胃がん
胃に関する項目
2019年のデータによると日本における胃がんの死亡数は、男性2位、女性4位と非常に多いがんです。以前は右肩上がりに患者数が増加傾向でしたが、近年は横ばいです。
国立がん研究センターによると2009年~2011年に胃がんと診断された患者さん全体の5年生存率(診断から5年後に生存している患者さんの割合)は、男性は67.5%、女性は64.6%と報告されています。
しかし、胃がんは早期発見が出来れば比較的治療成績が良いがんの1つです。
早期がんの中でもがんの深さが粘膜層までにとどまった極めて早期のものは、胃内視鏡(胃カメラ)を用いた内視鏡手術(腫瘍の部分だけを胃カメラでくり抜く手術です。外科手術ではないため食道が温存可能で術後の後遺症もありません)のみで治癒が目指せます。このため、検診などで定期的な胃内視鏡検査(胃カメラ検査)を行い、早期発見することが重要です。
胃がんは、飲ヘリコバクター・ピロリ菌感染ががんの発生に強く関与していることが分かっています。自覚症状がなくても成人したら一度は胃内視鏡検査(胃カメラ検査)を受け、ピロリ菌感染が内かどうかを調べることをお勧め致します。
また、「胃やみぞおちが痛む」「胃が重たい」「食欲がわかない」「吐き気が続いたり、嘔吐を繰り返す」といった症状がある場合は、その症状の原因が胃がんである可能性があります。症状が治まるからストレスなどによる胃炎の症状だろうと自己判断せずに症状がある場合は、必ず消化器内科を受診し、原因を調べてもらいましょう。
胃壁は、内側から外側に向かって粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層から構成されています。
胃がんは、胃壁の最も内側にある粘膜上皮内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になることで発生します。その後、がん細胞が無秩序に増殖し、がんが増大するにつれて粘膜上皮から粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜へと外側に向かって深く浸潤していきます。がん細胞が漿膜外まで浸潤すると、膵臓や大腸などの周辺臓器へ直接浸潤してさらに拡がっていきます。がん細胞が漿膜外まで浸潤すると、お腹の中にがん細胞がばらまかれる腹膜播種を起こすこともあります。また、がん細胞がリンパ管や血管内に入るとリンパ節転移や肺や肝臓などの遠く離れた臓器に転移(遠隔転移)を起こします。
胃がんの組織型は、90%以上が腺がんです。腺がんは、細胞の特徴から、分化型と未分化型に分類されます。一般的に、分化型は進行速度がゆっくりで、未分化型は進行速度が速い傾向にあります。
がん細胞が正常な胃粘膜の下に拡がって浸潤し、粘膜表面に腫瘍があまり露出しない特殊な胃がんがスキルス胃がんです。スキルス胃がんの組織型の多くは未分化型ですが、未分化型胃がんが必ずスキルス胃がんになるわけではありません。
スキルス胃がんは、早期の段階では病変が粘膜面に露出することが少なく、胃内視鏡検査(胃カメラ)で見つけるのが難しいケースが多く、内視鏡医泣かせの胃がんです。症状が出現してから、検査を受けた場合、その多くは進行がんで見つかると言われています。
胃体部の早期胃がん
早期胃がんの場合は、サイズが大きくてもほとんどの場合、自覚症状はありません。
胃の出口である幽門部の進行胃がん
胃がんにより胃の出口が狭くなるため、食欲不振や嘔気・嘔吐、体重減少などの自覚症状が出現する可能性が高くなります。
胃がん発生の危険因子としては、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、食塩の過剰摂取、喫煙、βカロテンの摂取不足などが報告されています。この中でも最も胃がん発生に関係している危険因子は、ヘリコバクター・ピロリ菌感染です。胃がんの99%はピロリ菌関連によるものと考えられています。
胃がんの症状には、胃がん自体による症状と、胃がんがあることで起こる胃炎などによる症状があります。実際にはこれらを区別することは困難です。
早期胃がんの場合、自覚症状は無いことが多く、がんが進行していくにつれて症状が出現し始めます。早期胃がんで症状を認める場合は、がんに合併する胃潰瘍や慢性胃炎による症状の場合がほとんどです。
進行胃がんの場合、食欲低下、吐き気や嘔吐、胃もたれ、食事がつかえる、胸やけ、みぞおちの痛み、吐血・下血、体重減少などの症状が出現します。
「胃がんの症状について」で説明したような症状がある場合は、まず胃がんがあるかどうかを調べるための検査を受けましょう。
胃がんがあるかどうかを調べるための検査としては、胃レントゲン検査(胃透視検査)と胃内視鏡検査(胃カメラ検査)がありますが、絶対に胃内視鏡検査(胃カメラ検査)をお勧め致します。
胃レントゲン検査は、胃がんの診断がついた場合に、胃がんの壁深達度(T因子)や病期(ステージ)分類を評価するために行う検査としては凄く有用な検査ですが、粘膜の微細な変化しか認めない早期の胃がんを見つけるための検査としては不向きな検査です。
一方、胃内視鏡検査(胃カメラ検査)は粘膜の微細な変化しか認めない早期の胃がんであっても見つけることが可能です。
胃内視鏡検査(胃カメラ検査)の場合は、観察に加えて少しでも胃がんが疑われた際には、癌が疑われた部分から細胞を一部とって顕微鏡で調べる生検による病理組織診断も併せて行い確定診断が可能です。
胃がんの診断が確定した場合は、治療方法を決定するために胃がんの進行度(病期:ステージ)を確認するために全身のCT検査を行います。CTでは、リンパ節や他臓器へ直接浸潤の有無や転移の有無を調べることが出来ます。
また、治療として外科手術を行う場合は、病変部の正確な位置や拡がりの程度、病変部と食道や十二指腸との距離などを確認するために胃レントゲン検査(胃透視検査)を行います。胃レントゲン検査(胃透視検査)は、早期胃がんの発見という点では、胃内視鏡検査(胃カメラ検査)に劣りますが、手術前のシミュレーションに重要な胃と病変部の全体像の把握には非常に有用な情報が得られる大切な検査です。
胃がんが胃壁のどこまで深くもぐり込んでいるかを表すものを壁深達度(T因子)といいます。
壁深達度(T因子)は、がんが胃壁のどの層まで浸潤しているかによって下記のようにT1からT4に分類されます。
T1a:粘膜内にとどまる病変(M:mucosa)
T1b:粘膜下層までにとどまる病変(SM:submucosa)
T2:がんの浸潤が粘膜下層を越えているが固有筋層までにとどまる病変(MP:muscularis propria)
T3:がんの浸潤が固有筋層を越えているが漿膜下組織にとどまる病変(SS:subserosa)
T4a:がんの浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って有利腹腔に露出している病変(SE:tumor penetration of serosa)
T4b:がんの浸潤が直接他臓器まで及ぶ病変(SI:tumor invasion of adjacent structures)
胃がんは上に示した壁深達度(T因子)によって下記のように早期胃がん、進行胃がんと分類しますが、この分類は、がんが胃壁にもぐり込んでいる深さだけで決めたものであり、リンパ節転移があるかどうかを考慮していないため、実際のがんの進行度とは一致しない分類です。
早期胃がん:がんが粘膜および粘膜下層にとどまるもの。T1a病変、T1b病変が該当します。
進行胃がん:粘膜下層より深い層まで及んでいるもの。T2からT4病変が該当します。
胃がんは胃の粘膜から発生しますが、胃粘膜は血管やリンパ組織がほとんど無いため、がん細胞が粘膜内にとどまっているうちは、ほとんど転移を起こしません。
がん細胞が粘膜より少し深い粘膜下層まで浸潤すると、粘膜下層には血管やリンパ組織が豊富にあるため、転移を起こすようになります。しかし、粘膜下層までの胃がんは転移が認められても、その大部分は胃に接するリンパ節への転移であるため、外科切除で一緒に切除ができれば治る可能性が高くなります。
さらにがんが進行し、がん細胞が固有筋層に達したり、あるいはこれを越えて深くまで浸潤すると広範囲に転移しやすくなり、外科手術では全てのがんを取り除けなかったり、取り除けたと思っていても再発する可能性が高くなります。そこで、がんの浸潤が粘膜と粘膜下層までのものを早期がん、それ以上のものを進行がんと呼んで区別しています。
残念ながら胃がんと診断されてしまった場合は、進行具合や年齢、基礎疾患、ライフスタイルに応じて一人一人の患者様にあった治療方法を選択し、治療を行います。
胃がんの治療としては、大きく分けて内視鏡治療、外科手術、化学療法(抗がん剤治療)の3つがあります。それぞれの治療法の特長を生かしながら、患者様の状態にあわせて単独または組み合わせた治療を行います。
内視鏡治療は、胃内視鏡(胃カメラ)を用いて胃の内側からがんを切除する方法です。がんの部分だけを取り残しがないように注意しながら内側からくり抜くようにして切除するため、手術をした部分以外には傷は出来ず、また胃もそのまま温存できる治療です。
がんの部分だけしか切除できないため、リンパ節転移がない壁深達度(T因子)T1aの粘膜内病変が治療の対象となります。
切除後の病理組織検査(顕微鏡でがん細胞が取り切れているかどうかを調べる検査)でがんが残っている可能性があったり、壁深達度(T因子)が術前の予想よりも深かった場合や将来リンパ節転移を起こす可能性が高いと判断された場合は、追加で外科手術や抗がん剤治療を行うことがあります。
切除する際に使用する器具や切除方法により、内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)という2種類の手術方法があります。
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)は電気メスの輪(スネア)で病変をつかんで切除するイメージです。電気メスの輪(スネア)の中におさまる比較的小さなサイズの病変に対して行います。
一方、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)は電気メスのナイフやハサミを使って病変を周りからはぎ取っていく感じで切除するイメージです。切除対象となる病変のサイズに制限がないため大きなサイズの病変に対して行います。
★★入院加療が可能な施設でないと出来ない治療のため、当クリニックでは行っておりません。
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)
① 病変直下の粘膜下層に生理食塩水などを注入して、病変部を周辺より浮きあがらせます。
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)
② 浮き上がった病変部の根元に周囲の正常部分を少し含めて電気メスの輪(スネア)をかけます。
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)
③ スネアを少しずつ絞っていき高周波の電流を用いて切除します。
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopicmucosal resection)
④ 切除後は病変の取り残しがないことを確認し、出血などがあれば止血を行います。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)
① 切除範囲を決めるための目印をつけます。これをマーキングと言います。病変の取り残しがでないように周囲の正常部分を少し含めて病変よりやや広めにマーキングします。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)
② 病変直下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入して、病変部を周辺より浮きあがらせます。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)
③ 病変部を確実に切除するためにマーキングした部分よりやや外側の粘膜を切除していきます。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)
④ 病変部の取り残しが出ないように粘膜下層ではぎ取るように切除します。切除後は病変の取り残しがないことを確認し、出血などがあれば止血を行います。
他臓器転移が無く病変部が粘膜下層以深に浸潤している胃がんに対する標準治療です。年齢、基礎疾患の有無などの全身状態を考慮して、外科手術を行うかどうかを検討します。
がんを含む胃を外科的に切除します。
また、転移している、将来転移する可能性のあるリンパ節を含めた周囲の組織も併せて切除します。これをリンパ節郭清といいます。
さらにリンパ節転移の程度など胃がんの進行状況に応じて、手術前や手術後に抗がん剤による化学療法を組み合わせ根治を目指す治療を行うこともあります。
★★入院加療が可能な施設でないと出来ない治療のため、当クリニックでは行っておりません。
抗がん剤を用いた薬によるがん治療を化学療法と言います。
胃がんの病期(ステージ)分類により治療の目的が異なります。
外科手術加療を行う場合は、手術加療による治療成績を良くするためにサポートとして化学療法を行います。患者様の状態や胃がんの進行具合に応じて、手術前や手術後に治療します。
胃以外の他臓器への血行性の遠隔転移がある病期(ステージ)分類ⅣaやⅣbでは手術で全てのがん細胞を取り除くことができないため、がんの縮小を目指して化学療法を行います。
★★入院加療が可能な施設でないと出来ない治療のため、当クリニックでは行っておりません。
症状の原因が特定できれば、治療が可能ですが、胃や腸に症状の原因がないかを診断する為には、内視鏡検査などでの原因検索が必要です。
当クリニックでは、「苦しさと痛みに配慮した胃大腸内視鏡検査」を患者様に提供することを第一に考え、皆様から検査後に「思った以上に楽だった」と思っていただける内視鏡検査を実践しています。当クリニックの内視鏡専門医は、臓器のポイント毎にどのような内視鏡操作を行えば苦しさと痛みに配慮した検査になるのかを熟知しております。これまで培ってきた内視鏡技術の経験を十分に活かし、検査を行っています。安心してお任せください。
また、最新の機器を使用し、その知識と技術を駆使して正確な内視鏡診断を行っています。皆様が消化管がんにかかり健康を損ねることがないよう最大限のサポートが出来るよう日々努力しております。まずはお気軽にご相談ください。
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。