

この説明は、患者さんにとって非常にわかりやすくて良かったのですが、この数年で上記式よりもさらに感染率が下がっているように感じています。

 

そのようなわけで、2019年3月末現在、

〇 ピロリ菌に感染している成人は、胃カメラで感染粘膜を確認すれば全員除菌適応があります。そして、

〇 ピロリ菌感染者は年々減ってきています

予防医療普及協会と協会に賛同した堀江貴文さんが、ピロリ菌除菌プロジェクト「ピ」を積極的に行っていることも大きいと思います。

 

これまで多くの患者さんで胃カメラをしてきましたが、

① ピロリ菌を除菌していなくても、生涯胃がんにならない方が数多くいる(除菌しなくてよいという意味ではありませんよ)

② ピロリ菌の除菌をしても、その後に胃がんができる方が少なからずいる

③ これまでピロリ菌に感染していなくても、胃がんができる方がときどきいる(「胃底腺型胃がん」が代表的で、胃がん全体の約1%です)

ことです。

②③の方がいますので、私は40歳以上の方には1年に1度の胃カメラをお勧めしています。

 

私は特に、この①が昔から気になっていました。

実は、ピロリ菌は世界中で最も一般的な細菌感染であり、世界人口の50%以上に感染しています

しかし結果的に、感染している方のわずか1~3%しか胃がんを発症しません

「ピロリ菌に感染している方で、胃がんになる人とならない人の違いは何だろうか?」

最近になって、この答えが明らかになりつつあります。

これは近年の遺伝子解析とデータ分析が向上したことで、「腸内環境と胃内環境の分析」が飛躍的に進んでいるためです。

どうやら「胃がんができる理由は、ピロリ菌だけではない」ようなのです。

胃がんができた方の「胃内環境」を分析してみると、

① ヘリコバクター属の存在量が有意に減少している

② シトロバクター、クロストリジウム、ラクトバチラス、アクロモバクター、ロドコッカス属が多くなっている

③ 口腔内に共生するフソバクテリウム、ヴェイオネラ、レプトトリキア、ヘモフィリス属も多くなっている

④ 硝酸レダクターゼ活性が高くなっている

ことが分かってきました。

②や③の細菌を、「共生細菌(pathobiont)←今日のキーワードです」といいます。

②と③から言えることは、長期にピロリ菌に感染することで、胃の発がんにつながるような炎症反応を起こす「共生細菌」の増殖を促す可能性があることです。

そして「これらの共生細菌は、大腸がんや乳がんの患者さんの胃内・腸内環境にも共通している」ことが分かってきました。

この方たちの胃内・腸内環境の状態を「dysbiosis(消化管内のフローラ異常)」といいます。

このことが分かってきたと知ったとき、私はとても興奮しました。

「アニサキス」という線虫(魚に潜んでいる寄生虫です)が、がんのニオイを嗅ぎ分けて近寄ってくる理由も何となく分かった気がしました。

アニサキスに好かれるタイプ?

このことから

「腸内環境」だけでなく、「胃内環境」という言葉があること、それから

胃の「発がんカスケード」が解明されつつあること、そして

消化管内のフローラを積極的に改善すれば、胃がんや大腸がんをはじめ全身のがんを予防できる可能性があること(これは私の推測です)

が分かりました。

今後の遺伝子解析とデータ分析で、近い将来胃がんの発症メカニズムが明らかになることでしょう。

 

まとめです。

①②③は、みなさま必ず覚えていてください。

④⑤⑥は、興味のある方のみ知ってください。

① 胃がんの一番の原因は、ピロリ菌である

② ピロリ菌が陽性であるならば、胃がん予防のために除菌治療をした方がよい

③ ピロリ菌の除菌をしても、以後胃がんになることが少なからずある

 

④ ピロリ菌の除菌をしていないのに、生涯胃がんにかからない人が多くいる

⑤ ピロリ菌の長期感染が、胃の発がんを誘発するような炎症反応を起こす「共生細菌」を促している

⑥ 私の持論ですが、整腸剤で胃・腸内環境を整えていくとがんの予防に寄与する可能性がある

 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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秋山 祖久総院長

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。