内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

胃が重い原因は逆流性食道炎とは限らない?注意したい病気とは

喉のつまり、胃の重み、胃もたれや胸やけ、みぞおちの痛みなどは、逆流性食道炎にみられやすい症状ですが、逆流性食道炎だけでなく進行胃がんなどの逆流性食道炎以外の病気でも見られることのある症状です。
胃が重い、胃に痛みがあるなどの症状の原因は、逆流性食道炎だけとは限りません。
そこで今回は、逆流性食道炎の原因や症状について解説したあとに逆流性食道炎に類似した症状がみられる病気についても解説します。

1. 逆流性食道炎とは

胸焼けの男性
逆流性食道炎は、胃の中の食べ物や胃酸などが、食道に逆流することで食道と胃のつなぎ目の食道部分が炎症を起こす病気です。
胃酸の成分は、塩酸です。食道の粘膜は、手などの皮膚と同じ細胞で構成されているため、手に塩酸がかかると火傷を起こすように、胃酸が食道に逆流すると食道の粘膜に炎症が起こります。このため、胸やけやみぞおちの痛み、背中の痛みなどの辛い症状が出現します。
健康な方でも、食べ過ぎた後などに胃酸の逆流が起こる場合もありますが、一時的であれば問題はありません。しかし、頻回に胃酸が逆流している場合や、長期間その状態が続くと、食道の粘膜が炎症を起こしてしまいます。
成人の10~20%が逆流性食道炎にかかっていると推定されています。特に中高年、高齢者に多くみられるのが特徴です。

1-1. 中高年、高齢者に多い逆流性食道炎

逆流性食道炎は、肥満体質や筋力低下によっても起こりやすくなることがわかっています。
アルコールや脂っこい食べ物を好んで摂取し、体型が肥満傾向の場合は、内臓脂肪が胃と食道のつなぎ目につきやすくなっているため、胃の入口である噴門の筋肉が緩くなり、常に胃の入り口が少し開いた状況になります。この状態を食道裂孔ヘルニアといいます。食道裂孔ヘルニアの状態になると、胃酸が食道に逆流しやすくなります。
また、脂っこい食べ物は、消化に時間がかかる食べ物のため、胃酸の分泌量が増え、さらに胃に停滞する時間も長くなるため、逆流するリスクを高めます。
高齢者の場合は、胃と食道のつなぎ目である噴門部を外から締め付けている筋肉である下部食道括約筋が緩みやすく、胃酸が逆流しやすくなります。下部食道括約筋は、40歳を境に徐々に緩みやすくなるといわれています。
「ただの食べ過ぎ」「加齢だから仕方がない」と適切な治療を行わないと、症状が悪化し生活に支障を来すケースも少なくありません。
肥満傾向にある方は、まずは、食生活や生活習慣の見直しを行い内臓脂肪を減らすことが大切です。また、高齢者で逆流性食道炎の症状がみられる場合は、腹式呼吸を意識的に行い、下部食道括約筋の筋肉トレーニングを行い、さらに胃に負担をかけない食べ物をとるなど工夫することもいいでしょう。
それでも症状が改善しない場合は、専門医に相談しましょう。

2. 逆流性食道炎と同じような症状がでる病気とは

胃のイラスト
胃酸が逆流して胃に不調が出るのは、逆流性食道炎だけの症状ではありません。胃の不調の原因となる逆流性食道炎以外の主な病気には、次のような病気があります。

・胃炎
・胃・十二指腸潰瘍
・機能性ディスペプシア
・胃がん

これらの病気は、主に胃の不調が現れることが多く、逆流性食道炎のような症状を感じるケースもあります。

2-1. 胃炎

胃炎は、薬の副作用、重度のストレス、免疫系疾患などが原因で起こる病気です。胃炎は、胃もたれや吐き気、痛みなどの逆流性食道炎と同じような症状の原因となります。

2-2. 胃・十二指腸潰瘍

胃や十二指腸の潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜に強い炎症が起こり、粘膜が欠損し潰瘍ができる病気です。胃や十二指腸の潰瘍でも胃痛や吐き気などの逆流性食道炎と同じような症状が出現します。
潰瘍ができる原因としては、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が最も多く、その他にはNSAIDsといわれる消炎鎮痛剤の定期的な服用や暴飲暴食、強いストレス、胃がんなどが原因になるといわれています。
空腹時の胃痛や胃もたれ症状が出現することもあり、潰瘍が悪化すると吐血や黒色便、胃や十二指腸に穿孔を来すこともあります。
吐血やタール便の症状がみられる場合は、胃・十二指腸潰瘍が深刻な状態である恐れが高いため、迷わず救急病院を受診しましょう。

2-3. 機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアの「ディスペプシア」とは、胃の不調からみられる胃の痛みや胃もたれなど腹部の症状を表す言葉です。
「胃が痛い」「胃が重い」などの胃の不調な症状があるにもかかわらず、胃の内視鏡検査を行っても胃自体には特に異常がない場合に、機能性ディスペプシアと診断されます。
機能性ディスペプシアで症状が出る原因は、大きく分けて2つあります。ストレスなどによって胃が刺激され胃酸が多く分泌されることと、胃が知覚過敏を起こしたり、胃の動きが悪くなることです。
刺激による胃酸の分泌増加に伴う症状に対しては、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬を服用します。また、胃の動きが悪くなった場合には、消化管運動機能改善薬で症状を抑えます。

2-4. 胃がん

初期の胃がんは、ほとんどの場合、無症状です。
胃がんが進行すると、胃もたれや胃痛、胃の重さを感じるなどの症状が起こります。胃の不調が軽い場合、自己判断で市販薬の内服で様子を見てしまい、病気が見つかったときにはかなり進行してしまっている場合もあります。
胃に進行がんがあると、食べ物が通りにくくなり胃酸が逆流しやすくなる場合もありますが、これを「逆流性食道炎かな?」と安易に思い込み様子を見てしまうことで、発見が遅れてしまうケースもあります。

3. ヘリコバクター・ピロリ菌感染

井戸水
「ピロリ菌に感染していると胃がんになりやすい」と聞いたことはありませんか?
実は胃がんの原因の中で、ヘリコバクター・ピロリ菌感染は90%以上を占めています。それだけではなく、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎に罹患している方にも、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているケースが多くみられます。
胃の不調が長期にわたって見られる場合には、ヘリコバクター・ピロリ菌感染があるかもしれません。

3-1. ヘリコバクター・ピロリ菌はどのように感染する?

ヘリコバクター・ピロリ菌は、ピロリ菌に汚染された井戸水や、感染者の唾液を介して感染します。
近年、下水道整備が行われピロリ菌に汚染された井戸水を摂取する機会は減少しました。また、離乳食を親が口で噛み砕いて幼児に与えるといった習慣が減少し、日本においては、若年層の感染率は減少傾向にあります。
ただし、井戸水が生活用水の家庭や、口移しで離乳食をもらう習慣が根付いていた60歳以上の世代の約50%は、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているといわれています。

3-2. ヘリコバクター・ピロリ菌除菌

ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌する最大のメリットは、胃がんリスクの軽減です。胃がんの原因の90%以上が、ヘリコバクター・ピロリ菌感染なのはさまざまな研究からわかっていることです。
また、除菌に成功すると、胃酸の逆流や胃・十二指腸潰瘍の再発もほとんどなくなるといった報告もあります。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃の粘膜内に留まり胃粘膜を傷つけ、さまざまな症状を起こしますが、年月をかけて傷つけられた胃粘膜は、除菌してもすぐには修復しません。感染していた年月が長ければ長いほど、その分修復するのにも時間がかかります。
また、一度傷つけられた粘膜は元通りにはなりません。
ヘリコバクター・ピロリ菌除去を、早いうちに行えば、感染期間が短くなる上に、胃粘膜の傷も最小限に抑えられる可能性があります。

4. 「胃が重い」を市販薬で改善しようとするのはおすすめできません

診察する男性医師
ここまで、胃の不調が症状として現れる主な疾患を解説しました。

胃もたれや胸やけなどの不調を抑えるために、市販の薬を服用している方も多くいます。市販薬には、胃酸の分泌を抑える薬や胃の働きを改善する薬などさまざまあります。場合によっては、胃の不調が改善されるかもしれません。
しかし、一時的に効果がみられても根本的な改善がみられないときは、進行がんやヘリコバクター・ピロリ菌が隠れている場合もあるので、迷わず専門医を受診しましょう。

5. まとめ

胃痛の男性
「胃が重い」など胃の不調は、逆流性食道炎にもみられる症状ですが、逆流性食道炎ではない可能性もあります。
長期にわたって胃の不調がある場合は、胃がんや進行がん、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が隠れているかもしれません。
「いつものこと」と市販の胃薬を服用するのではなく、一度専門医を受診し胃や十二指腸などの消化器の状態を確認するようにしましょう。

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この記事を書いた人

萱嶋 善行医師

福岡大学医学部卒業。
福岡大学病院など多くの総合病院で消化器内視鏡検査・治療を習得。
病理診断にも研鑽を積む。2023年3月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。