上手に摂りたい食物繊維の役割や腸に良い理由について、胃腸のプロが詳しく解説!
近年大腸がんにかかる人が非常に増えています。がんの中でも一番増加率が多いとされている大腸がんですが、がんの罹患数は2019年のデータで男女総数が第1位、死亡数では女性が第1位となっており、年間で約5万人ほどの人が亡くなっています。これは交通事故で亡くなる人の18倍とも言われています。
では大腸がんがなぜ増えているのかというと、食物繊維が不足して腸内環境が悪くなって動物性脂質を当たり前のように摂るようになってきた食の欧米化が、大腸がん増加の原因のひとつではないかと言われています。
今回は、食物繊維の役割や食物繊維が腸に良いと言われる理由ついて、胃腸のプロが詳しく解説していきます。
食物繊維が大事と言われるようになったのは非常に最近のこと。それまでは便のかさを増やしたり、腸を刺激して便通にいいというものでしかありませんでした。そんな食物繊維自体の役割が近年見直されています。
食物繊維は「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の2種類があります。
水に溶ける水溶性食物繊維は、昆布やわかめ大麦など、意外なところではトマト、ごぼうにも水溶性食物繊維が多く含まれています。一方で不溶性食物繊維は、レタスなどの葉物野菜をはじめ、豆類、しいたけ、玄米、こんにゃくなどに含まれます。こんにゃくに含まれる「グルコマンナン」は、いもの時点では水溶性食物繊維ですが、製品化して固められると不溶性食物繊維に変わるため、こんにゃくは不溶性食物繊維に分類されています。
これまで水溶性食物繊維は、腸内をゆっくり移動して腹持ちを良くするような食物繊維、また一方で不溶性食物繊維は、腸を刺激して便通を促すものと捉えられていました。もちろんそういう考え方もベースにありつつ、現在における食物繊維の捉え方としては、腸内細菌が食物繊維を餌にして、発酵し有益な酸性物質を作ることが重要で、これが腸活のトレンド「ポストバイオティクス」につながる考え方となっています。
このように食物繊維は、腸内環境を整えるのに必要な栄養素であることがわかってきました。
現代人の食物繊維摂取量は減少傾向にあります。厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」(2020年度版)では、1日の食物繊維の摂取目標が定められています。そこでは、18~64歳で男性の場合1日21g以上、女性は18g以上が目標値とされています。しかし実際のところ、男性は16~18g、女性が14~16g程度の食物繊維しか摂れていないのが現状です。元来食物繊維が多い和食中心の食生活から欧米化したことで食物繊維の摂取量が明らかに少なくなってきており、腸の環境が悪くなって大腸がんの増加原因につながっていると言われています。
食物繊維は腸内細菌の餌となるもので、自前で腸内細菌を育てるためには食物繊維は必ず必要な栄養素となります。この食物繊維が不足すると、腸内細菌の餌が不足してしまい腸内環境が悪くなっていきます。また、便通が悪くなって便秘がちになってしまいます。
ほかにも、食物繊維が不足した場合には、腸管のバリア機能が破壊され、花粉症やアレルギー性皮膚炎、アトピーとか喘息といったアレルギー性疾患を引き起こすこともあります。
腸内細菌はどのように腸に棲んでいるのか想像がつかない人も多いと思いますが、実は腸には粘液層という薄い膜があり、その膜の中に腸内細菌は棲んでいます。粘液層の主成分は糖質とタンパク質の結合した多糖類です。
先ほど腸内細菌は食物繊維を餌にしているとお伝えしましたが、食物繊維が少なくなって餌がなくなるとその粘液層を食べてしまいます。その結果、粘液層が壊れて隙間だらけとなってしまい、その隙間から花粉やアレルギー物質が侵入、花粉症やアレルギーが引き起こされます。粘液層が壊れて隙間だらけになってしまうことを「腸漏れ(リーキーガット症候群)」と言います。餌になる食物繊維を与え続けなければ、バリアが壊されてしまうので、食物繊維はどんどん摂らないといけません。
腸内細菌には好物があります。その腸内細菌のひとつ「乳酸菌」の好物とされているのはごぼうや玉ねぎ、にんにくなどに含まれている「イヌリン」です。乳酸菌は小腸から大腸の入り口付近に生息しています。
たまに乳酸菌のサプリメントを結構摂取しているのに、腸内フローラ検査をしてみたものの乳酸菌が増えてないと言う人もいますが、もともと大腸には乳酸菌がそんなに多く生息していません。そのため腸内フローラ検査に反映しないといったことが起こります。乳酸菌は小腸での免疫活性に役立つのが主な働きのひとつです。
ほかにも腸内細菌としては有名な「ビフィズス菌」ですが、大豆や落花生といった豆類に多く含まれる「レジスタントスターチ」を好みます。このビフィズス菌が生息しているのは肛門の近くです。
さらに、やせ菌として知られる「バクテロイデーテス門」は大腸の真ん中あたりに生息し、大麦やオーツ麦に多く含まれる「βグルカン」を好みます。
食物繊維はいろいろ種類がありますが、その種類に応じて腸内細菌の発酵時間が異なります。それぞれ好物が違うため、異なる食物繊維を摂ることでいろんな菌が活性化し、腸内環境は良くなると考えられます。そのため、一つの食物繊維だけではなく、いろんな種類の食物繊維を摂った方が好ましいとされています。
なお食物繊維には長さがあり、それによっても発酵時間が変わります。発酵時間は長ければ長いほど腸内環境が良くなります。たとえば、玉ねぎに含まれているオリゴ糖やごぼうといった根菜類に含まれている「イヌリン」は、食物繊維が短く摂ってからおよそ4時間で腸内細菌による発酵のピークに達します。このような発酵時間が短い食物繊維は摂ってからが持続しません。このような食物繊維ばかり摂っていると摂取を繰り返さないといけなくなってしまいます。
一方で、食物繊維が長い大麦などに含まれる「βグルカン」は、摂ってから6時間以上かけて発酵のピークに達します。さらに豆類などに含まれる「レジスタントスターチ」は食物繊維が非常に長く、摂ってから10時間以上経つと腸内細菌による発酵のピークに達します。
特に朝食時に短い・長い食物繊維を幅広く摂っておくと腸の多様性も高くなって発酵時間が持続、身体にとって非常によい状態を保つことができますし、食物繊維で短鎖脂肪酸も作られ、腸の蠕動運動も活発になります。
なお朝食で食物繊維を摂るのはとても大事ですが、夕食時に食物繊維を多く摂取すると就寝中に発酵が続き、腸内環境は良い状態がずっと続きます。夕食時に摂りたい食物繊維としては豆類が好ましいです。
実際のところ水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をどういう割合で食べたほうがいいのでしょうか?これについては水溶性食物繊維が1、不溶性食物繊維が2と1対2ぐらいの割合で摂取するのがよいとされていますが、正直そのような配分を考えながら摂取するのは難しいです。
たとえば、野菜の多くに含まれる食物繊維は不溶性食物繊維ですので、水溶性食物繊維がどうしても不足しがちになってきます。よく「食物繊維を摂らなければ」とファミレスなどでサラダセット等を頼むことがあると思いますが、サラダは葉物が多く、不溶性食物繊維しか摂れません。そのようなこともあり、普段から不溶性食物繊維を多く摂ってしまいがちですが、摂り過ぎてしまうと逆に便秘になってしまう人もいますので、その辺のバランスを考えながら摂るのがよいでしょう。
ちなみに水溶性食物繊維が多いごぼうには食物繊維が100gあたり5.7g、きのこ類だとエノキで3.9g含まれます。ごぼうやエノキ、納豆などを効率的に摂ったほうが食物繊維の餌になる水溶性食物繊維が摂れますので意識して摂取したいところです。なかなかそのような食材を食べる機会がない場合には、イージーファイバーなどで水溶性食物繊維を補うのがおすすめです。
5-1. 食物繊維を効果的に摂取できるおすすめの食べ物は?
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、両方を効果的に摂取できる食べ物、これは「納豆」です。納豆は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の比率が1対2です。だいたい納豆1パックに3.3g食物繊維が入っていて、その中の1.1gが水溶性食物繊維、2.2gが不溶性食物繊維となります。たんぱく質も摂れますし、まさに理想的な割合の食べ物です。
よく食べ物のパッケージに「レタス何個分の食物繊維配合」といった表現が書かれているのを目にする機会もあると思いますが、実はレタス10個分といっても実際にはそれほど多くの食物繊維が含まれているわけではないので注意しましょう。
レタスは食物繊維が多そうな食べ物のイメージを持っている人も多いと思いますが、実は食物繊維が少ない食べ物です。レタスの90%以上は水分であること、またレタスから摂取できる食物繊維のほとんどが不溶性食物繊維(セルロース)です。そのため、レタスから摂れる食物繊維が効率的に腸内環境をよくするかというとそうでもありません。食物繊維量としても、丸まるレタス1個(300g程度)としたら3.3gほど。つまりレタスを丸ごと1つを食べるのと納豆1パック食べるのが同じ食物繊維量ということになるのです。
以上、食物繊維の役割や食物繊維が腸に良いと言われる理由、効果的に食物繊維を摂れる食べ物について紹介してきました。
食物繊維は現代の食生活では不足しがちの栄養素です。その食物繊維にも2種類あって不溶性食物繊維を多く摂りがちの食生活を見直し、水溶性食物繊維もバランスよく摂取するような食事を心掛けなければなりません。
今回紹介したように「納豆」は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれた食べ物ですので、普段から意識して納豆を食べることで食物繊維を摂ることができます。納豆以外にもいろんな食物繊維を摂取すると腸内環境が良くなりますので、毎日の食生活に積極的に取り入れるようにしましょう。
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この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。