こんにちは、医師の秋山です。
前回は「胃レントゲン検査が勧められない理由」を書きました。
詳しくは、下記をご覧ください。
毎日胃カメラや大腸内視鏡検査をしている消化器医は、声を大にしては言えませんが、
”便潜血検査が無意味であること”を知っています。
ですから、私たちが便を提出することはありません。
その代わり、必ず定期的に大腸内視鏡検査を受けています。
内視鏡検査を受けなければ、「何もしていないのと同じ」ですから、大腸がんになってしまう確率が高くなります。
自らが胃がんや大腸がんにはなりたくないので、胃カメラは毎年、大腸内視鏡検査は数年に1回(ポリープが多発している間は1年に1回)受けるようにしています。
ほとんどの大腸ポリープが内視鏡で切除できます。
検査そのものが、大腸がんの予防になるのです。
「ポリープが大きくなってがんになる前に取ってしまう。」
これこそが大腸内視鏡検査を受ける、一番のメリットです。
便潜血検査はなぜ無意味なのでしょうか?
便潜血が陽性になる理由は以下の2つです。
① 大腸内に「進行がん」があり、便が腫瘍にこすれて出血している場合
進行大腸がん症例です。これくらい進行してやっと、便潜血が陽性になります。
他の進行大腸がん症例です。向こう側の大腸が見えなくなっていますので、腸閉塞を起こす一歩手前です。
ここまで進行して初めて、便潜血が陽性になります。
逆に言うと、大腸がんがここまで進行しなければ、便潜血は陽性になりません。
② 便の提出時に、肛門部が刺激で切れてしまった場合
便潜血陽性の方のほとんどが、この②が原因です。
検診で初めて便潜血検査が陽性になって、不安になっている方がたくさんいると思います。
でも、便潜血が陽性になる理由のほとんどが②なので、いたずらに不安を感じることなく、気楽に大腸内視鏡検査を受ければよいということになります。
次に便潜血が陰性になる理由を説明します。
陰性ならば関係ないのでは?と思われた方、ここに便潜血の大きな落とし穴があります。
① 大腸内に何も異常がない場合
大腸内視鏡検査でがんやポリープが見つからなかった場合は、今後大腸検査は数年ごとに1回で十分です。
② 大腸がんや大腸ポリープがあるが、便が腫瘍に擦れなかった場合
この②が厄介です。
ポリープが大腸がんがあっても、便が腫瘍に擦れなければ、理論的に便潜血は陰性になります。
この種類はLST(側方発育型腫瘍)と言われます。良性腫瘍であったり、一部ががん化している場合があります。
いずれにせよこの腫瘍は切除をしなければ、がんになるのは時間の問題です。
しかしこのような平たい腫瘍は、便が擦れないので便潜血は理論的に陰性になります。
ここまで見てくると、「何だ、もしかして便潜血って意味ないんじゃないか」
と思われるのではないかと思います。
その通りです。
これは便潜血の限界というか、そもそもが精度(陽性でがんである確率と、陰性でがんでないとはっきり言える確率)の低すぎる検査です。
ただ便に血がついているかどうかを見ているだけなので、仕方がないのかもしれません。
便潜血検査を「大腸がん検診」とするのは良くないと思います。
検診を受ける側は、便潜血で当然大腸がんの有無がわかると勘違いしてしまいます。
毎年真面目に便潜血検査を受けていた(陰性であった)人で、腹痛や嘔吐などの症状でたまたま大腸内視鏡検査を受けると、すでに進行大腸がんだった、という方が必ずと言っていいほどいらっしゃいます。
「便に血がついているかどうかの検査」と改めたほうが良いと思います。
”便潜血検査は、便に血がついてるかどうかを調べているに過ぎない”
この事実を知ったうえで、これからも便潜血検査を受けていくのがよいか、定期的に大腸内視鏡検査を受けてくのがよいかを選んでいただきたいと思います。
検診で便潜血が陽性で引っかかった場合、どのような対応になるでしょうか?
答えは、「大腸内視鏡検査を受けてください、というお手紙が送られてきます」となります。
ちなみに当院では、昨年7月の開院からこれまでで30人近くの大腸がんが見つかりました。
1週間に1人近く、新たな大腸がん患者さんがいる計算になります。
そしてその方々は、大腸検査受診理由が便潜血陽性でない場合がほとんどでした。
定期的な内視鏡検査をぜひご検討ください。