内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

医者は人間ドックを受けない!?一般的な人間ドックや検診では、早期がんの90%以上は見つけることが難しいという事実知っていますか?

検診や人間ドックの限界

人間ドックについて友人との会話

気心の知れた友人などから良く聞かれることの1つにこのような質問事項があります。
「お医者さんってがんの早期発見のために人間ドックとか検診って受けるの?」

答えは決まって
「通常の人間ドックや検診って早期がんを見つけるためには全く無意味だから、受けないよ〜」
という一言です。
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「早期がんを見つけるためにはそれぞれのがんの特徴に合わせた検査をしないといけないから、通常の人間ドックや検診では無理だよ。きちんと日頃から勉強しているお医者さんなら決して通常の人間ドックや検診は受けていないよ、絶対に。

早期がんの発見のためにそれぞれ検査の受け方のコツがあるから教えるよ。意味のない検診を受けて勝手にがんがないと満足しているのは人生の損だし、病気に対しての無知こそ人生最大の損失だよ」
という会話がいつも友人達となされています。

ドクターの意見

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多くの検診や人間ドックを実施している施設の大多数のドクター(不勉強なドクターを除いては)は自身の施設の簡易な検診や人間ドックは「決して自らは受けていない」と断言できます。

それは通常の人間ドックや検診では早期がんを見つけることは難しいと分かっているからなのです。簡易な検診を行っているクリニックの院長なども自身はCT検査や胃カメラ、大腸内視鏡検査など、がんを早期で見つけるためのきちんとした検査を他の施設できっちりと自分だけ受けている現実があります。
会社や自治体などで行われている検診や人間ドックを、毎年きちんと受けている方も多いと思います。簡易的な採血項目・胸部レントゲン撮影や腹部エコー検査、そして胃のバリウム検査や便潜血検査まで・・・。これだけ多くの検査をして異常がないのならば、「がんの心配は全くなく、健康な身体なのだろう」と思ってしまう方も多いのではないでしょうか?
しかし残念ながらこのような簡易な検診や人間ドックでは、がんの心配がないとは決して言い切れません。むしろ毎年このような検診で異常の指摘がなかったのにもかかわらず、病院やクリニックで受けた検査で進行がんが発見されることも少なくなく、このような簡易な検診のみでは、様々な身体の部位でのがんの早期発見については全くあてにならないとさえ言えるのです。
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超早期の食道がん

ハイビジョン内視鏡検査で発見された、認識することが非常に難しい超早期の食道がんです。検診でバリウム検査や腫瘍マーカー採血検査を毎年受けていましたが、どの検診項目でも異常は指摘されていませんでした。口から一直線で胃につながる食道ではバリウムはほんの一瞬で通りすぎてしまい、微細な粘膜模様の変化のみの早期食道がんをバリウム検査で発見することはまず無理だというのは、内視鏡専門医の間では当たり前の事実として認識されています。

検診や人間ドッグを行う理由

では、検診や人間ドックは毎年何のために行われているのでしょうか?それは検診の各項目とその内容を見ていくと、検診や人間ドックの特徴と限界が浮かび上がってきます。

一般的な検診や人間ドックで分かること、つまり得意な分野とは、
「生活習慣病の兆候が把握できること」
この1点に尽きると思います。
検診では視力、聴力、身長・体重測定による肥満度(BMI)の計算、血圧測定、血糖値・コレステロール値の測定は漏れなく行われます。これらの測定により、高血圧症や高脂血症、糖尿病の拾い上げをすることができ、さらにメタボリックシンドローム(および予備軍)の診断が可能となります。
生活習慣病そのものは、痛みや苦しさなどの症状が出ないため、指摘されるまで気が付かないことが少なくありません。しかしながら、生活習慣病はがんや脳卒中、心筋梗塞といった命に関わる疾患の直接的な原因となりますので、検診や人間ドックなどできちんと指摘を受けることはとても重要なことです。
そして生活習慣病は、食生活や運動、肥満や喫煙、飲酒といった文字通り「生活習慣」が原因となりますので、このような生活習慣を改善することでがんや脳卒中、心筋梗塞のリスクを大きく減らすことができると言えます。

逆に、一般的な検診や人間ドックで分かりづらく、苦手・不得意な分野とは、
ずばり
「早期のがんの発見」
です。
検診で毎年、胸部レントゲン検査や心電図検査、胃バリウム検査、便潜血検査、腹部エコー検査、さらには採血でわざわざ高額な追加料金まで払って「全がん検査」とまで謳われている腫瘍マーカーの採血までしているのに・・・と思われるでしょうが、各々の検査の特徴を知ると早期のがんの発見が非常に困難なことが分かります。

01 胸部レントゲン検査

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胸部レントゲン写真で肺がんがあるかどうかの診断ができるのは、一般的にはがんの大きさが2センチを越えないと難しいと言われています。
肺がんがあるかどうかの診断をする能力(読影力)には医師の間でもかなり大きな差があると言われており、がんセンターなどで肺がんを多く診てきた肺がん専門医でないとレントゲン写真のみでの早期のがんの発見は非常に難しいとされています。
2センチ以下の早期肺がんを胸部レントゲン検査のみでは見つける事が難しいということは医学的にも証明されています。肺がんの早期発見にはマルチスライス胸部CTが圧倒的に高い診断能力を発揮します。

02 心電図検査

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心電図検査は死に繋がる重篤な不整脈などを見つけるのに有用な検査ですが、心電図を測定するのはボタンを押したほんの一瞬の心臓の電気信号の流れだけですので、重篤な心疾患があっても拾い上げられないことも少なくありません。しかしながら害の全くない検査でありますので、受けておいた方が良いと思われます。
時々は24時間心電図などで重篤な不整脈がないかの確認を行うことも重要ですし、何より50歳以降の方であれば、心臓の血管に動脈硬化による狭い部分がないかどうかの心臓CT検査などを一度は受けてみられることをお勧め致します。

03 胃バリウム検査

胃バリウム検査は、平面の影絵の原理で撮影されていますので、凹凸を伴わない早期の胃がんや食道がんについては発見できないことが少なくありません。影絵の原理で凹凸を見ているだけですので、胃がんや食道がんがかなり大きくならないと影としては描出されないのは一目瞭然です。
さらには、1回のバリウム検査でかなりの量を被ばくしてしまい、「医療被曝による発がん」という大きな問題が出てきますので、精度がかなり悪いということ以上に検査を受けることによる身体への害という点でかなり大きな問題となってしまいます。やはり早期胃がんや食道がんの発見にはハイビジョン内視鏡での胃カメラが特に威力を発揮します。

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早期胃がん

ハイビジョン内視鏡検査で発見された、早期胃がんの写真です。このような凹凸のほとんどない数ミリ程度の色調の変化のみの病変は、バリウム検査で見つけることはまず無理だと思われます。

04 便潜血検査

便潜血検査は、便に血が付着するかどうかの検査であり、大腸がんを直接見つけるための検査ではありません。表面が崩れていない大腸ポリープや早期の大腸がんの場合、便が大腸内のポリープやがんをすり抜けて通ってしまうので、便に血が付くことはなく、便潜血陰性という結果になってしまいます。
大腸がんがよほど進行して表面が崩れて大きくならないと、便潜血陽性にならないために大腸がんの早期発見には全く期待ができません。
大腸がんは大腸ポリープから進展することが多いため、大腸ポリープを切除することが大腸がんの予防につながるとされております。
大腸ポリープ切除=究極の大腸がん予防
と言われている所以です。大腸ポリープおよび早期大腸がんの早期発見のためには大腸内視鏡検査が大きな威力を発揮しますし、唯一の予防手段であると言えます。

便潜血検査が陽性となる場合

便潜血検査が陰性となる場合

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早期大腸がん

ハイビジョン内視鏡検査で発見された、早期大腸がんの写真です。最近便秘が続いていたため大腸内視鏡検査を初めて受け、偶然発見されました。便潜血検査は毎年していましたが、陰性でした。このように、腫瘍表面が崩れることなく、便が腫瘍にこすれない早期の段階の場合は、便潜血で陽性には決してならないのです。

05 腹部エコー検査

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腹部エコー検査では、肝臓・胆嚢や胆管・膵臓などの臓器を中心に観察しますが、腹部エコーは脂肪やガスに弱いという性質があり、内臓脂肪が多くお腹周りの大きな方やお腹にガスが溜まりやすい方などは、観察しづらいことがよくあります。よく検診エコーの結果に「膵臓:描出不良」と書かれているのを目にしますが、これは異常がないのではなく「よく見えていない」ことを示しているので、がんなどがあるのかないのか分からずに年月が過ぎているのはとても危険なことになります。
特に背中近くにある膵臓は、腹部エコーではがんを早期で発見することが極めて困難であることは周知の事実です。膵臓がんの早期発見には腹部MRIの特殊な撮影方法であるMRCPが威力を発揮します。

06 腫瘍マーカー採血

腫瘍マーカーについては、本来の利用方法として、がんを治療した場合(開腹手術や抗がん剤での治療)の効果判定や再発の目安とする場合に限り用いられるものなのです。腫瘍マーカーはもともと早期のがんを発見するためのものでは決してないのです。そのことを知らずに毎年腫瘍マーカー採血が基準値内にあるだけで勝手に「がん」がないと安心してしまい、その間にがんができていても気づかずに、無症状のままどんどん進行してしまう可能性も少なくないのです。比較的早期でがんが分かる前立腺の腫瘍マーカーであるPSAを除いては腫瘍マーカー採血では、がんの早期発見には全く無意味でありますので、注意が必要です。

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早期胃がん

ハイビジョン内視鏡検査で見つかった、早期胃がんの写真です。この方は検診で腫瘍マーカーを毎年オプションで追加していましたが、どの値も毎年基準値の範囲内でした。
このように検診や人間ドックの項目を1つずつきちんと見ていくと、検診の性質上早期のがんを発見することがいかに難しいかがよく分かると思います。それでは大きな手術や手遅れになるようながんになる前に発見するにはどうしたらよいのでしょうか?
早期の状態でがんを発見するには、食道・胃・大腸については内視鏡検査で定期的に観察することが重要です。肝臓・胆嚢や胆管・膵臓などの臓器については、腹部エコー検査ではなく、腹部CT検査やMRI検査を受けることも大切になってきます。
当院では、内視鏡検査・治療だけでなく診察室で上記のような「一般的な検診で分かること、また検診では分からないこと」といったお話もさせて頂いております。「がんは心配だが、内視鏡検査を受けることには抵抗がある」「胃や腸以外のがんも早期で発見して治療につなげたい」「どのような検査を受けていけば良いのか分からない」といった方も、一度是非お気軽にご相談ください。