ヘリコバクター・ピロリ感染症
胃に関する項目
ヘリコバクター・ピロリ菌は、西オーストラリア大学のロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授により発見された胃の粘膜にすみついているらせん形の細菌です。ヘリコはヘリコプターのヘリコと同じで「らせん」とか「旋回」という意味です。ひげの部分を回転させて移動します。
1982年にはピロリ菌の分離培養に成功し、マーシャル教授は自身がピロリ菌を飲む実験を行い、ピロリ菌感染により急性胃炎を起こすことを確認したというエピソードは非常に有名です。
ヘリコバクター・ピロリ菌が発見されるまでは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍はストレスや生活習慣が主な原因と考えられていました。しかし、ヘリコバクター・ピロリ菌の発見により、胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんの発症にはピロリ菌感染が関わっていることが次々と証明され、これらの疾患の治療に大きな革命をもたらしました。
この成果によりロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授は2005年にノーベル医学生理学賞を受賞されています。
ピロリ菌は一般的に5歳までに感染すると言われています。このため、幼少期に衛生環境が良くなかった年代では感染率が高く、70歳代では50~60%の感染率と報告されています。
環境が整った現代では、感染率は低下してきており、10代の感染率は2%、20代の感染率は10%、40代では20%と年齢が下がるにつれて感染率は低下しています。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、口から菌が胃内に侵入することによって感染が成立する経口感染で感染します。
主な感染経路は、ピロリ菌に汚染された井戸水などの飲水やピロリ菌に感染した人の唾液からの経口感染です。特にピロリ菌に感染した両親や祖父母が口移しなどで子供に食事を与えることで感染が成立することが多いと考えられています。
ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると何が起きるの?
ヘリコバクター・ピロリ菌が胃粘膜に感染するとピロリ菌が産生する病原性タンパク質により胃粘膜に持続的な炎症が引き起こされ、慢性活動性胃炎の状態になります。
慢性活動性胃炎が継続すると徐々に胃粘膜が薄くなっていく胃の老化(胃粘膜の萎縮)が進行します。胃粘膜の萎縮が進行すると、胃の機能が低下するため、胃酸の分泌が減少し、消化不良や胃の不快感などの症状が出現します。
ピロリ菌感染が起こると、除菌するまで慢性活動性胃炎が継続・進行し、胃粘膜の萎縮が進行すると胃がんが発生しやすくなります。日本人の場合、ピロリ菌感染者の胃がんの発がんリスクはピロリ菌未感染者の約10倍以上と報告されています。
ピロリ菌に感染すると必ず胃がんになるというわけではありませんが、胃がん患者の90%以上はピロリ菌に感染していたという報告やピロリ菌感染者は80歳までに20人に1人の確率で胃がんになるとの報告もあります。
その他にもヘリコバクター・ピロリ菌感染は、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血、機能性ディスペプシア、慢性蕁麻疹などの原因にもなると言われています。
ピロリ菌に感染しているかを調べるにはどうすれば良いの?
ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査には胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を用いて調べる方法と胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を用いずに調べる方法があります。
詳細はピロリ菌検査についてのページをご参照ください。
ピロリ菌感染がある場合、除菌治療はどのようにするの?
ヘリコバクター・ピロリ菌感染がある場合、胃がんのリスクを高めるだけでなく、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血、機能性ディスペプシア、慢性蕁麻疹などの原因にもなるため、除菌治療を受けることをお勧め致します。
保険診療でピロリ菌の除菌治療を行う場合は、6ヶ月以内に胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受けていない場合、除菌前に胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受ける必要があります。
除菌治療は、2種類の抗生剤と1種類の胃酸を強力に抑える胃薬を1日2回1週間服用することで行います。抗生剤の服用で下痢を起こすことが多いため、下痢予防のための整腸剤も1週間合わせて服用します。
除菌薬を服用中にアルコールを摂取すると除菌の成功率が低下したり、肝炎を起こすことがあるため、治療中の1週間は禁酒が必要になります。
残念ながら除菌の成功率は100%ではないため、福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院では除菌薬服用終了後に1ヶ月以上間を空けて尿素呼気試験で除菌が成功したかどうかの判定を行います。
初めての除菌治療(一次除菌)で失敗した場合は、一次除菌の抗生剤に耐性を持ったピロリ菌に感染しているということになるため、抗生剤の種類を変えて2回目の除菌治療(二次除菌)を1日2回1週間服用で行います。二次除菌も保険適応です。二次除菌後も尿素呼気試験を行い、除菌が成功したかどうかの判定を行います。
保険適応での除菌治療は二次除菌までです。
このため、二次除菌が失敗した場合の3回目以降の除菌治療は保険適応が無く、自費診療となります。三次除菌は、各医療機関ごとに治療に使用する薬の種類も異なり、また、かかる費用も異なります。福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院では、色々な文献などによる報告を参考にして、現在、最適と考えられるクスリの組み合わせで三次除菌を自費診療で行っています。
三次除菌をご希望の方は、担当医にご相談ください。
抗生剤服用による腸内細菌叢のバランスの崩れから軟便や下痢を起こすことがあります。
また、味覚障害や肝機能障害、痒みや発疹などのアレルギー症状が出ることもあります。除菌薬服用中に気になる症状が出現した場合は、必ず担当医にご相談ください。
ピロリ菌除菌後は年に1回胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受けましょう
ピロリ菌除菌が成功しても残念ながらそれまでにピロリ菌に感染していた影響をゼロにすることは出来ません。除菌後は徐々に健康な胃に近づいていきますが、ピロリ菌に未感染の人と比較すると、胃がんのリスクが高い状況が続きます。
このため、ピロリ菌除菌後は、年に1回の胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受けることで、胃がんなどが出来ていないかを定期的に確認することが最も大切です。
お気軽にご相談ください。
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。