こんにちは。福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院の医師の細川です。
当院に胃の不調でご来院される患者さんの不調の原因として非常に多い疾患の1つが逆流性食道炎です。
逆流性食道炎は、生活習慣病と言っても過言では無いぐらい、生活習慣の乱れが原因で発症しやすい疾患です。
今回は逆流性食道炎の原因となる生活習慣の乱れの中でも最も影響がある食事との関係を中心にお話ししたいと思います。
逆流性食道炎は、胃の不調を訴えてクリニックを受診される患者さんの中でも、その症状の原因として非常に多い疾患の1つです。
症状は多岐に渡りますが、「呑酸」「つかえ感」「胸痛」「胸やけ」が逆流性食道炎の4大症状です。
逆流性食道炎は、胃液中の胃酸が食道に逆流することで食道粘膜に炎症(胃酸で火傷を起こすイメージ)が生じることで「呑酸」「つかえ感」「胸痛」「胸やけ」などの不快な症状が出現します。
症状の出現には胃酸が関わっているため、胃酸の分泌量が増加する食後に症状が出現しやすい疾患です。
このため、逆流性食道炎を改善させるために最初に取り組むべきことは、やはり食習慣となります。
食べた食事が胃の入り口である噴門までやってくると、噴門部を外から締め付けている下部食道括約筋が緩んで、噴門が開き、胃内に食べ物が入ります。
胃は最大で約1.2~1.5L分の食事をためることが可能なため、通常は満腹になっても、胃内の食べ物は食道に逆流しません。
しかし、この胃の容量を超える食事量を食べた場合や早食いであまり噛まずに食べたり、強い刺激物を食べた場合などは、食道と胃に負担がかかるため、下部食道括約筋が緩み、食道に胃酸や摂取した食事が逆流しやすくなり、逆流性食道炎の原因となります。
また、下部食道括約筋の締め付ける力が衰えている高齢者やもともと内臓脂肪が胃を圧迫している肥満のある人、猫背などで姿勢が悪く胃を圧迫しやすい人などは、より食事の影響で逆流性食道炎を来しやすくなります。
食事を摂取する際に気をつけるポイントは下記の3つです。
1.食べ過ぎない、1日3食摂取する、急いで食べない
食事摂取量は腹八分目にしましょう。もう少し食べたいと思うぐらいで止めるのが理想です。
食事回数は1日3回きっちり規則正しく食べましょう。
また、早食いは避け、1口30回以上噛み1回の食事時間は30分以上かけて食べるのが理想的です。
大量の食べ物が短時間で胃内に入り、胃の内圧が急激に上昇すると、食道と胃のつなぎ目を締め付けている下部食道括約筋が一時的に緩むため、逆流性食道炎を悪化させやすくなります。
良く噛んで食べると唾液中に含まれるアミラーゼという消化酵素がデンプンを消化するため、食事が消化吸収されやすい形で胃へ送られるため、消化に必要な胃酸の分泌量が低下します。しかし、早食いでは、良く噛まずに食べるためアミラーゼによる消化が不十分となるだけでなく、食べ物が大きな塊のまま胃内に運ばれるため、胃内での消化に時間がかかり、消化に必要な胃酸の分泌量が増加します。
食べ物を胃で消化する時間が長くなればなるほど、胃酸の分泌量が増加するため、相対的に食道に逆流する胃酸も増加し、逆流性食道炎の悪化につながります。
しかも、早食いは、食べ物を飲み込む際に空気も一緒に飲み込みやすくなるため、食後にゲップが出やすくなり、逆流性食道炎を起こりやすくします。
さらに早食いや大食いといって食習慣は、将来的な肥満の原因となります。肥満は腹圧を高め、胃を圧迫し、下部食道括約筋をゆるめるため、逆流性食道炎の原因となります。
食事摂取量は腹八分目でしっかり良く噛んでゆっくり食べる食習慣が大切です。
食後すぐに横になると胃酸が食道に逆流しやすくなります。夕食は就寝の3-4時間前に食べ終わりましょう。
また、食直後の入浴は食事の消化を悪くするため、逆流性食道炎の原因になります。
食後は、少なくとも1時間以上間を空けて入浴しましょう。
胃酸はタンパク質を分解する消化液のため、タンパク質の摂取量が多くなるとその分だけ胃酸の分泌量が多くなります。また、脂肪は胃で消化されにくい栄養素のため、摂取量が多くなるとその分だけ胃酸の分泌量が増加します。結果として、タンパク質や脂肪の摂取量が多くなると胃もたれが起こりやすくなります。
タンパク質や脂肪の食べ過ぎに注意し、バランス良く食べましょう。
次のような食事は、逆流性食道炎の症状を悪化させる食べ物です。
逆流性食道炎になっていない人でも、非常に熱いものや冷たいものを摂取すると、食べた物がのどや食道を通っていく感じを普段より感じますが、これらの食べ物は食道の知覚神経を刺激し、敏感にします。
逆流性食道炎で炎症が起きている部位は、正常部位よりも刺激を過敏に感じやすい知覚過敏の状態になっているため、正常な時でも知覚神経を刺激しやすい熱いものや冷たいものは、逆流性食道炎の症状を悪化させやすくなります。
特に、口の中でハフハフする必要があるような熱い食べ物は、熱い物を触ると火傷をするように食道の粘膜にダメージを与えます。さらに、その刺激により食道粘膜は知覚過敏も引き起こすため、少量の胃酸が逆流しただけでも胸やけなどの症状を感じやすくなります。食道粘膜に起こった炎症の程度以上の症状を感じるようになります。
このため、逆流性食道炎がある場合は、熱いものや冷たいものの摂取は極力控え、症状がある場合は30~40℃ぐらいの適温で摂取するのをオススメします。
脂肪は胃で消化されにくい栄養素です。このため、脂肪の消化には多くの胃酸が必要となり、胃酸分泌量が増加します。脂肪は胃酸である消化された後、さらに十二指腸で胆汁酸と膵液により消化されますが、この胆汁酸と膵液の分泌はコレシストキニンというホルモンにより調節されています。コレシストキニンは、下部食道括約筋を緩める作用があるため、脂っこい物を食べすぎると、消化のために胃酸分泌量が増加した上に、コレシストキニンにより食道胃接合部が緩むため、胃酸の逆流を誘発しやすくなり、症状を悪化させます。
辛い物は、胃酸の分泌量を増加させるため、逆流性食道炎の症状を悪化させます。
また、辛い物に含まれる辛み成分には、食道粘膜の刺激作用があります。逆流性食道炎では、食道粘膜に炎症が生じているため、辛み成分の刺激作用が逆流性食道炎の炎症をさらに悪化させることにつながります。
カフェインは胃を刺激し、胃酸の分泌量を増加させます。
また、カフェインには下部食道括約筋を緩める作用があるため、胃酸の逆流を誘発し、逆流性食道炎の症状を悪化させます。
炭酸飲料は、水の中に二酸化炭素を高圧で溶かした飲み物です。
炭酸飲料を飲むと胃内で溶けている二酸化炭素が気化しガスを発生します。その結果、胃が膨満して内圧が高まるとゲップを誘発し、下部食道括約筋を緩めるため、食道への胃酸の逆流を誘発し、逆流性食道炎を悪化させます。
アルコールは少量の摂取であれば、胃酸の分泌促進効果、胃の血流改善による胃機能の活性化、食欲増進効果があるため、身体に良い点もあります。
しかし、多量のアルコール摂取は、胃酸の過剰分泌を起こし、食道に酸逆流しやすくなるため、逆流性食道炎を悪化させます。
さらにアルコールには、下部食道括約筋を緩め、食道の蠕動運動を低下させる作用もあります。この影響で食道に胃酸が逆流し易くなるだけで無く、逆流してきた胃酸を胃へ押し戻す機能も低下するため、逆流性食道炎を悪化させます。
特に、ビールなどのアルコールにくわえて炭酸も含む飲み物は、炭酸による逆流作用も促進するため、最も症状を悪化させやすい飲み物です。過度な飲酒は避け、飲むときはビールなどの発砲タイプのアルコールは控え、少量の飲酒量にするのが症状を悪化させないコツになります。逆流性食道炎を悪化させない飲酒量の目安は、日本酒は1日当たり約1合、ウイスキーは1日当たりダブルで約1杯、焼酎は1日当たり約コップ1/2杯です。
この量でも胸やけなどの症状が出現する場合は、飲酒は止めましょう。
また、アルコール度数の強いお酒をロックで飲んだり、空腹時の飲酒も、食道や胃の粘膜を痛めるためお勧めしません。
上記の1~6の食べ物飲み物は、すぐに逆流性食道炎の症状を悪化させる食べ物ですが、甘いお菓子などの糖分はすぐに悪化させる原因にはなりません。
しかし、糖分の取り過ぎにより肥満になると、その結果として逆流性食道炎が悪化します。
肥満になるとお腹の周りに多くの脂肪が蓄積するため、腹圧が高くなります。腹圧の上昇は、常に胃を圧迫する状態になるため、下部食道括約筋を緩め、逆流性食道炎を悪化させる原因になります。
甘いお菓子などの糖分そのものはすぐに逆流性食道炎の症状を悪化させるわけではありませんが、過剰摂取は肥満を来たし、将来的に逆流性食道炎の原因となる可能性があります。
ただし、甘いお菓子の中でもバタークリームや生クリームなどを沢山使用したケーキなどの洋菓子は、胃で消化されにくい脂肪分を多く含むため、すぐに逆流性食道炎の症状を悪化させる原因となり得ます。
最近、身体に良いと話題の脂肪酸(オメガ3脂肪酸とオメガ9脂肪酸)には、動脈硬化のリスクを低下させる作用以外にも逆流性食道炎の改善効果も期待できると言われています。
オメガ3脂肪酸には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、α-リノレン酸(ALA)があります。
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は、カツオ、マグロ、ブリ、アジ、イワシ、サンマ、サバなどの青魚、カニ、ムール貝、牡蠣や魚油に含まれる栄養素です。また、α-リノレン酸(ALA)は、セイヨウアブラナ、大豆、亜麻仁油などに含まれています。
これらのオメガ3脂肪酸は、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを減少させ、善玉コレステロールであるHDLコレステロールを増加させる作用があるため、身体に良いと一躍有名になりました。
これに加えて、オメガ3脂肪酸の摂取は、心疾患リスクを下げる可能性や関節リウマチの症状を緩和する可能性も報告されています。
一方、オメガ9脂肪酸の1種であるオレイン酸は、オリーブオイルに含まれています。
オレイン酸も悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを減少させ、動脈硬化のリスクを低下させる効果があると言われています。
オメガ3脂肪酸とオメガ9脂肪酸は、動脈硬化のリスクを低下させる効果で身体に良いと非常に有名ですが、オメガ3脂肪酸とオメガ9脂肪酸はいずれも胃腸に対しても良い効果があると言われています。
では、オメガ3脂肪酸とオメガ9脂肪酸には、胃腸に対してどのような効果があるのか見ていきましょう。
一般的に油は消化しにくい栄養素です。このため、ほとんどの油は、胃酸の分泌量を増加させるため、逆流性食道炎を悪化させます。
しかし、オメガ3脂肪酸は、胃に分布する交感神経を活性化し、胃酸分泌を抑える働きがあります。胃酸の分泌量が減ると、当然食道に逆流する胃酸の量も減るため、オメガ3脂肪酸には動脈硬化のリスクを下げつつ、逆流性食道炎の症状を軽減する効果も期待できます。
また、オメガ9脂肪酸のオレイン酸は、胃の中にとどまる時間が短く、消化の負担が少ないため、逆流性食道炎で悩む人には負担の少ない油です。さらにオレイン酸には、腸の動きを促す作用があるため、便通を良くする効果も期待できます。
料理で使う油をオリーブオイルや亜麻仁油をにすると、動脈硬化が予防出来るだけで無く、胃腸にとっても良い作用が期待できるため、非常にオススメです。
いかがだったでしょうか?
逆流性食道炎の最も大切な治療は、薬物治療ではなく、生活習慣の見直しです。
逆流性食道炎の症状は生活習慣の改善を意識すると薬を飲まなくても軽快させることが可能です。
逆に生活習慣の改善を行わなければ、薬を服用しても改善しません。
酸逆流症状がある場合は、まずは生活習慣を見直してみましょう。
お悩みの場合は、是非一度ご相談ください。
この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。