内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

PET検査は、「がん」を早期で見つけるための「がん検診」には適していないことをご存じですか?

PET検査は、「高額だけど全身の小さながんを早期発見できる夢のような検査」と思っている方もいるかもしれません。しかし、PET検査にはメリット、デメリットがあるため、それらをきちんと理解した上で検査を受けるべきなのです。

がん検診ガイドライン

01 総合がん検診が望ましい

「PETは一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診にPETを用いる場合は他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましい。」

02 十分な臨床データは無い

「PET がん検診の有効性、すなわちどのがんがどれくらいの精度で発見され、それによって 生存年数や QOL がどれくらい延長するかに関しては、十分な臨床データが無くエビデンス(科学的根拠)が不十分である。」

03 早期がんの発見に関しては、PET 検査は無力

「消化管がん全体に対して言えることであるが、我が国には、消化管造影検査、消化管内視鏡検査に関して優れた技術があり、早期がんの発見に関しては、PET 検査は無力であることを認識すべきである。」
などの記載がありますので決して万能の検査などでありませんので十分注意してください。
PETとはポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)の略であり、日本語に訳すと「陽電子放射断層撮影」となります。
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FDG(ブドウ糖に放射能を出す成分を組み込んだもの)を体内に注射することにより、その注射された放射性物質がどのくらいがん細胞に集まっているかを数値化して、それを画像として表現するものです。

がん細胞はブドウ糖を栄養素として成長するため、通常の細胞と比較して約3~10倍ものブドウ糖を消費するといわれています。この検査はがん細胞がブドウ糖を多く消費するという性質を利用して、ブドウ糖に近い成分であるFDGと呼ばれる放射性物質を体内に静脈注射することにより、その放射性物質の「がん」への集まりを画像として見るというものです。

では、どのようなときにPET検査が行われるのでしょう?

「がん」の転移を含めたがん病巣の広がりや「がん」の再発を見るため

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私たち医療者が保険診療でPETを利用するのは、主に「がん」の転移を含めたがん病巣の広がりや「がん」の再発を見るためです。つまり特殊ながんを除いては、「がん」を見つけるために用いる検査ではありません

しかし最近ではテレビや雑誌などで、「早期がんを発見するための最先端のがん検診」「数ミリのがんが発見されることがある」というように紹介されていることがありますが、「効果に関する誇張広告は慎むべきである」とガイドラインではマスコミの論調に釘を刺しています。

実際のところ

「再発のがん」に関しては数ミリの大きさでも捉えられることが多いですが、初発の早期がんに対してはブドウ糖の取り込みが少なくがんの有無を判断することが難しいともいわれています。また部位(臓器)によって、見つけやすい「がん」と見つけにくい「がん」があります。

報告①

約9年間で7,793人を対象に18,919回のFDG-PET検査を取り入れたがん検診を実施しており、204件のがんを発見できました。
このうち、PET検査で発見できたものが104件、FDG-PET検査が陰性であったものが100件であったと報告しています。

報告②

約4年間に10,567件を対象にFDG-PET検査を取り入れたがん検診を実施しており、167件のがんを発見できました。このうち、FDG-PET検査で発見できたものが107件、FDG-PET検査が陰性であったものが60件であったと報告しています。
一つ目のデータでは約50%、二つ目のデータでは約36%がPET検査で陰性であったという結果でした。3分の1から半分くらいのがんはPET検査では発見できないということです。
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特に、消化管の胃や食道・大腸にできる「がん」は、粘膜表面に広がりながら成長していくのが特徴です。これら消化管の「がん」においては、他の臓器に転移していないような早期の段階では3~4cmもの大きさになってもブドウ糖などの栄養分をさほど必要としないとされています。つまり、ある程度大きいがんになっているにも関わらず、PET検査では「がん」がないかのように判定されてしまうことがあるのです。ちょっと怖いですよね。
はじめの方でも述べましたが、
「PETは一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診に PET を用いる場合は他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましい。」

「PET がん検診の有効性、すなわちどのがんがどれくらいの精度で発見され、それによって 生存年数や QOL がどれくらい延長するかに関しては、十分な臨床データが無くエビデンス(科学的根拠)が不十分である。」

「消化管がん全体に対して言えることであるが、我が国には、消化管造影検査、消化管内視 鏡検査に関して優れた技術があり、早期がんの発見に関しては、PET 検査は無力であることを認識すべきである。」

とがん検診ガイドラインでも記載されていますので上記内容をきちんと理解・把握した上でPET検査を受けてください。
患者さん各々の目的に応じて、検査の使い分け(PET検査、CT検査、MRI検査、超音波検査、内視鏡検査など)を行うことがとても大切です。
まずはみなさんが、自分にどのような検査が必要なのかを冷静に判断する必要がありますが、なかなか自己での判断が難しいと思われますので、「がん」に習熟した専門医にご相談するようにしてみてください。

PET検査の利点と欠点

PET検査は、使い方によっては病気発見の非常に強力な武器になり、人によってはあまり有用な検査にならないこともあります。

PET検査の利点

  1. 「がん」の転移や再発を早期で、より小さな病変で見つけることが可能
  2. PET画像にCT画像を組み合わせることにより、PET画像だけでは判断できないような「がん」の判定精度が高まるようになってきた

PET検査の欠点

  1. 食道や胃・大腸・肝臓、肺などの初発のがんの発見が難しい
  2. 放射性物質であるFDGがもともと集まりやすい脳や肝臓・腎臓・膀胱などの「がん」が見つけにくい
  3. 血糖値が高い方の診断が難しい
  4. 放射性物質を体内に入れるため、「被ばく」という問題が出てくる
  5. PET検査後、放射能が弱まるまで30分~1時間程度別室で待機しなければならない
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この記事を書いた人

平島 徹朗医師

国立佐賀大学医学部 卒業。
大分大学医学部附属病院消化器内科、国立がん研究センター中央病院内視鏡部など、多くの病院・内視鏡専門クリニックで消化器内視鏡診断・治療を習得後、2011年たまプラーザ南口胃腸内科クリニック開院。