内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

データから見えてくる日本における「がん」の現状と今後

日本人の死因の1位は「がん」というデータ

日本人の死因の1位は「がん」、2人に1人が「がん」にかかり、3人に1人が「がん」で亡くなっています。
医療技術は日々進歩しているとはいえ、今後は一番重要なのが「がんにならないための予防医療」、その次に「がんの早期発見、早期治療」が大事になってきます。
(データ資料)国立がん研究センターがん対策情報センター2010年度
現在、「がん」が日本人の死因1位となっており、1985年に比べ2015年のがん死亡者数は約2倍と年々増加傾向にあります。
医療技術の進歩により、多くの身体の部位でがんの生存率は上昇傾向にありますが、高齢化の影響などでがんにかかる方、亡くなる方は逆に増加していく傾向にあります。
生涯で男女ともに2人に1人が「がん」にかかり、3人に1人が「がん」で亡くなる傾向となっております。
(データ資料)国立がん研究センターがん対策情報センター2008年度
統計でみると、2015年にがんで死亡した人は37万346人(男性21万9508人、女性15万838人)となっています。男性が女性の約1.5倍となっています。
男性では、1位が肺がん、2位が胃がん3位が大腸がん
女性では、1位が大腸がん、2位が肺がん、3位が胃がんとなっています。男女とも上位3つは大腸がん・胃がん・肺がんが占めており、男女合計では1位が肺がん、2位が大腸がん、3位が胃がんとなっております。
肺がんの早期発見・早期治療には数ミリ単位での発見が可能なマルチスライス胸部CTが役立ちますし、早期胃がん・大腸がんの早期発見・早期治療にはハイビジョン内視鏡での定期検査が絶大な威力を発揮します。これら3つの「がん」を予防または早期発見・早期治療することができれば、「がん」で亡くなる確率を大幅に下げることが可能となります。

部位別がん死亡率(全年齢) - 2014年

資料:国立がん研究センターがん対策情報センター
Source:Center for Cancer Control and Information Services , National Cencer Center , Japan
(データ資料)国立がん研究センターがん対策情報センター2008年度
また、死亡者数とは違い、罹患数(かかる数)は86万5238人(2012年)となっています。
死亡者数の順位とは異なり、かかる数(罹患数)の順位としては、
男性では、1位が胃がん、2位が大腸がん、3位が肺がん、4位が前立腺がん
女性では、1位が乳がん、2位が大腸がん、3位が胃がん、4位が肺がんとなっています。
やはり、胃がん・大腸がんが上位3つを占めており、死因と罹患数の上位3つのうちの2つを常に占めていることになります。これら2つの「がん」を予防および早期発見・早期治療することができれば、「がん」で亡くなる確率を大幅に減らすことが可能となります。

部位別がん罹患率(全年齢) - 2012年

資料:国立がん研究センターがん対策情報センター
Source:Center for Cancer Control and Information Services , National Cencer Center , Japan
これからは、医療費削減のためにも、「がんの予防・早期発見・早期治療」がより重要になってきます。

医療技術の進歩により、がんの生存率は上昇しているため、現在は早期発見、早期治療で「がん」を完全に治すことができる時代となっています。

では、われわれはこのような「がん」全盛の時代にどのように対処すれば良いのでしょうか?

がん予防

「がん」の大部分は生活習慣病と言われているため、生活習慣の改善によるがんのリスク低下が最善の策と言われております

国立がん研究センター中央病院のがん予防・検診研究センター予防研究部のデータでは、
「喫煙」、「飲酒」、「食事」、「身体活動」、「体型」の5つの要因を改善および感染のリスクを下げることで、「がん」になるリスクが半分以下になると証明されています。

生活習慣の改善

食生活の改善、ダイエットによる肥満の改善、禁煙、適度な飲酒、適度な運動が「がん」予防には一番最適であると言われています。
多くの「がん」で、ライフスタイルの欧米化が要因と言われているため乳製品や肉類の過剰な摂取をやめ、適度な運動を習慣づけることが大事になります。また、咽頭がんと食道がんは喫煙、飲酒が大きな要因となるため禁煙、節酒・禁酒が薦められます。肺がんも喫煙が最も大きな要因となりますので、全く良い事がない喫煙は即刻止めることを強くお勧め致します(肺がんの一部は、喫煙と関係なく発生するものもあります)。

感染によるがんのリスク因子を排除する

がんには特有の原因となる物質が存在します。有名なのは胃がんとヘリコバクターピロリ菌です。ヘリコバクターピロリ菌を除菌することにより、胃がんの発生率が下がることがわかっています。また、C型肝炎、B型肝炎ウィルスにかかることにより、肝がんのリスクが高まります。子宮頸がんではヒトパピローマウイルス16・18型に感染することでリスクが高まります。

01 禁煙

タバコは絶対に吸わずに、他人のタバコの煙もできるだけ避けて受動喫煙をしないようにしましょう。
極端な言い方をすれば、受動喫煙により他人にタバコの煙を吸わせることは、殺人に近い行為 だとも言えます。

02 飲酒

節度ある量の飲酒が大切です。少量のアルコールで顔が赤くなる人は無理に飲まないようにすることが大切であり、ビールならジョッキ2杯まで、日本酒なら1合、ワインならボトル1/3程度までが適切な飲酒量と言われています。適切な量ならば、「がん」以外も含めた死亡率全体を低下させるというデータも出ていますので、ほどほどの飲酒が大切と言えます。

03 食事

動物性脂肪の多く含まれる乳製品や肉類の摂取はできるだけ控え、胃がんの大きな原因となっている塩分の過剰摂取は特に控えるようすると良いと言われています。塩分が胃がんのリスクを高めることは「ほぼ確実」という研究結果が出ており、1日に男性で9グラム以下、女性で7.5グラム以下に摂取を抑えることが推奨されています。食品成分が食塩ではなく、ナトリウムで表示されている場合は、ナトリウムを2.54倍すると塩分量に換算されますので、日々の継続的な節制が とても重要になってきます。

04 身体運動

下半身の筋肉は全身の筋肉の7割を占めると言われており、ウォーキングやランニングなどにより下半身の筋肉を鍛えることは非常に効率的な運動と言えます。軽く汗をかき、息が少しはずむ程度の運動をすると脂肪燃焼や筋肉を鍛える意味でも適切な運動と言えます。

05 体型

体重(㎏)を身長(㍍)の2乗で割ることによりBMIが算出されますが、一般男性で22以下、一般女性で25以下の範囲になるように体重のコントロールを行うことが重要となってきます。29年11月現在の私の身長171cm,体重62㎏でのBMIは62÷(1.71)の二乗で、21.23となり医学的に適切な体重であると言えます。逆に欧米人と比較して、日本人は太りすぎより痩せすぎの方が寿命を縮めているというデータもありますので、適切な体重にコントロールすることがより重要となってきます。

06 感染

肝がんにつながるB、C型肝炎ウイルスや胃がんにつながるヘリコバクターピロリ菌や子宮頚がんとの連のあるヒトパピローマウイルス16・18型などが代表的ながんに関連する「感染」となります。

がんの早期発見・早期治療

画像診断による定期検査が一番です。
すべてのがんに共通することですが、症状が出るころには手遅れになっていることが多くあります。早期発見・早期治療のためには症状が出ていない時に定期的に積極的に検査を受けることが一番です。
すべてのがんには、適切な検査があります。乳がんではマンモグラフィーや超音波検査・乳腺MRI検査、肺がんでは胸部CT検査、胃がんでは胃カメラ、大腸がんでは大腸内視鏡検査、前立腺がんでは採血でのPSA検査などです。
胃がんでは「胃レントゲン検査」、大腸がんにも「便潜血検査」という検査もありますが、早期発見・早期治療には全く適さない検査です。

胃レントゲン検査だけで済ませていませんか?
便潜血検査だけで済ませていませんか?

各臓器の特性に合わせた適切な検査を行うことで早期発見でき、早期治療ができます。
特に、胃がん、大腸がんは早期に発見することで5年生存率は95%以上であり、完治しやすい「がん」の代表と言えます。
早期の食道がん・胃がん・大腸がんであれば、おなかを切る開腹手術ではなく、内視鏡治療で完治することができ体への負担が格段に減りますし、入院日数や治療費も大幅に軽減することが可能となります。
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この記事を書いた人

平島 徹朗医師

国立佐賀大学医学部 卒業。
大分大学医学部附属病院消化器内科、国立がん研究センター中央病院内視鏡部など、多くの病院・内視鏡専門クリニックで消化器内視鏡診断・治療を習得後、2011年たまプラーザ南口胃腸内科クリニック開院。