福岡天神内視鏡クリニックブログ

ピロリ菌のことを詳しく知ろう

おはようございます。医師の秋山です。

今回は、ピロリ菌について書きたいと思います。

ピロリ菌除菌が2013年から保険適応となって以来、「ピロリ菌」が一気に注目されるようになりました。

来院される患者さんも、ピロリ菌についてとても興味を持っている方が多くいます。

そこでピロリ菌についてもっと知っていただいて、「胃がんの予防・早期発見」の意識が高まったらよいなと思っています。

 

数年前、東京で開催されたヘリコバクター学会総会に参加しました。

その時に学会の理事(だったでしょうか)である偉い先生から、ピロリ菌について面白い話を聞きました。

それは「ピロリ菌のことを責めないで」という内容でした。

江戸時代までの日本人の寿命は、おおよそ40歳以下だったといわれています。

子供の頃に亡くなる割合もとても多かったようです。

平均寿命が50歳を超えたのは1947年(昭和22年)です。

織田信長の「人生50年」は事実であり、実際の当時の寿命はもっと短かったことが分かります。

そこで、学会の先生の言いたいことが分かりました。

① 昔は胃がんが原因で亡くなる人はほとんどいなかった。

私はこれを聞いたとき、衝撃を受けたことを覚えています。

「胃がんは現代病」であるということです。

つまりこの70年くらいで平均寿命が延びたことで、胃がんが原因で亡くなる人がでてきたわけです。

つまり、ほとんどの日本人の胃にピロリ菌は生息していた。

でも胃がんになる前に亡くなっていたので、ピロリ菌が注目されることはなかった。

ちなみにピロリ菌が胃がんの原因とであると発見されたのは、1979年から1984年にかけてです。

② ピロリ菌が胃の痛みや胃もたれを起こすのは10人に1人くらい

ですので、昔のほぼほぼすべての日本人の胃にピロリ菌がいたのだろうが、それが生活の支障になることはなかった

40歳あたりから少しずつ胃がんにかかる人が出てきて、50代60代70代~とだんだん増加していきます。

人生50年時代では人間の胃の中でうまく共生していたのに、ここ最近になってピロリ菌は諸悪の根源のように敵対視されるようになったのです。

「ピロリ菌の気持ちになると、可愛そうですよね」

という話でした。

最近のピロリ菌の話題が集まる学会総会ですが、私はこの話が大いに腑に落ち、一番印象に残っています。

さて、胃カメラを受けに来る患者さんで、

「ピロリ菌を調べてほしい」

「ピロリ菌を撃退してほしい」

という方がとても多くなったことを毎日感じています。

それだけピロリ菌が注目されるようになったことは、大変嬉しく思っています。しかし、

「胃カメラはしたくないけど、採血などでピロリ菌だけいるかいないか調べてほしい。」

「検診採血でピロリ菌陰性と言われたので、レントゲンしか受けません。」

という方が多いので、私は正しい知識を持ってほしいと考えています。それは、

③ 大切なのはピロリ菌の有無ではなく、胃がんで亡くならないこと

です。ピロリ菌がいても、生涯胃がんにならない人もたくさんいます。

逆に採血でピロリ菌陰性の人でも、胃がんになる人はけっこういます

採血でピロリ菌陰性の場合、次の2つが考えられます。

● もともとピロリ菌に感染していない

この方は胃の粘膜がとてもキレイですし、実際生涯において胃がんになるリスクは少ないでしょう、

● もともとピロリ菌がいたけれど、いなくなってしまった。

こちらは「良かった」のではないのです。

ピロリ菌が胃に慢性的に炎症を起こし続けて、胃粘膜を散々荒らした結果、生息しにくい胃粘膜になってしまい退散してしまったのです。

これは胃がんのハイリスク群ということです。

ピロリ菌が現在いる人よりも、胃がんリスクが高いとも言えるでしょう。

ということで、

④ 胃がんのリスクが高いかどうかは、胃カメラで粘膜を確かめるのが一番確実です。

もう一つ警鐘をならしたいのは、ピロリ菌除菌後です。

「ピロリ菌除菌をしたけれど、除菌できたかの判定をしていない」

「ピロリ菌除菌が成功したので、もう胃カメラをする必要がなくなった」

というのを聞くと、とても心配になります。

⑤ ピロリ菌1次除菌成功率は、80%前後です(諸説あり、最近は90%くらいともいわれています)

ですから逆に言うと、2割の人は除菌薬を飲んでもピロリ菌がそのまま居続けていることになります。

ピロリ菌は、「少しいなくなる」というものではなく、白か黒か(いなくなるか平然と居続けるか)のどっちかです。

大切なことは、

⑥ 「除菌薬を飲んだら(1週間飲みます)、しっかりと除菌判定をすること」です。そして

⑦ 「除菌判定は検診採血でしないこと」を注意喚起したいと思います。

なぜかというと、

⑧ 「ピロリ菌採血は除菌が成功していても5~6年間くらいは陽性として数値化される」からです。そして

⑨ 「除菌が上手くいっても、生涯の胃がんのリスクがゼロにはならない」ことも大切です。

2013年からはピロリ菌除菌が保険適応となり、日本は「ピロリ菌総除菌時代」「ピロリ菌撲滅時代」と言われるようになりました。

しかし、「ピロリ菌さえいなくなれば大丈夫」と誤解されている方が多くなったことは、私は危惧しています

胃がんの予防・早期発見をしていきましょう。

私達クリニックの医師は、「ピロリ菌を撲滅しよう」と胃カメラをしているのではありません。

「胃がんで亡くなる人を減らしたい」ために、胃カメラを行っています

そして「胃がん早期発見への動機づけ」を毎日みなさまに呼び掛けています。

「ピロリ菌除菌はその目標の一部にすぎない」ことを知っていただけると、私はとても嬉しいです。

まとめ

●「胃がん」にならないために、ピロリ菌除菌をしていくことは大切です。

●でもピロリ菌を除菌しても、胃がんになることがあります。

●ピロリ菌のことだけに囚われず、正しい知識を持ってピロリ菌と向き合っていきましょう。

●最終目標は「胃がんにならないこと」ことではなく、「胃がんで亡くならないこと」です。

●万が一の胃がんの早期発見をするために、定期的な胃カメラを受けて「胃がんができないか、見張っておきましょう」。

 

 

 

 

 

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秋山 祖久総院長

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。