患者さんから
「大腸カメラはいつ頃受けるのが良いですか?」
「症状が特になければ大腸カメラは受けなくても良いですか?」
と聞かれることが多いです。
皆さんはいつ頃大腸カメラを受けたら良いと思っていますか?
自覚症状がなければ大腸カメラは受けなくても良いと思っていますか?
個人的には、30代半ばから大腸カメラ検査を受けるのが良いと考えています。
また、自覚症状がない時にこそ一度検査を受けるべきだと考えています。
それでは、なぜそう考えるのか?根拠となる指標があるのか?
ここでは、大腸カメラ検査をいつ頃受けるのが良いのかを、統計学的な立場から検証していきたいと思います。
現在、日本国内で行われている大腸がん検診は、「便潜血検査免疫法」です。
男性、女性ともに40歳以上が対象となっており、1992年から行われています。
この「便潜血検査」は、検診では便を2回採取する2日法で行われています。これは診断率を上げるためです。
ちなみに、食道や胃で出血をした場合、胃液により血液が変性しますので、便潜血検査では陽性になりません。つまり、便潜血検査は、大腸内で出血するような病気がないかを調べるのが目的です。
「便潜血検査」は、目に見えない消化管の出血を発見するための検査であり、大腸がんや大きな大腸ポリープからの微小な出血を検出することができます。
実際、この検査を行うことにより、大腸がんの死亡率が低下することが証明されております。
このように、日本では、大腸がん検診としては「便潜血検査免疫法」が主流ですが、欠点があります。
それは、大腸がんの診断率が低いことです。
具体的な数値ですが、早期大腸がんの50%以上が便潜血陰性であり、進行大腸がんでも約30%が便潜血陰性と言われています。このため、便潜血陰性であっても大腸がんを否定することにはなりません。
参考までに、厚生労働省、および国立がん研究センターが発表している最新がん統計を提示します。
まず、2016年に胃がんと診断された方は134,650人です。これは全国第2位の数字です。
大腸がんと診断された方は158,127人です。これは全国第1位の数字となります。
さらに分かりやすく考えると、胃がんと診断される方は、1日に368人、大腸がんと診断される方は1日に433人いるということです。多いですね。
それでは、大腸がんはいつ頃から発症するのでしょうか?
国立がん研究センターのデータによると、30代半ばから徐々に大腸がんが増え始め、40代半ばから急に多くなってきます。
このことから、大腸カメラ検査は30代半ばから検査を受け始めるのが良いのではないかと考えます。
それでは、大腸がんになりやすいタイプはどんな方でしょうか?
身体的特徴としては、高身長、肥満体です。
生活習慣としては、飲酒、喫煙、運動不足、牛肉、豚肉、加工肉(ハム、ソーセージ)の過剰摂取です。
さらに遺伝的特徴としては、家族に大腸がんがいる方です。
この中でも、食事のリスクが一番重要です。毎日食べるものですからね。
国立がん研究センターが、日本人の肉摂取量と大腸がんとの関係についての研究結果をまとめています。
研究結果によると、1日9gの牛肉を食べると大腸がんのリスクが上昇すると言われています。1ヶ月で換算すると270gです。
我々が焼肉を食べに行くと、1人平均350g程度の牛肉を食べると言われています。
つまり、1ヶ月に1回焼肉に行くだけで大腸がんのリスクが上がる計算になります。
加工肉はもっと深刻です。少しでも食べたら大腸がんのリスクが上がります。
ですので、加工肉はほとんど食べないことが基本と考えてください。
豚肉は、1日36gまで大丈夫です。1ヶ月に換算すると1kgまでは問題ない計算になります。
鶏肉には基本的に大腸がんリスクはありません。たくさん食べても大丈夫です。
このように、豚肉や鶏肉がヘルシーなのはきちんとした理由があるのです。
それではがん死亡率についてまとめます。
2017年に全がんで死亡した方は373,334人です。
このうち、胃がんで死亡した方は45,226人で、これは全がん死亡数の第3位です。
大腸がんで死亡した方は50,681人で、これは全がん死亡数の第2位です。
胃がんで死亡される方は、1日に124人、大腸がんで死亡される方は1日に139人います。
つまり、日本人男性の11人に1人、日本人女性の13人に1人が一生のうちに大腸がんになってしまいます。
どうですか?胃がん、大腸がんと診断される方、亡くなってしまう方が多いということはなんとなく理解していましたが、実際に数字で見るとこんなに多いのかと思います。
次に、アメリカ合衆国との大腸がんの死亡者数の比較です。
日本で、大腸がんで亡くなった方は2017年の1年間で50,681人でした。
対して、アメリカで、大腸がんで亡くなった方は、1年間で50,260人でした。
なんだかおかしいと思いませんか?
確か米国は日本の約3倍の人口だったはずです。単純に考えれば、日本の大腸がんの死亡数よりも3倍多くないといけないんじゃないでしょうか。それなのに、大腸がんの死亡数はむしろ日本の方が多くなっています。
これはなぜでしょうか?食べ物の影響でしょうか?
大腸がんになりやすい食べ物をまずあげるとしたら酒と牛肉です。
日本人よりもアメリカ人の方がお酒も牛肉も食べている印象がありますので違う気がします。
それでは、医療技術の差でしょうか?
それはないと考えて良いでしょう。日本の医療技術は世界最高峰ですので、アメリカと遜色はないです。
答えは、大腸カメラの受診率の差です。
米国では、約67%が大腸カメラを含む大腸がん検診を受けているのに対し、日本では約40%しか大腸カメラを含む大腸がん検診を受けていないのです。この差はかなり大きいと言えます。
大腸がんは、大腸ポリープからがんになることがほとんどです。このため、大腸ポリープの段階で切除すれば、大腸がんを予防することができます。
実際、アメリカ対がん協会では「大腸がん検診で発見した大腸ポリープを切除することで、大腸がんが減ってきた」と指摘しています。
アメリカは大腸カメラの受診率を上げて、大腸ポリープを切除することにより、大腸がんを未然に防いだと考えられます。
いかがでしょうか?大腸カメラ検査を受けたくなってきたのではないでしょうか?
うーん、でも症状も特にないし、別に大腸カメラ検査まで受けなくてもいいんじゃないかな。。。
そんな声が聞こえてきそうです。
大腸ポリープは無症状です。症状がない時こそ、自分の健康のために一度大腸カメラを受けるのがベストだと思います。
血便が出て慌てて大腸カメラ検査を受けて、進行大腸がんが見つかってしまった、では遅いですからね。
以上より、
・大腸カメラ検査は、30代半ばから受けると良い。
・自覚症状が出てから検査を受けると手遅れであることがあるため、症状がない時にこそ一度検査を受けるべきである。
となります。
35歳を過ぎて一度も大腸カメラ検査を受けたことがない方、大腸カメラ検査を受けたいと考えているが、無症状であるため先延ばしにしている方、ぜひ一度大腸カメラ検査を受けてみてください。
この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。