「食事を食べたあとに咳が出る」
「口の中に酸っぱいものが込み上げてくる」
「胸が痛い」
こんな症状に心当たりのある方はいませんか?もしかしたら、その症状は逆流性食道炎かもしれません。近年、日本では逆流性食道炎になる方が増加しています。
逆流性食道炎は、生活習慣、食生活の変化・ストレスなどが原因となって起こる病気です。
その症状はさまざまであり、ときには心疾患とよく似た症状が現れることもあります。
また、以前は中高年層に発症しやすい疾患と言われていましたが、最近では若い世代の人の発症率も増加傾向にあるようです。
このページでは、逆流性食道炎の症状や原因、診断や治療法についてご紹介します。
自分の症状は逆流性食道炎の症状に当てはまるのか、気になっている人はぜひ最後までご覧ください。
逆流性食道炎とは胃食道逆流症(GERD)と呼ばれる症状の一つに含まれる疾患です。
逆流性食道炎は胃の内容物、その中でもとくに胃酸が食道に逆流することにより食道に炎症が起こる病気です。
食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋という筋肉があります。
下部食道括約筋には食べ物が通過するとき以外は、胃の入り口を締めて胃の内容物が食道に逆流しないようにする働きがあります。
しかし下部食道括約筋が緩んでしまうと、胃から食道への逆流が起きてしまいます。
健康な方でも胃酸が逆流することはありますが、その頻度は少なくまた逆流している時間も短いため治療の必要はありません。
しかし逆流の頻度が多く時間が長くなると、食道の粘膜は胃酸に弱いため炎症が起きてしまいます。その結果、不快な症状が現れるのです。
胃食道逆流症には逆流性食道炎とは異なる「非びらん性胃食道逆流症」があります。
非びらん性胃食道逆流症は、食道の粘膜に炎症などは見られません。
しかし胃酸の逆流により、胸やけや咳・喉の違和感・咽頭痛・胸痛・胸の詰まり感などの不快な症状が起こります。
胃酸の逆流による症状が見られる方の約6割が症状のみを呈しており、残りの約4割の方が食道に炎症が起こっている逆流性食道炎であるといわれています。
実際に胃酸が逆流する、逆流性食道炎の診断は難しいのですが、普段と違うような、胸、喉、口の症状を感じたら、胃酸関連の症状であると思っておいた方が良いでしょう。
逆流性食道炎の一般的に多く見られる症状をご紹介します。
・胸が痛くヒリヒリしてしみる感じがする
・胸が熱く掻きむしりたくなるような不快感がある
・締めつけられるような激しい胸の痛みがある
・みぞおちがジリジリと焼けるような感じがする
・胸が詰まるような痛みがある
・胸の中心を圧迫されるような痛みを感じる
・のどがイガイガする
・のどに違和感がある
・のどに痛みがある
・のどにひっかかっている感じがする
・のどが詰まる感じがする
・食べ物が飲み込みづらい
・突然咳が出たり、しつこく咳が長引いたり、気管支炎のような症状が出る
・声が擦れる
・高い声が出にくい
・酸っぱいものが込み上げてくる
・げっぷが頻繁にでる
・食事のときにむせる
・耳に違和感を感じる
・耳の奥が痛い
・耳鳴りがする
・胃が重たくて吐き気がする
・胃がキリキリと痛い
・胃がもたれる
・食欲がなくあまり食べられない
・お腹が張る(膨満感)
・みぞおちが痛い
・背骨の横が痛い
・背中が突き抜けるように激しく痛む
これらの症状は胃酸が這い上がってくることによって起こります。
逆流性食道炎の症状でもご紹介しましたが、症状の一つに「胸の痛み」を感じる方がいます。
胸の痛みがある場合は、どのようなタイミングで症状が現れるのかをしっかり把握することが大切です。
階段の昇り降りや走ったりといった動作を行ったあとに胸の痛みの症状が現れる場合は、心臓疾患の可能性が考えられます。
狭心症や、狭心痛は運動をした後に心筋虚血状態をきたし、冠動脈が細くなって血液が流れにくくなり、心臓に痛みを伴うことが特徴です。
心筋梗塞は、心臓の血管が詰まることによって患者の半数は突然激しい胸の痛みが生じます。(半数は何らかの予兆がある)
症状が現れるタイミングや痛みの大きさをを把握することで症状の原因となる病気を発見することができます。
逆流性食道炎と聞くと、暴飲暴食をイメージする方も多いと思います。
暴飲暴食も原因の一つではありますが、それだけではありません。
実は逆流性食道炎の原因は大きく4つに分けることができます。
原因の一つに食事があげられます。刺激のある食べ物は胃酸の分泌を増加させるため、逆流性食道炎を引き起こす大きな原因といえます。
刺激といえば辛いものを想像されるかもしれませんが、実は甘いものも胃にとっては大きな刺激になるのです。
・辛いもの
・酸っぱいもの
・塩分の高いもの
・甘いもの
・脂っこいもの
・アルコール
・熱いもの
この中でもとくに注意したいのは、「辛い」「熱い」「脂っこい」です。
辛い食べ物は、食道粘膜を刺激しますので、すでに食道に炎症がある場合はさらに悪化させます。
熱い食べ物は、食道粘膜が火傷して炎症を起こすだけでなく、知覚過敏も起こします。これにより少量の胃液の逆流でも胸焼けなどの症状を感じやすくなります。
脂っこい食べ物を摂ると、十二指腸からコレシストキニンというホルモンが分泌され、脂肪消化の手助けをします。
このコレシストキニンには下部食道括約筋を緩める作用があるため、食べ物や胃酸の逆流を引き起こしてしまいます。
よく脂っこいものを食べると気持ち悪くなる方もいると思いますが、これは胃酸が関係していると考えられます。
このように、刺激のある食べ物をまったく食べてはいけないというわけではありませんが、食べ過ぎたり数日続けて食べることでより症状を悪化させてしまいます。
胃にとって刺激の少ない食事であっても食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、胃内圧が上昇し、食道括約筋が緩むことにより胃酸や食べ物の逆流が起こりやすくなります。
また、早食いや大食いは肥満を来たしやすいことが報告されています。
肥満になることで腹圧が上がり、胃を圧迫して胃酸や食べ物の逆流が起こりやすくなります。
また、食後は胃酸がもっとも多く分泌されるため、食後すぐに寝たり横になったりするとより胃酸が逆流しやすくなってしまいます。
食後30分以上は横にならないようにしましょう。
食事だけではなくストレスも逆流性食道炎の原因の一つとなります。
体の中でもとくに消化器官はストレスの影響を受けやすく、ストレスがかかることで胃酸の分泌が増えてしまいます。
胃酸の分泌が増えると下部食道括約筋の機能が低下し、胃から食道へ逆流が起きやすくなるため、ストレスを解消することが大切です。
よくストレスを溜め込むと胃が痛くなるという方がいますが、それは胃酸の過剰な分泌が影響していると考えられます。
姿勢と逆流性食道炎は一見すると関係ないように感じるかもしれません。しかし前かがみになると胃が圧迫されて胃酸が逆流しやすくなります。
その他にも猫背や腹部を締め付けるような服装なども胃を圧迫してしまいます。
また肥満体型の方も腹圧がかかりやすいため、胃酸が逆流しやすくなります。
以前は中高年層(40〜50代)で発症すると言われてきた逆流性食道炎ですが、近年では食生活や生活習慣の変化によって10代からの若い世代の人にも発症するケースが増えてきています。
若者の逆流性食道炎の原因は以下のことに関係があります。
・夕食の時間が遅く、食べてすぐに就寝することが多い
・前屈みでの作業が多い
・肥満
・カフェイン飲料、炭酸飲料、アルコール、脂っこい食べ物を多くとる
・便秘
このような生活習慣や食生活が原因となり、近年では幅広い年齢層の方に逆流性食道炎は起こりやすくなっています。
逆流性食道炎は男性の方が、女性の3倍の患者数がいると言われています。
男女共に年齢が高くなるほど有病率、重症度が高くなっています。
男女共に高齢者の方が有病率及び重症度が高くなっています。
逆流性食道炎の診断は問診や必要に応じて内視鏡検査によって行われます。
問診では症状について聞き取りを行います。
問診ではどのような症状があるのか、またその症状はどのようなタイミングで現れるのかの聞き取りが行われます。
一般的には問診だけでは逆流性食道炎の診断は難しく、逆流性食道炎が疑われる場合は詳しい検査を行います。
問診を行い逆流性食道炎が疑われるときは、内視鏡検査を行います。
内視鏡検査と聞くと「つらい」「苦しい」というイメージを持たれる方も多いかと思います。
しかし内視鏡検査は逆流性食道炎や食道や胃などの消化器官の状態を確認するためには、欠かせないものです。
最近では、苦しさと痛みに配慮しながら、高精度の内視鏡検査を行うことができる病院が増えてきています。
個人に合わせた最適な量の鎮静剤を用い、ウトウトと眠ったような状態で、内視鏡専門医の巧みな技術により、目が覚めたら検査が終わっていたという方がいるほど、負担を軽減することができます。
逆流性食道炎と診断された場合、治療を行います。
逆流性食道炎の治療は主に3つあります。
また、どうしても症状が強い時の応急処置も提示します。
内服療法では胃酸を抑える薬が処方されます。主に処方される薬はプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどです。
内服を続けても効果が不十分な場合は、胃の運動を改善する薬や胃酸を中和する制酸剤を併用することもあります。
2014年からは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が加わりました。現在、日本で使用されている胃酸を抑える薬の中で一番強力です。
また、従来のPPIは効果発現まで3日~5日ほどかかるのに対し、P-CABは効果発現まで3時間と短く、かつ24時間効果が持続します。
逆流性食道炎の治療は、内服療法だけではなく生活習慣を改善することも大切です。
以下の点を心がけることが、症状の改善につながります。
・食べ過ぎ・早食いは避けましょう
・脂肪の多い食事・刺激のある食べ物・アルコール・炭酸飲料は控えましょう
・喫煙はできるだけ控えましょう
・食後2~3時間は横にならないようにしましょう
・寝ているときに逆流症状がみられる場合は、頭を高くしましょう
・肥満体型の方は、体重を落としましょう
・腹部を締め付けるような衣類は避けましょう
・腹圧がかかるような前かがみの姿勢を長時間しないように心がけましょう
腹圧がかかるような前かがみの姿勢を日常的にしている方は、正しい姿勢にするために理学療法を行うことがあります。
姿勢が悪く猫背になると、神経が圧迫され自律神経のバランスが乱れてしまいます。
下部食道括約筋は自律神経によってその働きがコントロールされていることから、姿勢が悪く自律神経のバランスが乱れると下部食道括約筋の働きが低下するため、姿勢を正す治療が必要となることがあります。
即効性はありませんが、腹式呼吸も有効です。
腹式呼吸を行うことにより、横隔膜を上下に動かすことができますので、横隔膜が鍛えられ、下部食道括約筋が正しく働くようになり、胃酸の逆流を防ぐことができるようになります。
腹式呼吸のやり方としては、
①仰臥位になり、お腹に手を当てる。
②お腹を膨らませながら、3秒かけて鼻で息を吸う。
③1秒息を止める。
④お腹を凹ませながら、6秒かけて口で息を吐く。
寝る前に腹式呼吸を毎日行うと必ず症状は改善してきます。ぜひ行ってみてください。
胃酸や食べ物が逆流して、胸焼けなどの症状が強い時の応急処置があります。それは
「コップ1杯の常温の水を飲む」ことです。
これは、飲んだ水が食道に逆流して、食道の壁についた胃酸を洗い流してくれることで症状が軽減します。
(飲んだ水で胃酸が薄まるからではありません)
水以外にも、カフェインの入っていない常温のお茶でも大丈夫です。
逆流性食道炎はさまざまな原因により発症します。
また胸の痛みなどの症状は、症状が出るタイミングによって生命に関わる大きな病気が原因となっている可能性もあります。
気になる症状があるにもかかわらずそのまま治療せずに放っておくと、生活の質(QOL)の低下を招いてしまいます。
経鼻内視鏡や鎮静剤を用いた経口内視鏡など、精神的にも身体的に負担を軽減する検査方法を提案してくれる医療機関も増えてきているため、不安な方や心配な方は医療機関に相談してみましょう。
口の中に酸っぱいものが込み上げたり喉に違和感があったりなど気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。
この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。