内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

「便秘」のこと

今回は、「便秘」についてです。
「便秘」で悩まされている方は、少なくないと思います。
「便秘」について、概説いたします。
「便秘」とは
本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出出来ない状態
と定義づけされています。

「便秘」とは、症状名や疾患名ではなく、
・排便回数や排便量が少ないために大腸内に滞った状態
・直腸内にある糞便を快適に排便できない状態
です。

しかし、
・排便回数が少ないから
・排便困難感や残便感がある
といっても、必ずしも便秘症ではありません。

何らかの理由で経口摂取量が減少している場合は
本来体外に排出すべき糞便
の量が少ないため、
排便回数や排便量が少ないことは当然といえるからです。

また、強迫観念のために
本来体外に排出すべき糞便
が直腸内に存在しないにもかかわらず、
残便感を訴え、頻回にトイレに行く場合も、便秘症とはいえません。

「慢性便秘症」の分類

「慢性便秘症」の分類については
以下のようなものがあります。

1. 器質性便秘

大腸の形態的変化に伴う便秘

a)狭窄性
狭窄に糞便の通過が物理的に障害されることによっておこる便秘
原因:大腸がんやクローン病、虚血性大腸炎など

b)非狭窄性
狭窄はないが大腸の形態的変化によっておこる便秘
➀排便回数減少型
大腸が慢性的に著明に拡張し、糞便の通過が遅れ、排便回数や排便量が少なくなる便秘
原因:巨大結腸
②排便困難型
直腸の形態的変化によって、直腸にある糞便を十分かつ快適に排便できず、排便困難や残便感をおこす便秘
原因:直腸瘤、S状結腸瘤、巨大直腸症

2. 機能性便秘

大腸の形態的変化を伴わない便秘

a)排便回数減少型
排便回数や排便量が低下して、大腸に便がより多く貯留するため、腹部膨満などの症状をおこす便秘
大腸内での糞便の停滞時間が長いため、便が硬くなり排便困難をおこす場合もあります。
➀大腸通過遅延型
大腸が糞便を輸送する能力が低下しているため、便秘となる状態。
原因:原因不明、薬剤性、症候性など
②大腸通過正常型
大腸が糞便を輸送する能力が正常にもかかわらず、便秘となる状態。
原因:食事摂取量や食物繊維成分が少ないため、糞便量が減り、便が硬く便秘となります。

b)排便困難型
排便時に直腸内の糞便を十分かつ快適に排便できず、排便困難や残便感をおこす便秘
➀大腸通過正常型
排便回数や排便量が減っていないにもかかわらず、硬い便のため排便困難となる状態です。
原因:便秘型過敏性腸症候群
②機能性便排出障害
機能的な障害によって、直腸にある糞便を十分かつ快適に排便できず、排便困難や残便感をおこす便秘です。
原因:骨盤底筋協調運動障害、腹圧低下、直腸感覚低下、直腸収縮力低下

二次性便秘症について

二次性便秘症には、
➀基礎疾患によるものと②薬剤によるものがあります。

➀基礎疾患によるもの

基礎疾患によるものには
・内分泌、代謝疾患
糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性腎不全
・神経疾患
脳血管疾患、多発性硬化症、パーキンソン病、ヒルシュスプルング病、脊髄損傷、精神発達遅滞
・膠原病
全身性硬化症、皮膚筋炎
・変性疾患
アミロイドーシス
・精神疾患
うつ病
・大腸の器質的異常
裂肛、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱、骨盤臓器脱、大腸腫瘍による閉塞

などがあります。

②薬剤性

薬剤性には
・抗コリン薬
ブスコパンなど
・向精神病薬
抗精神病薬、抗うつ薬など
・抗パーキンソン薬
レボドパなど
・オピオイド
モルヒネ、オキシコドンなど
・化学療法薬(抗がん剤)
ビンクリスチン、パクリタキセルなど
・循環器作用薬
カルシウム拮抗薬(アムロジピンなど)、抗不整脈薬、血管拡張薬など
・利尿薬
抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)、ループ利尿薬(フロセミド)
・制酸薬
水酸化アルミニウムゲルなど
・鉄剤
フェルムカプセルなど
・吸着薬
沈降炭酸カプセル(カルタン)など
・制吐薬
グラニセトロンなど
・止痢薬
ロペラミド

があります。

「便秘」について

1.便秘の有訴率
・便秘の有訴率
男性2.6%、女性4.9%。
女性の方が便秘になりやすいです。
・年齢とともに便秘の方が増加します。

2.発生のリスク
・やせ型の方がやや便秘になりやすいです。
・朝食を食べない方は便秘になりやすいです。
・女性ではダイエット経験者や昼食を摂取しない人で便秘が多く、
一口の咀嚼回数が30回以上の人は快便が多いです。
・男性では1日の水分摂取量が1500ml以上の人は快便が多いです。
・ジョギングなどの活発な運動は便秘の抑止効果があります。
・不眠者に便秘が多いとされています。

3.腸管の長さ
横行結腸やS状結腸が長い人は便秘になりやすいという報告がある一方で
腸管の長さに関連しないという報告もあります。

4.大腸がんのリスク
便秘が大腸がん発生のリスクになるかどうかは不明です。

便秘の治療

➀生活習慣の改善

・食物繊維の摂取
成人男性20g以上、成人女性18g以上が推奨されています。
米や豆類由来の食物繊維が多く含まれる食事やヨーグルトなどの乳酸菌食品が有効とされています。
・運動
運動が便秘に有効とされていますが、どれほどの運動が有効とされているかは不明な点が多いです。
・腹壁マッサージ
1日15分、週5回の腹壁マッサージが有効とされています。

②プロバイオティクス

プロバイオティクスとは、適正な量を摂取したときに有用な効果をもたらす生きた微生物のことを指します。
ビフィズス菌や乳酸菌などが有名です。
慢性便秘の患者さんに対し、腹部症状を悪化させることがなく、排便回数を有意に増加させることが報告されています。

③膨張性下剤

カルボキシメチルセルロースやポリカルボフィルカルシウム(コロネル、ポリフル)は、消化管内で消化吸収されず、水によって容量を膨大させ、便形状と便量の改善により、排便を助けるとされています。
便秘型過敏性腸症候群の治療にも使用されます。

④浸透性下剤

塩類下剤(酸化マグネシウムなど)や糖類下剤(ラクツロースなど)の薬があります。
腸内に水分泌を引き起こすことで便回数を増加させます。長期投与による副作用等は少ないとされています。
塩類下剤は、腎機能障害を有する高齢者では、高マグネシウム血症(悪心、徐脈、筋力低下、傾眠など)となることがあり、慎重投与が望まれます。

米国消化器病学会が定める便秘診療ガイドラインでは、生活習慣指導と浸透性下剤の投与が治療の基本とされています。

⑤刺激性下剤

アントラキノン系(センノシドやアロエ)、ジフェニール系(ビサコジル、ピコスルファートナトリウム)があります。
大腸の筋層間神経叢に作用して高振幅大腸収縮波を促進し、腸管からの水分吸収を抑制、弁解出を促します。
以前お話しした通り、
このアントラキノン系大腸刺激性下剤を長期間内服することにより、大腸が黒色調に変化し、大腸偽メラノーシスという状態となります。
このメラノーシスの変化は、原因にあたる薬の服用を中止することで改善します。
大腸にメラノーシスが生じても重篤な症状を呈することはありませんが、下剤による筋層間神経叢のダメージにより腸の機能が低下することがあります。
短期間の服用は問題ないと思われますが、長期間の服用は注意が必要です

⑥上皮機能変容薬

ルビプロストン(アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)が、あります。
ルビプロストンは、小腸の水分分泌を促進することにより、便を軟らかくして腸管内の便輸送を高めて排便を促進します。
副作用として、悪心・下痢があります。
リナクロチドは、腸管内の水分分泌を促して便を軟らかくし、便の移動をスムーズにして排便を促します。
また、この薬のもう一つの特徴として、痛みに過敏になっている神経線維の伝達を抑え、腹痛や腹部不快感を改善します。
便秘型過敏性腸症候群の薬としても用いられます。

⑦漢方薬

大黄甘草湯

大腸刺激性
大黄の含有量が多く、主成分はセンノシドです。
甘草の含有割合が高いです。

桃核承気湯

大腸刺激+塩類下剤
大黄に加え、芒硝(硫酸ナトリウム)を有し、酸化マグネシウムと同様の作用が期待されます。
甘草も含まれています。
女性で比較的体力がある方が適応とされています。

防風通聖散

大腸刺激+塩類下剤
大黄に加え、芒硝、当帰、芍薬、甘草も含まれています。
肥満を伴う便秘症に使用される場合が多いです。

調胃承気湯

大腸刺激+塩類下剤
大黄に加え、芒硝、当帰、芍薬、甘草も含まれています。

潤腸湯

クロライドチャネル刺激
大黄、枳実、麻子仁、当帰、甘草が含まれています。

麻子仁丸

軟便化作用
大黄、枳実、麻子仁、芍薬が含まれています。
甘草を有していないことから、偽アルドステロン症(電解質異常が出現します)のリスクが少ないです。
麻子仁に含まれる脂肪油・精油によって便軟化作用が期待されます。
腸管の過緊張や痙攣を伴い、糞便通過が遅くなり、コロコロした乾燥便に効果的と考えられています。

桂枝加芍薬大黄湯

整腸作用
大黄、芍薬、甘草が含まれています。
芍薬は平滑筋の緊張をやわらげる作用があります。
便秘型過敏性腸症候群が疑われる場合、痛みの軽減と排便が期待されます。

桂枝加芍薬湯

整腸作用
芍薬、甘草が含まれています。
大黄を含有せずマイルドな整腸作用が期待されます。
痛みを伴う過敏性腸症候群に効果が期待されます。

大建中湯

消化管運動促進、血流増加
山椒が含まれています。
大黄を含有せずマイルドな整腸作用が期待されます。
腹部膨満を伴う便秘に効果が期待されます。
直腸感覚閾値を下げることで、便意を感じやすくします。

大建中湯

大腸刺激性、消化管運動促進
大黄、枳実、芍薬が含まれています。
体力が充実していて、腹壁からみぞおちあたりにかけて苦しく、便秘の傾向があり、胃炎、高血圧や肥満に伴う肩こり、頭痛、神経症、肥満に効果があるとされています。

大黄を含む生薬は、連用すると大腸偽メラノーシスとなり、長期の服用は避けた方がいいでしょう。
また、甘草を含む生薬は偽アルドステロン症(低カリウム血症)に注意が必要です。
2種類以上の漢方薬を同時に服用すると、効果が重複し副作用の危険性が高くなります。

まとめ

日本の便秘患者さんは1000万人以上といわれています。
便秘の原因を適切に診断し、適切な治療を受けることが重要です。
便秘で悩まれている方は、消化器疾患に精通したクリニックを受診しましょう。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。