内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

こんにちは。福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院の医師の細川です。
当院には胃の不快な症状を訴えて来院される方が沢山いらっしゃいますが、その原因として多く見られる疾患である逆流性食道炎について今回はお話したいと思います。

逆流性食道炎とは

逆流性食道炎は食道に胃液に含まれる胃酸が逆流した結果、食道の粘膜に炎症(ただれやびらん)が生じる疾患です。消化器内科を受診される患者さんの中でも悩んでいる人が多い疾患の1つです。

逆流性食道炎が起こる原因

食べ物が食道に入ると食道の筋肉は伸び縮みを開始し、蠕動運動(食べ物を先に送り出す運動)を起こし、食べ物を胃に運びます。食道と胃のつなぎ目である食道胃接合部(噴門部)には、胃に入った食べ物が食道に逆流しないように噴門を取り巻くような形でリング状の下部食道括約筋という筋肉があります。下部食道括約筋を締めることで胃の中の物が食道に逆流しないように調節されています。

ところが、この下部食道括約筋の機能が低下したり、過剰な胃酸が分泌されたりすると、食道に胃酸が逆流するようになります。多少の胃酸が食道に逆流しても食道の蠕動運動や食道の分泌物、唾液などにより速やかに逆流した胃酸を胃へ押し戻すため、通常であれば問題は起こりませんが、この機能が低下したり、胃酸が逆流する量が増えたりすると、食道粘膜が胃酸により傷つけられ、逆流性食道炎を発症します。

逆流性食道炎の症状

逆流性食道炎はさまざまな不快な症状を引き起こしますが、その中でも「胸やけ」「呑酸」「つかえ感」「胸痛」が代表的な4大症状です。

みぞおちの上辺りから胸骨の裏側あたりに熱く焼けるような症状として自覚されやすいのが「胸やけ」です。「胸がムカムカする」「何となく胸のあたりが重苦しい感じがする」「何となく胸のあたりがいやな感じがする」「胃が痛い」などと感じることもあります。

「呑酸」は、すっぱいものが胸やのど、口にまであがってくる症状です。のどの奥が焼けるような感じがする症状として自覚するケースもあります。

「つかえ感」は、のどやみぞおちに物がつかえるような感覚が出現する症状です。少しつかえる感じを自覚するだけの軽度のものから、食べ物が全くのどを通らなくなる重度のものまで、症状の出現の強さは非常に個人差があります。耳鼻咽喉科でのどを診てもらっても特に原因となる異常が無い場合は、逆流性食道炎が原因となっている可能性があります。もちろん、食道癌などが原因のこともあるため、これらの症状がある場合は、胃カメラ検査を受けることを強くお勧め致します。

「胸痛」は、「胸の焼けるような痛み」「胸の締め付けられるような痛い」「みぞおちの痛み」などとして自覚する症状です。
ただし、「胸痛」は、逆流性食道炎による症状ではなく、心筋梗塞や狭心症など心臓の病気が原因の場合でも同様の症状が出現するため、注意が必要です。「胸痛」がある場合は、消化器内科だけでなく、必ず循環器内科も受診し、心臓の病気が原因で無いことを確認しておきましょう。心筋梗塞や狭心症などの心臓の病気は、命に直結する非常に怖い病気です。逆流性食道炎だろうと気軽に考え、様子を見ないようにしましょう。心臓の病気で無かった場合は、逆流性食道炎が原因となっている可能性があります。

この逆流性食道炎の4大症状の中でも「呑酸」と「胸やけ」がとくに典型的な症状で「胸やけ」は逆流性食道炎で悩んでいる方の40%以上で認められる症状という報告もあります。
この2つの症状で悩んでいる場合、その原因は逆流性食道炎である可能性が高いと考えられます。

これらの逆流性食道炎の4大症状の他にも「胃がもたれる」「お腹が張る感じがする」「ゲップがよく出る」「吐き気が出やすい」などの消化器症状が出たり、「原因不明の咳が続く」「声がかすれるようになった」「虫歯になりやすい」などの消化器症状以外の症状が出たりすることもあります。

逆流性食道炎には、非常に多彩な症状があり、その症状の程度も個人差が大きいのが特徴です。
上述した逆流性食道炎の4大症状は無いにも関わらず、消化器症状以外の症状だけが出る人もいます。
もちろん、これらの症状は逆流性食道炎以外ののどの病気や心臓の病気でも起こることがあります。
これらの症状でお悩みの方は、自己判断は行わず、是非、一度医療機関で相談しましょう。

胃酸について

逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流することで生じる食道粘膜の炎症が原因の病気のため、胃酸過多(胃酸の出る量が多い)の場合、胃酸が食道に逆流しやすくなり、逆流性食道炎が起こりやすくなります。

胃酸は、①食事中のタンパク質を消化する、②食事とともに体内に入ってきた細菌やウイルスを殺菌して身体を感染から守る、という働きをしていますが、その働きの中心は①のタンパク質の消化です。
胃の中に入ってくるタンパク質の量が増えれば増えるほど、それに伴って胃酸の分泌量は当然増加します。
胃酸はpH1~2の強酸です。胃酸の分泌量が増えると胃が荒れやすくなるため、胃酸の分泌量が増えれば増えるほど胃壁を保護するための粘液の分泌量も増加します。しかし、この粘液の分泌が追いつかないほど胃酸が過剰に増えてしまうと、いわゆる胃酸過多の状態になります。

胃酸過多になると、逆流性食道炎を起こしやすくなるだけでなく、びらん性胃炎や表層性胃炎、胃十二指腸潰瘍なども起こしやすくなります。

ヒトは、食事を消化するために胃酸だけでなく、胆汁や膵液も分泌していますが、実はこれらの消化液も食道に逆流しています。
しかし、食道の動きが正常で消化液の量も通常範囲内の場合は、これらの消化液が食道に逆流しても食道の正常な動きにより逆流した消化液がすぐに押し戻されるため、炎症を起こしません。
ところが胃酸が過剰分泌された状態になると、逆流する胃酸の量が増えるため、食道に逆流する胃酸を押し戻すことができなくなるため、逆流した胃酸で食道粘膜が炎症を起こしてしまいます。

胸やけ、胃もたれなどの逆流性食道炎でみられる症状がある場合や胃内視鏡検査(胃カメラ検査)で逆流性食道炎や胃酸過多による胃炎や潰瘍を指摘されたことがある方は、タンパク質の摂り過ぎには注意しましょう。
また、タンパク質以外にも色々と胃酸分泌を増やすものがあります。次に示したものにも注意しましょう。

胃酸分泌を増加させるもの

・ストレスや不安
・長時間の空腹状態
・早食い(良く噛んで食べない)
・高タンパク質の食事
・高脂肪・高カロリーの食事
・辛い食品などの刺激物
・炭酸飲料
・カフェイン
・アルコール

逆流性食道炎の予防策

診察時に逆流性食道炎の患者様からよく「気をつけた方が良い生活習慣はありますか?」という質問を受けますが、最初に改善すべき生活習慣はやはり食習慣です。
逆流性食道炎の患者さんの多くは「食後に症状が最も出やすい」と言われます。

口からとった食事は胃の入り口である噴門に到達すると、噴門部を外から締め付けている下部食道括約筋が緩み、噴門が開いて食べ物が胃の中に入ります。
満腹時の胃は1.2~1.5L分もの食べ物をためることが出来るといわれています。このため、普通の食事量であれば通常は食後に胃内の食べ物が食道に逆流しやすくなるということはありません。

しかし、この胃に蓄えられる量を超える量の食事を食べたり、急いで食べ物を食べた場合(早食い)や刺激の強い食べ物を食べたりした場合などは、食道と胃に負担がかかり、下部食道括約筋の緩みが誘発されます。下部食道括約筋が緩むと、胃酸や胃の内容物が逆流しやすくなるため、食後に逆流性食道炎を起こす原因となります。

特に、高齢で元々下部食道括約筋の筋肉が衰えている人、肥満で内臓脂肪が多く胃を圧迫しやすい人や猫背などで姿勢が悪く胃を圧迫しやすい人などは、より食事の影響を受けやすくなります。

これを防ぐためには食事摂取時に次に示したことを守るようにしましょう。

食べ過ぎを避ける、食事は3食きっちり食べる、早食いは止める

食事量は腹八分目でもう少し食べたいと思うぐらいで止めるようにしましょう。
また、食事は1日3食をきっちり規則正しく食べ、1回の食事は30分以上かけて1口30回以上噛んで食べるのが理想といわれています。早食い・丸飲みは止めて、ゆっくり良く噛んで食べるようにしましょう。

寝る直前の食事摂取を止める、食後すぐに入浴しない

胃酸逆流を防ぐために、食後すぐに横になるのは避けましょう。食後すぐに横になると、胃の内容物が食道に逆流し易くなります。夕食は睡眠時間の3-4時間前には済ませるのが理想的です。
また、食後すぐに入浴すると消化が妨げられます。食後に入浴する場合は少なくとも1時間以上間を空けるようにしましょう。

脂肪やタンパク質の摂り過ぎに注意する

胃酸はタンパク質を分解する消化液のため、タンパク質を取れば取るほど、その分胃酸が多く分泌されます。
また、脂肪は胃で消化されにくいため、タンパク質や脂肪を取り過ぎると胃もたれが起こりやすくなります。
ダイエットのために糖質制限をし、その分タンパク質や脂肪を多く取るようにしている人も多いと思いますが、バランス良く栄養を摂るようにしましょう。

また、逆流性食道炎の患者さんが次のような食べ物を食べると症状が悪化しやすいといわれています。逆流性食道炎の症状があるときは、次のような食べ物は摂取を控えましょう。

辛い食べ物

辛い食べ物は、辛み成分が食道粘膜を刺激します。逆流性食道炎では食道粘膜にすでに炎症が生じているため炎症を悪化させます。また、辛い食べ物は胃酸の分泌量を増加させるため、食道に逆流する胃酸が増え、症状が悪化しやすくなります。

熱い食べ物

熱いものが手にかかると火傷をしてしまいますが、口の中でハフハフしないといけないぐらいアツアツの食べ物は、当然食道の粘膜にもダメージを与えます。
熱い食べ物は食道の粘膜に炎症を起こすだけでなく、その刺激により食道粘膜に知覚過敏を引き起こす原因にもなります。
食道粘膜が知覚過敏を起こすと少量の胃酸の逆流でも胸やけなどの症状を感じやすくなるため食道粘膜の炎症が軽度であっても症状が強めに出やすくなります。
これを避けるためにアツアツの状態で食べずに少し冷ましてから食べるようにしましょう!!

脂っこい食べ物

脂肪は胃で消化されにくいため、脂肪を消化するためには多くの胃酸が必要になり、胃酸の分泌量が増加します。
脂肪は胃酸である程度消化されたあとに、コレシストキニンというホルモンにより十二指腸で分泌される胆汁酸と膵液によりさらに消化されますが、コレシストキニンには食道胃接合部の締め付けを調節している下部食道括約筋を緩める作用があります。このため、脂っこい食べ物を食べると、増加した胃酸が緩んだ食道胃接合部から食道に逆流しやすくなるため、症状が悪化します。

カフェイン

カフェインは胃を刺激して胃酸の分泌を促進する働きがあります。
また、カフェインには食道胃接合部の締め付けを調節している下部食道括約筋をゆるめる作用もあるため、胃酸の食道への逆流を増やし、逆流性食道炎の炎症を悪化させます。
カフェインの摂り過ぎは控えましょう。

炭酸飲料

二酸化炭素を高圧で水に溶かした飲料が炭酸飲料です。
このため、炭酸飲料を飲むと溶けている二酸化炭素が胃内で気化してガスを発生するため、胃が膨満し内圧が高まりゲップとなり口から出やすくなります。
ゲップが出るときには下部食道括約筋が緩みやすくなるため、胃酸が食道に逆流し易くなり逆流性食道炎の炎症を悪化させます。

アルコール飲料

少量のアルコール摂取は胃酸の分泌促進効果、胃の血流改善による胃機能の活性化、食欲増進効果があり、身体にとってプラスになる点もありますが、多量のアルコール摂取は、過剰な胃酸分泌を促進し、胃酸が食道に逆流し易くなります。
さらに、アルコールは食道下部の平滑筋に作用し、下部食道括約筋を緩め、食道の蠕動運動を低下させます。このため、食道に逆流してきた胃酸を押し戻す機能が低下し、胃酸が食道に逆流し易くなります。
特に、ビールなどのアルコール+炭酸飲料のものは、炭酸の作用により胃が膨張し内圧が高まるため、より胃酸逆流を促進するため、最も症状を悪化させる飲み物です。
アルコール度数の強いお酒をロックで飲んだり、空腹時に飲酒したりするのも食道や胃の粘膜を痛めるためお勧めしません。過度な飲酒は避け、どうしても飲みたいときはビールなどの発砲タイプのアルコールは避け、飲酒量を少量にとどめましょう。
飲む場合の適度な飲酒量は、日本酒であれば1日当たり1合程度、ウイスキーなら1日当たりダブルで1杯程度、焼酎ならコップ1/2杯程度にとどめておくのが良いでしょう。
この量でも症状が出現する場合は、飲酒は止めましょう。

まとめ

繰り返しになりますが、逆流性食道炎の最も大切な治療は、生活習慣の見直しです。
逆流性食道炎の症状は生活習慣の改善を意識すると薬を飲まなくても軽快させることが可能です。
逆に生活習慣の改善を行わなければ、薬を服用しても改善しません。
胃酸逆流症状がある場合は、まずは生活習慣を見直してみましょう。
お悩みの場合は、是非一度ご相談ください。
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この記事を書いた人

萱嶋 善行医師

福岡大学医学部卒業。
福岡大学病院など多くの総合病院で消化器内視鏡検査・治療を習得。
病理診断にも研鑽を積む。2023年3月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。