内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

このような症状が出たら要注意!すい臓がんの初期症状について

すい臓がんは、すべての胃がんの中でも死亡率が高いがんのひとつで、10年生存率は5%と言われている恐ろしい病気です。他の多くのがんと比較しても診断が非常に難しいうえに進行が速く、予後が悪いことで知られています。すい臓がんは初期段階では自覚症状がほとんどなく早期発見が難しいがんです。そのため、病気が進行する前に見つけることが重要です。

今回は、すい臓がんとはどんながんなのか、またすい臓がんの初期症状について詳しく見ていきます。

1. すい臓とはどのような臓器なの?

人体模型
すい臓は胃の後ろ側に位置し、消化酵素やホルモン(インスリンなど)を分泌する重要な臓器です。消化酵素を分泌して食べ物の消化を助ける外分泌機能と、インスリンやグルカゴンを分泌して血糖値を調節する内分泌機能の2つの主要な機能を持っています。

1-1. 外分泌機能

すい臓の外分泌機能とは、消化酵素を分泌する機能のことです。消化酵素は「膵液」と呼ばれる液体に含まれ、十二指腸に分泌されます。膵液には炭水化物を分解する「アミラーゼ」、脂肪を分解する「リパーゼ」、たんぱく質を分解する「プロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシンなど)」などがあり、 食べ物を小さな分子に分解して腸での吸収を助けます。

1-2. 内分泌機能

一方内分泌機能とは、ホルモンを分泌する機能のこと。ホルモンは、血糖値の調節に重要な役割を果たし、膵島から分泌されます。主なホルモンとしては、血糖値を下げるホルモンとして知られる「インスリン」は膵島のα細胞から分泌されます。逆に血糖値を上げる「グルカゴン」は膵島のβ細胞から分泌されます。そしてインスリンやグルカゴンの分泌を抑制し、他のホルモンのバランスを保つ「ソマトスタチン」は膵島のD細胞から分泌されます。

2. すい臓がんとは?

がんとハート
すい臓がんはそのほとんどが膵管と呼ばれる場所に発生します。膵管はすい臓内にある細長い管状のもので、膵液を十二指腸へ運ぶ役割を持っているのですが、すい臓がんのおよそ90%が膵管の上皮から発生する浸潤性膵管がんとなります。すい臓がんはまだ小さい段階からすい臓周囲のリンパ節や肝臓に転移しやすいこともあり、「腹膜播種」と呼ばれるおなかの中にがん細胞が散らばって広がる現象が起こることがあります。

また膵管にできるその他のがんとして、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)ががん化した膵管内乳頭粘液性がんや、神経内分泌腫瘍ががん化した神経内分泌がんなどがあります。

国立がん研究センターが発表しているがん種別統計情報によると、すい臓がんの罹患数は2019年データで43,865例(男性22,285例、女性21,579例)、そのうち死亡数が37,677人(男性18,880人、女性18,797人)となっており、データから見ても非常に恐ろしい病気であることがうかがえます。

2-1. すい臓がんの原因

すい臓がんの原因については、現在のところ詳しい原因はわかっていません。ただし、すい臓がんの危険因子としては、喫煙や過度な飲酒、家族歴、加齢、高脂肪食や赤肉・加工肉の過剰摂取、肥満、慢性膵炎などがあると言われています。

3. すい臓がんの初期症状

体重計とメジャー
これまでお伝えしてきた通り、すい臓がんは初期症状がほとんど現れない上に、症状が出始めた時にはすでに手遅れとなってしまうことの多いがんです。それゆえに、定期的な検診をかかさないことはもちろん、初期症状が現れたらすぐに医療機関を訪れて精密検査を受ける必要があります。

3-1. 腹部の痛み・背中の痛み

すい臓がんの初期症状では、上腹部や背中の痛みが現れることがあります。これらの部位における痛みは胃の症状と似ているため、少しすれば収まるだろうと安易に考えがちですが、すい臓がんの初期症状としてもあるものなので、注意しなければなりません。なお、この痛みは何もしない状態でも痛かったり、体制を変えても痛みが続いたりするもので、持続的に鈍い痛みで続きます。

3-2. 体重の減少

ダイエットなど、特に理由のない場合に急激な体重減少が起きるようであれば、すい臓がんの初期症状かもしれません。すい臓がんに限らず体内にがんが発生すると、食欲の低下や倦怠感によって体重の減少が起きる場合があります。

3-3. 黄疸

すい臓がんが胆管を圧迫すると、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)の症状が現れる場合があります。黄疸は、血液中のビリルビンという物質の濃度が上昇することによって、皮膚や白目(眼球結膜)が黄色くなる状態を言いますが、すい臓がんが進行した結果、肝臓から出る胆汁の通り道がふさがれることで起こるケースがあります。また、黄疸に伴い、暗色尿や淡色便(白い便)が見られることもあります。

3-4. 消化不良

すい臓がんを発症すると、食後の消化不良や膨満感、吐き気などが初期症状として現れる場合があります。これらの症状は、すい臓がんによる消化酵素の分泌障害に関連していると言われています。

3-5. 高血糖

すい臓はインスリンの分泌を行って血糖値の調節を行う臓器です。そのインスリンの分泌が正常に行われなくなると糖尿病を発症することがあります。それがすい臓がんの初期兆候である可能性がありますので、もともと血糖値が低かったのに急に高くなった場合や糖尿病が疑われる場合にはすい臓がんの恐れもあります。できるだけ早く消化器内科で精密検査を受けてみるようにしましょう。

4. すい臓がんの検査方法

CT検査
すい臓がんの検査では「⾎液検査」「腹部超⾳波検査」「造影CT検査」が主に行われます。

4-1. 血液検査

血液検査ではアミラーゼやリパーゼなどのすい臓の酵素の値を測定します。またHbA1c値や血糖値など糖尿病に関する数値の測定、さらにはCA19-9、Span-1、DUPAN-2、CEA、CA50などのすい臓の腫瘍マーカーなどを測定することで、すい臓がんが発症していないかをチェックしていきます。

4-2. 腹部超音波検査

腹部超音波検査は、みぞおちから脇あたりに賭けて超音波を当て、肝臓、腎臓、すい臓、脾臓、胆のうといった臓器に異常がないかをチェックする検査です。すい臓がんの疑いある場合の検査方法としては有効とされる検査のひとつで、身体的な負担も少なくて済むのが特長となっています。

すい臓は胃の裏側に位置し、すい臓全体をしっかりと検査するのは難しいものの、しこりの有無を見たり、膵管の拡張が見られるかどうかをチェックすることで、すい臓がんがわかることもあります。

4-3. 造影CT検査

造形CT検査は、血管内に造影剤を注入しX線写真を撮影することですい臓の状態を調べる検査です。病変の有無や悪性か良性かの判断、がん発症時の進行状態などがチェックできます。

それ以外にも、「MRI検査」や「超音波内視鏡検査」「内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査」などが行われる場合もあります。

5. まとめ

男性医師
以上、すい臓がんとはどんながんなのか、またすい臓がんの初期症状について紹介してきました。

最初に述べた通り、すい臓がんの10年生存率は5%と非常に予後が悪いがんとされています。すい臓がんの死亡順位は、男女合わせて肺がん、大腸がん、胃がんに続いて4位となっており(男性が4位、女性が3位)、その数は年々増加傾向にあります。すい臓がんは早期発見が難しく進行も早いがんであること、また手術が難しいことでも知られています。しかしながら、特に転移がない場合、唯一手術だけが根治の可能性がある治療であるため、もし身体に何らかの異常(すい臓がんの初期症状)が見られた場合には、すぐに消化器内科を受診し詳しい検査を受けるようにしましょう。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。