内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

胃潰瘍の原因はストレスだけじゃない?気になる症状と予防法

「食後、胃が痛い」「吐き気がする」などの症状や、胃の不快に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

胃の痛みが症状として現れる病気はいくつかありますが、その代表的な病気の一つに胃潰瘍があります。
胃潰瘍はストレスが原因と思われがちですが、ストレスよりも多いといわれている原因があります。また胃潰瘍はそのまま放っておくと、合併症を引き起こし、手術が必要となる場合もあるため注意が必要です。

今回は胃潰瘍の原因とその症状、日常生活で実践したい予防法について解説します。

1. 胃潰瘍とは?

腹痛の男性
胃潰瘍(いかいよう)とは、胃壁が傷つきえぐれてしまう病気です。

本来、胃壁は食物を分解する役割をもつ胃酸から守られていますが、さまざまな理由により胃酸と胃液のバランスが崩れて、炎症を起こしてしまいます。

厚生労働省が発表した『平成29年 患者調査(疾病分類編)』によると、平成29年の胃潰瘍の推計患者数は約20万人と報告されており、平成8年より毎年患者数は減少しています。

1-1. 胃潰瘍の原因とは?

胃潰瘍の原因はさまざまです。ストレスや喫煙、過度のアルコール摂取などの生活習慣などは、胃酸と胃液のバランスの乱れを引き起こす原因と考えられています。

しかし近年、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌の感染が、胃潰瘍の発症に関わっていることが判明しています。ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が毒素を産生し、毒素が胃の粘膜に直接作用することで胃の粘膜に炎症が起きます。また、ピロリ菌により胃の粘膜を守る胃液が減少するので、胃壁が傷つき潰瘍ができてしまいます。

また非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)の服用によって、胃潰瘍ができると考えられています。非ステロイド消炎鎮痛薬は、胃の粘膜を保護する役割があるプロスタグランジンを作る力を低下させるため、薬剤性潰瘍を引き起こす原因となります。

1-2. 胃潰瘍の症状

胃潰瘍の代表的な症状は胃痛ですが、それだけではありません。胃潰瘍の症状が出現しているにもかかわらず、そのまま放っておくと症状が深刻化していくケースも多くあります。

〇心窩部痛(しんかぶつう)
心窩部痛とは、みぞおちの中央部分に起こる鈍い痛みのことです。初期の段階から見られる、典型的な症状です。空腹時や食後に痛みが起こりますが、胃潰瘍の場合は空腹時に痛みが起こることが多いと言われています。

〇嚥下困難・嚥下障害
潰瘍ができ胃の蠕動運動(ぜんどううんどう)がうまくできないと、のどや胸に物がつかえた感じや不快感、物の飲み込みにくさなどの嚥下が困難になる、嚥下障害が起こります。

〇出血
潰瘍が進行すると、胃壁の血管が浸食され出血します。出血が続くと血液が胃酸で酸化され黒色の便が出ます。さらにそのまま放置していると、病変部から大量出血し吐血するケースもあります。また出血が長期間続くことで貧血になり、貧血による症状も出てきます。

〇その他の症状
上記が胃潰瘍の代表的な症状ですが、それ以外にもさまざまな症状が現れるケースもあります。

・胸やけ
・嘔吐
・食物の逆流
・冷や汗
・動悸
・息切れ

2. なぜピロリ菌に感染するの?

遊具で遊ぶ子ども
胃潰瘍の原因でもっとも多いといわれるヘリコバクター・ピロリ菌は、胃潰瘍だけではなく胃がんの原因でもあるといわれています。

2-1. ヘリコバクター・ピロリ菌とは?

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃の粘膜にすみつく細菌で、一般的に「ピロリ菌」と呼ばれています。ピロリ菌は長さ4ミクロン(4/1000mm)のらせん形で、その端に長いしっぽのようなべん毛が4〜8本ついており胃の中を活発に動き回ります。

ピロリ菌に一度感染すると、除菌をしないほとんどの場合、そのまま胃の中に住み続けます。

2-2. ピロリ菌の感染経路は?

ピロリ菌の感染経路は明らかになっていません。一般的に4~5歳までに感染してしまうと言われており、成人してから感染することはほとんどありません。
感染経路として考えられることは以下の通りです。

〇井戸水を飲んでいた
かつて井戸水を飲んでいた方は、ピロリ菌に感染しているリスクが高いといわれています。井戸水の中にピロリ菌が入り込み、それを飲んで感染するケースです。近年、水道設備が整い井戸水を飲む方が減った影響もあり、ピロリ菌の感染率は減少しています。

〇親から子どもへの感染
ピロリ菌に感染している親が自分の使った箸で子どもに食べ物を与えることで、子どもが感染するケースがあります。胃の中にいるピロリ菌が唾液に含まれていると、唾液を介して子どもの体内に入ってしまうのです。

〇幼稚園や保育園での感染
ピロリ菌に感染している友達が使った遊具などの共有により、ピロリ菌に感染するという報告があります。

〇トイレでの感染
これまで便の中からピロリ菌が検出されたケースがあります。ピロリ菌に感染した方の便になんらかの理由で触れてしまい、そこから体内にピロリ菌が入り感染してしまう恐れがあります。

3. 胃潰瘍の検査・診断方法

胃カメラ
胃潰瘍の検査を行う前に問診で、どのようなときにどんな症状が現れるのか聞き取ります。しかしそれだけでは胃炎や胃がんなどの、他の疾病との判別が難しいため、胃の中の状態が確認できる検査が行われます。

3-1. 胃X線検査

胃X線検査は、一般的にいわれるバリウム検査です。バリウム(造影剤)と胃を膨らます発泡剤を飲み、体を動かしながら胃壁の凹凸を写し出す検査方法です。

3-2. 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)

胃カメラは内視鏡を口や鼻から挿入し、胃の中を直接観察する検査です。

スコープの先端に小型のカメラがついており、粘膜の凹凸や色の違いなどを確認します。胃カメラはバリウムではわかりにくい凹凸がない病変や、出血なども確認できるため、病気が疑われるようなものがあれば検査中に粘膜組織の採取が可能です。また胃カメラでピロリ菌に感染しているかどうかを確認することも可能です。

3-3. 胃カメラでピロリ菌の感染がわかる理由とは

肉眼で確認できないほど小さなピロリ菌を胃カメラで見つけられるのか、不思議に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

胃カメラでピロリ菌を見つけるのではなく、ピロリ菌に感染している胃の粘膜の特徴により判断します。ピロリ菌に感染していない胃は艶がありさらさらとした粘液で、胃の中のひだは細いのが特徴です。

しかしピロリ菌に感染している胃は全体的に粘膜が赤く、白く濁った粘り気のある粘液で、ヒダは太いのが特徴です。ピロリ菌が長く胃の中に生息していると胃粘膜が徐々に薄くなり、萎縮性胃炎や胃がんなどの原因になると考えられています。

4. 胃潰瘍の治療法

薬とお薬手帳
胃潰瘍の治療法はさまざまですが、症状や原因によって異なります。胃潰瘍はそのまま放っておくと、症状が悪化してしまうこともあるため、自覚症状があるときは、早めに医療機関を受診しましょう。

4-1. 薬物療法

胃潰瘍は、胃酸を抑制するのが治療の基本となります。胃酸を抑制する薬として、プロポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬が処方されます。最近では、最強の胃薬と言われているボノプラザンというPPIの仲間が発売されました。現在ではこのボノプラザンが胃潰瘍治療の主流となっています。

ただし内服を中断すると再発するケースが多いため、継続的な内服が必要です。また胃粘液や粘膜の血流を改善するための、胃粘膜保護薬が処方される場合があります。

4-2. ピロリ菌の除菌

胃潰瘍の根本的な治療として欠かせないのが、ピロリ菌の除菌です。除菌治療では、アモキシシリンとクラリスロマイシンという抗生物質と、酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬が処方されます。この薬を1週間内服し、8週間経過した後、尿素呼気試験や便中抗原法を行い除菌ができたかどうかを確認し、治療を終了します。
現在の除菌治療は、除菌成功率が90%まで上昇しています。

4-3. 手術

胃潰瘍の治療で外科的手術が行われるケースは少なくなりましたが、大量出血や穿孔(せんこう)、狭窄のような合併症状が見られた場合、外科的手術が行われます。

4-4. その他の治療法

非ステロイド性抗炎症薬が原因で胃潰瘍ができた場合は、服用を中止するか減薬する必要があります。その後、薬物療法でご紹介した内服薬を服用します。

5. 胃潰瘍の予防法

ベッドで寝る女性
胃潰瘍は再発しやすい病気であるため、食事や生活習慣を見直しましょう。

5-1. 食生活

栄養バランスのとれた消化がよいものを食べましょう。塩分や油分の多い食事は胃の粘膜に負担をかけるため、食べ過ぎに注意が必要です。また香辛料などが多く含まれた食事も胃に大きな負担がかかるため、なるべく控えるようにしましょう。

5-2. 生活習慣

ストレスや自律神経のバランスが乱れると、胃酸が過剰に分泌されてしまいます。睡眠時間や体を休める時間を確保しながら、ストレスや疲れを溜めないような生活を心がけましょう。また、過度な飲酒や喫煙も胃潰瘍の原因と考えられているため、控えるようにしましょう。

6. まとめ

食欲不振の女性
胃潰瘍の原因の多くはピロリ菌です。ピロリ菌の感染者数は近年減少傾向にありますが、ピロリ菌に感染しても特に目立った自覚症状はないため、自分が感染しているかどうかは検査する必要があります。

胃潰瘍は放っておくと手術が必要なケースもあるため、早期発見、早期治療が大切です。胃痛や出血、嚥下障害など気になる症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。