先日、有名歌手の方がメッケル憩室がんで亡くなりました。
メッケル憩室に発生するがんは、きわめてまれです。
そもそも、憩室とは何なのでしょうか。
憩室とは、消化管壁の一部が外側に突出し、嚢状(のうじょう・袋状の形のこと)になった状態をいいます。
憩室は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のいずれにもできますが、大腸にできることが一番多い病気です。
今回は、➀大腸憩室(憩室出血、憩室炎)と、②メッケル憩室について概説したいと思います。
大腸憩室は
大腸壁の固有筋層が欠損した部位から粘膜および粘膜下層が嚢状に漿膜側に突出した状態で、内視鏡で見ると凹みとして観察されます。
憩室の原因として食物繊維の摂取低下や便秘等による内圧亢進が関与しているとされています。
【疫学】
高齢になるほど増加する傾向があり、近年、高齢者ではその頻度は20%に達すると言われています。
欧米ではS状結腸に憩室が多く認められるのに対し、日本では従来右側結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)の頻度が高く70%を占めていました。しかし、近年S状結腸憩室が増加してきており、右側型50-60%、左側型15%、両側に認めるものが20~35%程度とされています。
【症状】
大腸憩室は多発することが多く、炎症、出血、穴が開く、狭くなるなどの原因となります。
大腸憩室が存在するだけでは特に問題ありませんが、出血や炎症を起こした場合が問題となります。
【疫学】
大腸憩室保有者の累積出血率は 0.2%/1年、2%/5年、10%/10年といわれています。
年々増加しており、低用量アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用者の増加が その要因と推定されています。
また、再出血率は1 年後で20〜35%、2年後で 33〜42%とされています。
一度憩室出血を起こした方は、再出血を起こしやすい傾向にあります。
【症状】
腹痛を伴うことなく突然に鮮やかな出血あるいは赤黒い出血を多量に認められます。高齢者で低用量アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与されている場合には強く疑う必要があります。憩室からの出血が起こった場合には、どの憩室から出血しているかを同定することは困難な場合が多く、さらにとくに、血液をサラサラにする作用のある抗血小板薬あるいは抗凝固薬を内服中の場合には自然止血後も再出血する危険があるため注意が必要です。
【診断】
診断は、内視鏡検査やCTで行います。しばしば出血源を同定できないことがあります。クリップ法などにより治療しますが、自然止血を得られることも多いです。
【治療】
大腸内視鏡で出血している憩室を発見できた場合にはクリップで挟んで止血するクリップ法が最も有効で安全です。多くの症例で自然止血するか内視鏡的に止血できます。
憩室出血の3/4は自然止血するため、実際に内視鏡で観察した場合には既に止血している場合も少なくありません。
一方で約4割が再出血すると言われており、出血量が多く輸血を必要とする場合もあります。大量出血によりショック状態にあるような場合には、腹部血管造影などを用いて活動性出血を確認して選択的動脈塞栓術による止血処置や外科手術によって出血腸管を切除することによって止血します。
【疫学】
大腸憩室炎は大腸憩室出血より 3 倍程度多いとされています。
60歳未満で右側結腸憩室炎が多く、より高齢では左側結腸憩室炎が多いとされています。左側結腸憩室炎の方が合併症を伴いやすく重症化しやすいです。
憩室炎には、喫煙が大腸憩室炎の合併症の増悪に関与している可能性が高く、肥満も関連が強いと考えられています。
【診断】
診断はCT検査や血液検査を用いて行うことが多いです。
【治療】
抗生剤投与が基本です。重症化した場合や穿孔(腸が破れる)した場合は手術となります。
憩室炎により膿瘍が形成され、多臓器に穿破する、もしくは炎症を繰り返すことにより瘻孔(炎症などによって生じた、臓器と別の臓器をつなぐ異常な管状の穴のことをいいます。)が形成されることがあります。大腸憩室炎の4〜20%に瘻孔が形成されるとされています。最も多いのが、S状結腸と膀胱の瘻孔です。症状は、気尿、糞尿、繰り返す尿路感染症です。瘻孔が自然閉鎖することは稀ですので、瘻孔を形成した場合は外科手術となります。
憩室炎を繰り返すと、大腸が狭窄することがあります。S状結腸が狭窄することが多く、通過障害が著しい場合は、外科手術となります。
メッケル憩室とは、小腸の壁の一部が袋状になって外側に突き出たものをいいます。
消化管に関連した形態の異常としてはもっとも頻度の高いものであり、2%前後の人がもっているといわれています。
その多くは無症状ですが、なかには腹痛や出血などをきたし、必要になることもある病気です。
【原因】
妊娠初期の段階で、赤ちゃんの小腸は卵黄のうと呼ばれる体の外の空間とつながっています。卵黄のうと小腸をつなぐため、卵黄管と呼ばれる組織がへその緒の中に存在していますが、通常は妊娠7週頃までに卵黄管は閉鎖します。
しかし、卵黄管がうまく閉鎖せず残ったときにメッケル憩室が発生します。
メッケル憩室の粘膜には、胃や膵臓の組織の一部が認められることもあります。本来存在するべき部位以外にこれらの組織が認められることから、異所性組織と呼ばれることもあります。
【症状】
メッケル憩室が存在しても多くの方は無症状で経過します。そのため、腹部の手術をした際に、偶然メッケル憩室が発見されることもあります。
メッケル憩室には胃の粘膜が存在していることがあり、粘膜に潰瘍が形成されることがあります。この場合は、メッケル憩室からの出血で、発見されることがあります。
出血以外に、腸閉塞、憩室炎、穿孔などで発症することがあります。これらの場合は、嘔吐や腹痛、発熱などの症状が現れます。
【診断】
メッケル憩室の診断は、シンチグラフィ、腸管動脈造影、小腸内視鏡、試験的開腹術などを組み合わせて行います。
メッケル憩室は上腸間膜動脈と呼ばれる動脈で血液の供給を受けています。出血をきたしている場合には、この動脈を介してメッケル憩室から出血していることが造影検査で同定できることもあります。
メッケル憩室の診断は必ずしも容易ではありません。メッケル憩室が疑われるにもかかわらず、種々の検査で確定できない場合、お腹を実際に開けて直接病変部位を観察する試験的開腹術が行われることもあります。
【治療】
メッケル憩室の治療は手術が基本です。
炎症や出血による影響がメッケル憩室のみに限るようであれば、メッケル憩室を切除します。他の小腸にも影響が起きているときには、腸管切除・吻合術が必要になることもあります。
この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。