内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

胃の痛みや不快は「機能性ディスペプシア」、便秘や下痢、下腹部のはりなどは「過敏性腸症候群」が大部分の原因であることをご存じですか?

「ストレス社会」と言われることが多い現代においては、胃や腸にストレス刺激が加わることにより、「胃痛、胃の不快感」などの上腹部症状や「便秘や下痢、腹痛」などの下腹部症状に悩まされる患者さんが増えていると日々の診療を通して感じています。そのため、多くの方が胃腸の働きの異常である「機能性ディスペプシア」や「過敏性腸症候群」と診断されるようになってきました。
ただし、その症状の裏には「胃がん」や「大腸がん」などの怖い病気が隠れている可能性もありますので、一度はきちんと内視鏡検査を受けられることをお薦めします。

最近、多くの患者さんを診察しているとあることに気づきます

それは、胃カメラをして「胃潰瘍」「胃がん」といった悪い病気がないにもかかわらず、「胃が痛い」「胃がもたれる」といったつらい症状で悩んでいる方がとても多くなっていることです。
また大腸に関しても同様で、大腸内視鏡検査で「大腸がん」や「大腸炎」といった病気がないにもかかわらず、「お腹が張る」、「お腹が痛くなる」、「下痢や便秘を繰り返して便通が整わない」、「いつもトイレに行きたくなって不安になる」といった症状で悩んでいる方も多くなっています。
原因となる目に見える病気がないのに、症状が続いてよくならない。これはいったいどういうことなのでしょうか?
実は胃や腸には非常に多くの神経細胞が存在し、脳と胃腸には複雑な神経のネットワークが張り巡らされています。
特に大腸は脳の次に神経細胞が多く、「第2の脳」と言われています。人間の先祖である、地球に初めて存在した生物は腸からできたとも言われています。ただの食べ物が通過する管ではなかったのです。

最近では胃や腸のストレス刺激に対する「感受性が高い」方が増えてきているといわれています。

たとえば何らかの精神的なストレスを感じたときに、人によっては頭痛がしたり肩こりがひどくなったりします。そのストレスが胃腸に現れる人たちが最近増えていると考えられています。
このような症状がある方が気を付けなければいけないのは、この症状が「胃がん」や「大腸がん」などの怖い病気からきている症状ではないことをきちんと否定することです(早期の胃がんや大腸がんでは症状が出ることはほとんどありませんので、実際に症状が出るような状況であればかなりがんが進行している可能性があります)。

そのためにも一度は胃カメラ・大腸内視鏡検査を受けるようにしてください。

内視鏡検査によってがんや潰瘍などの病気が否定できたなら、「機能性ディスペプシア」や「過敏性腸症候群」の可能性が高まってきます(胃のつらい症状があるのに、目に見える病気が見つからない場合は「機能性ディスペプシア」と診断できます。
そして下痢や便秘などのお腹のつらい症状があるのに、目に見える病気がない場合は「過敏性腸症候群」と診断できます)。
このように、きちんとした診断名がつくことをまず知っておきましょう。今までは「ストレス性の胃炎」とか「気のせい」などと言われてしまい、自分は胃や腸が弱いのだと悩んでいた方にも、きちんとした診断名があり、それに合わせた適切な治療を受けることができ、それによって症状の改善が期待できます。

「悪い病気はないのだ、この症状で命を落とすことはないのだ」と認識できれば、それだけでも精神的な負担も軽くなり、症状の改善につながることも多く見受けられます。

実際、内視鏡検査を受けて、医師からきちんと説明を受けて症状の概念を認識しただけで、症状がすっかり取れてしまうこともよくあります。目に見えない不安からくる症状であることの証拠だと思われます。
最近では症状の機序が少しずつ解明されてきており、症状を改善するようなお薬も出てきています。
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一度、内視鏡検査を受けて、がんや潰瘍などの実際の病気がないことをきちんと確認して、自分の症状の原因を理解することで
「長年続いていたつらい症状はどこにいったのだろう?」と思うくらい、症状が改善することもあります。
胃や大腸の症状でお困りの方は、一度ご相談ください。

症例 01 「神経性の胃炎」として放置せず、「機能性ディスペプシア」と診断【50歳代の男性】

いつも食後の胃もたれを感じていました。まずは内視鏡検査をお薦めしました。
胃の内視鏡写真です。胃がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍などは認められませんでした。
「神経性の胃炎」として放置せず、「機能性ディスペプシア」と診断し、薬などは服用せずに生活習慣の改善のみで数週間で症状は改善しました。

症例 02 「過敏性腸症候群」と診断【40歳代の女性】

長年、ストレスでお腹が痛くなりやすく下痢しやすいと受診されました。まずは大腸内視鏡検査を行いました。大腸がんや大腸ポリープ、大腸炎などは認めませんでした。非常にきれいな大腸でした。
「過敏性腸症候群」と診断し、適切な治療方針を組むことができました。
生活習慣や食生活の改善、内服治療などで症状は改善傾向です。
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この記事を書いた人

平島 徹朗医師

国立佐賀大学医学部 卒業。
大分大学医学部附属病院消化器内科、国立がん研究センター中央病院内視鏡部など、多くの病院・内視鏡専門クリニックで消化器内視鏡診断・治療を習得後、2011年たまプラーザ南口胃腸内科クリニック開院。