内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

【アニサキスの治療方法】自然治癒が可能?激痛以外にも危険なこと

美味しそうな刺身や寿司を食べて、その数時間後にいままでに経験したことのないほどの胃の痛みを感じる人がしばしばいます。

この激痛の正体は、アニサキスによるものかもしれません。
私たち日本人は魚を生で食す文化があり、アニサキスによる腹痛を起こす可能性も高いといえます。

そこで今回は、アニサキスとは何か?もしアニサキスによる腹痛が出た場合には、どんな治療法方法が適切なのか、などについて解説します。

1. アニサキスとは?

さば
アニサキスとは、サバ・アジ・サンマ・カツオ・イワシ・サケ・イカなどの光ものと呼ばれる魚介類に多く寄生している線虫の一種です。
長さは2~3cmで幅は0.5~1mm程度の白い糸のような寄生虫で、魚介類に寄生しているのはアニサキスの幼虫になります。

アニサキスは、プランクトン(オキアミ)の一種を食した魚介類の内蔵に寄生します。
寄生したアニサキス(幼虫)は、寄生していた魚介が死亡しても生き続け、内蔵から筋肉(刺身となる部分)に移動することが特徴です。

生鮮魚介類を生で食べることで、アニサキスも一緒に摂取してしまうことが問題になります。
 
体内に入ったアニサキスが、胃壁や腸壁に侵入し食いつき激痛を伴う食中毒を引き起こすからです。

2. アニサキスによる食中毒の治療法

アニサキスのよる腹痛
アニサキスによる食中毒について間違った情報が、口コミや知恵袋などで見られます。
その中には、医学的な知識ではないものも多くあるので注意が必要です。

適切な対応ではない場合には、命の危険を伴う可能性があります。正しい知識を持って、もしものときに適切な対応をしましょう。

2-1. 医療機関に必ずいくこと

病院
まず、「アニサキスがいる魚」を食べた方全員がお腹が痛くなるかというとそうではありません。
アニサキスを食べた方の95%は、特に症状もなく、あるいはごく軽い胃の痛みで済んでしまいます。
つまり、あの激しい腹痛は5%の方に起こる稀な症状なのです。

しかしながらその5%の中には、稀に合併症を引き起こし重症化する場合があります。

アニサキスかな、と思われるような症状(生の魚介類を食べたあとに胃の痛み、吐き気などを感じる)がある場合は民間療法などに頼らずすぐに病院にいきましょう。

2-2. 胃カメラを使い除去する

胃カメラ
周期的に繰り返す痛みやそれ以外の症状によって、アニサキスによる食中毒と判断されることは多く、専門医はアニサキスを発見する目的で緊急の胃カメラ検査を行います。
アニサキス幼虫に対する効果的な治療薬はありません。アニサキスの唯一の治療法は除去することです。

胃壁や腸壁に食いついているアニサキスを内視鏡用の鉗子によって切ることなく除去する必要があります。
アニサキスをきちんと除去すれば、嘘のように症状が消失します。

胃カメラで素早く発見し、鉗子を使いアニサキスを頭からきれいに摘出できるのは、専門医であればこその処置です。

魚介類を摂取したあとに、みぞおちや下腹あたりに痛み・吐き気・嘔吐・発熱などの症状が現れる場合には、専門医を受診し適切な処置をしましょう。

2-3. もしもアニサキスになったときに選択したい医師とは?

アニサキスによる症状であると診断されると、緊急の胃カメラ検査が行われます。
人間ドックや健康診断などで、胃カメラを経験されたことがあれば想像できますが、口からカメラを入れるのは苦痛を伴います。

アニサキスによる腹痛や吐き気などを伴っている状況で、胃カメラでの苦痛も加わることがあると考えると、受診する医師の選択が重要です。

内視鏡の専門医師で、培ってきた内視鏡技術の経験を十分に活かした検査が可能であれば胃カメラによる苦痛も軽減できるでしょう。

治療方法や検査方法は医院によって異なるため、情報を確認しておくといいかもしれません。

3. アニサキスによる食中毒の症状と期間は?

腹痛に悩む女性
軽い腹痛を伴う場合やその後激痛、腸閉塞に至る場合などさまざまあります。
代表的なアニサキスによる食中毒の症状は、1時間に1回程度の周期的な痛みを繰り返すことです。

アニサキスが侵入した場所などによって、症状は異なります。下記にまとめてみました。

3-1. 急性胃アニサキス症

急性胃アニサキス症は、アニサキスが侵入した生の魚介類を口にすることから体内に入り、胃の壁に突き刺さることで発症します。いわゆる「アニサキス症」とはこの「急性胃アニサキス症」のことを指す場合がほとんどです。

生の魚介類を食べてから3~4時間後に、

・みぞおち付近の痛み
・吐き気・嘔吐

などの症状が現れるのが特徴です。

アニサキスは、胃の中の過酷な環境に耐えきれず、逃げようとして胃壁に食いつきます。するとこの胃粘膜でアレルギー反応が起こり、それが原因であの激しい痛みが生じるのです。
アレルギー反応が出ない場合や出ても軽度の場合には、痛みが少ないといわれています。

反対に、何度も急性胃アニサキス症になってしまう方もいらっしゃいます。
最近、「アニサキスが食いつきやすい胃粘膜とがんが関連している」という報告もあり、注意が必要です。

3-2. 急性腸アニサキス症

急性腸アニサキス症
急性腸アニサキス症は、急性胃アニサキス症と同様に、アニサキスが体内に入り、腸に食いつくことで発症します。

生鮮魚介類を生食で食べてから十数時間~数日後に、

・強い下腹部痛
・腹膜炎症状
・吐き気・嘔吐
・発熱

などの症状が現れます。

稀なケースとして、腸閉塞や腸穿孔に至ることがあり、その場合は入院が必要です。

3-3. 消化管外アニサキス症

アニサキスが消化管を突き破り、大網・腸間膜・腹壁皮下などに移行し、肉芽腫をつくることもあります。

胃アニサキス症や腸アニサキス症と比べると症例数が少なく、場合によっては重症化することもありクリニックでは対応ができない場合がほとんどです。

このようにアニサキスの侵入した場所によって、症状や症状が出るまでにかかる時間も異なるのです。
それ以外にも、アニサキスの侵入場所に関係なく起こる症状もあります。

3-4. アニサキスアレルギー

アニサキスアレルギーとは、生きた虫体を摂取した場合だけではなく、死んだ虫体を摂取した場合にも起こります。

調理済みの魚介類を食べてもアニサキスの死骸があればアレルギー反応が起こるので注意が必要です。

アニサキスがアレルゲンとなり、

・蕁麻疹
・喘息
・アナフィラキシー

などのアレルギー症状を示す場合があります。

アレルギー反応は回を重ねることで症状も激しくなり、焼き魚やかつお出汁でもアレルギー症状を起こす可能性もあります。
また、完治することは難しいと言われています。

4. アニサキスを予防するためには?

マグロの刺身
アニサキスを予防するにはどんな方法があるでしょうか?

4-1. 魚介類の生食を避けること、もしくは加熱してから食べる

アニサキスを予防するには、魚介類の生食を避けること、もしくは加熱してから食べることが一番の予防法です。

アニサキスが寄生している可能性が高い魚介類は、サバ(とくにシメサバ)・イカ・アジ・サンマ・イワシ・タラ・カツオなどが代表的です。

アニサキス症のリスクが高い食べ方は、魚介類の生食です。
アニサキスは、70度以上の湯通しまたは60度以上で1分以上の加熱、マイナス20度以下で24時間の冷凍で死滅します。
生鮮魚介類でも、一度冷凍したものを解凍し食す方がリスクが低くなります。

また、約2~3cmと目に見える大きさのアニサキスは、調理するときに発見することもできます。
魚の内臓に寄生していたアニサキスは、その魚が捕獲された(死亡)直後から、筋肉へと移動する習性があります。

魚の内臓に近い筋肉の部分をよく見て、調理の際に見つけたら取り除くようにしましょう。

ちなみに、養殖の魚はアニサキスがいないと言われていますが、甲殻類などの餌をあげている場合はアニサキスがいる可能性がありますので、絶対安心ということはありません。

4-2. 魚ができる限り新鮮なうちに内臓を取り除く

魚
刺身用に調理する場合などには、魚ができる限り新鮮なうちに内臓を取り除くことで、筋肉に移動する前のアニサキスも除去できる可能性が高いです。

調理前の処理や調理時にアニサキスを除去することが可能なため、アニサキスを予防するには適切な調理法と調理時の観察力がポイントとなるでしょう。

4-3. 手に傷などある場合は、手袋を使用して生魚を調理する

手袋
また、アニサキスアレルギーを予防する方法は下記の通りです。

・疲労・体調不良のあるときは生魚は避ける
・手に傷などある場合は、手袋を使用して生魚を調理する

アニサキスによって、アナフィラキシーショックを起こすことは命にも関わります。アレルギー反応を起こさないためにも、生食で魚介類を食すときの知識が必要だといえます。

5. アニサキスは胃液では死なない?

アニサキスは、人体の中では生息することができないため侵入して1週間ほどで死滅するといわれています。
しかし、胃液では死滅することがありません。

アニサキス症は、アニサキスが胃壁や腸壁に食いつくことで発症するものです。
アニサキスは胃壁を破壊して細胞内に侵入しようとします。

そのときに胃液に触れても死滅しないだけではなく、一般的な料理で使う食酢での処理や塩漬け、わさびなどの殺菌処理でもアニサキスは死滅しません。

つまり、アニサキス症を起こさないためにはアニサキスを体内に入れないことが重要だということです。

万が一、体内に侵入し腹痛などの症状が出た場合には、専門医の受診をすることが危険から身を守る方法だといえます。

6. アニサキスが侵入すると体ではどんなことが起きている?

腹痛と吐き気
アニサキスが侵入した体内では、細菌に対する免疫反応が生じます。
胃壁や腸壁の損傷から細胞内に侵入した雑菌に対して白血球が貪食を開始しますが、アニサキスは雑菌ではないため白血球や同じ免疫細胞のNK細胞では退治できません。

アニサキスに対抗できるのは免疫細胞の一種である好酸球のみで、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担っています。
好酸球は、細菌退治には弱い反面アニサキスのような寄生虫には対応できる免疫細胞なのです。

好酸球は、アレルギー反応が体内で起こるとその原因(アレルゲン)に対して攻撃する習性があります。
アニサキスには、アレルゲンとなる成分がありそれに反応しているといわれています。

7. まとめ

近年の流通の発展により、生鮮魚介類は産地直送で冷凍処理されず店頭に並ぶことが多くなりました。
新鮮で美味しいものが食べられることは幸せですが、その分アニサキスのリスクが高くなったといえます。

アニサキスについての知識を頭に入れておいて、生鮮魚介類を生で食べてもしものことがあった場合は、すぐに専門医の対応を受けることが大切です。
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