内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

「血便」の原因となる病気

今回のテーマは、「血便」についてです。
実は、「血便」を引き起こす病気は、「がん」だけではありません。
「血便」には、様々な原因があるのです。
皆さんは、「血便」の原因となる病気を知っていますか。
まず、消化管(咽頭、食道、胃、小腸、大腸、肛門)からの出血には、「下血(狭義の意味)」「血便」があります。
「下血(狭義の意味)」は、黒い炭のような便で主に胃や十二指腸からの出血です。
「血便」は、鮮血から赤黒い便で主に大腸や肛門からの出血です。

「血便」の原因となる病気は様々で
出血の量、色調、随伴症状などにより、ある程度病気が想定できます。

イギリスの文献(N Engl J Med 2017; 376:1054-1063)による
血便の原因頻度、上位6選を解説します。

「感染性大腸炎」

感染性腸炎とは

病原微生物がヒトの腸管内に侵入、定着、増殖して発症する疾患であり、ほとんどの場合に下痢がみられます。病原体には細菌、ウイルス、寄生虫などがあります。

症状

感染性腸炎は下痢、発熱、腹痛、悪心、嘔吐などの急性胃腸炎症状がみられることが多いです。
出血量は少ないことが多く、粘血便として排便されます。
下痢症状を伴い、1週間程度で治ることが多いです。

血便を引き起こす感染性腸炎

ほとんどが細菌性腸炎であり、内視鏡検査が行われた場合は非感染性腸炎との鑑別が問題になります。
血便の頻度が高いのは腸管出血性大腸菌腸炎とアメーバ性大腸炎であり、半数以上が血便を伴います。次いでカンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎が多く22~23%です。
他には、赤痢菌などによるものが、あります。

治療

治療は、整腸剤、ときに抗生剤などを用います。

「炎症性腸疾患」

「クローン病」「潰瘍性大腸炎」という自己免疫の病気です。
腸の炎症で潰瘍などができ、じわじわ出血します。
少量の出血が多いですが、時に大量に出血する場合があります。
感染性腸炎との症状の違いは、長期間、軟便や下痢が続く点です。

「クローン病」

クローン病とは

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患です。
若年発症が多く、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こります。
小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。

症状

前記の病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。

治療

内科治療(栄養療法や薬物療法など)と外科治療があります。
腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。

「潰瘍性大腸炎」

潰瘍性大腸炎とは

大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患 です。
病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に拡がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。

症状

特徴的な症状としては、血便を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛です。

治療

多くは、薬による内科的治療が行われます。
重症の場合や薬物療法が効かない場合には手術が必要となります。

「大腸ポリープ」、「大腸がん」

腫瘍の表面はもろく出血しやすいので、じわじわと出血が継続します。

症状

特に「直腸がん」の場合、出血は便に血液が付着して発見されることが多く、比較的鮮血に近い状態が多いです。
がんが大きくなり、腸の内腔が狭くなると、便の狭小化、残便感などの症状が見られることもあります。
さらに、ひどい便秘や貧血となります。

治療

治療は内視鏡治療や外科治療です。

「虚血性大腸炎」

虚血性大腸炎は

大腸に血液を送る動脈の血流が阻害されることで起こります。
血流が減少することで、大腸壁の粘膜などに損傷が起こり、びらんや潰瘍が生じ、出血します。

好発年齢など

心臓や血管の病気のある人、大動脈の手術を受けた人、血液が凝固しやすい問題がある人に比較的多くみられます。
主に60歳以上の人に発生します。

症状

腹痛から始まることが多いです。左腹部や左下腹部が痛むことが多いです。
軟便がよくみられ、しばしば、少量・赤暗色の血の塊が出ることがあります。
ときに便を伴わず鮮血のみが排便されます。

治療

内科的治療(整腸剤など)、重症の場合は外科手術になります。

「痔核」

痔核とは

肛門領域の静脈瘤と考えられていましたが、それに加えて肛門の粘膜の下のクッション状の組織がゆるんでしまって、肛門の外に脱出するようになったものも痔核と考えられています。
痔核のことを「イボ痔」とも言われています。

種類

肛門の内側1~2cmの部位にできる「内痔核」と、それより外側あるいは肛門の外にできる「外痔核」に分けられます。
手術を必要とするような痔核は、内痔核と外痔核が合併した「内外痔核」の形になっているものが多くみられます。

原因

排便時の強いいきみ、重い荷物を持つ仕事、筋トレで腹圧がかかる、長時間の座り仕事、アルコールの多飲、辛いものの多食、お尻を冷やすなどがあります。

症状

出血、脱出、痛み、腫れなどがあります。
痔核からの出血は鮮やかな赤色で、排便時に出血しますが排便後には自然に止まります。
派手な出血の様に見えますが、出血量は少量です。

治療

出血や肛門違和感、痛みなどの症状は、保存的治療といって肛門をいたわる生活や痔疾軟膏・坐薬などの薬物治療で軽快します。
しかし、脱出症状を伴う痔核は徐々に悪化するので、いつか時期をみて手術かALTA (アルタ)療法という痔核局所注射薬による治療が必要になります。

「憩室出血」

大腸憩室、憩室出血とは

大腸憩室は大腸壁の一部が欠損した部位が腸の外側に突出した状態で、内視鏡で見ると、くぼみとして観察されます。
憩室出血は、そのくぼみの部分に露出した動脈から出血します。

症状

腹痛を伴うことなく、突然に鮮やかな赤色の出血、あるいは赤黒い出血を多量に認めます。
とくに、高齢者で解熱鎮痛薬や抗血栓薬を投与されている場合に起こることが多いです。
憩室出血の73~88%は自然止血します。
大量の出血により、しばしば貧血となり輸血が必要なこともあります。

診断

診断や治療の際には、大腸内視鏡検査を行います。
造影CT検査も診断に有用です。

治療

出血している憩室を発見できた場合には、クリップで出血部位を挟んで止血するクリップ法が最も有効です。バンド結紮術なども有用です。
大量出血によりショック状態にあるような場合には、選択的動脈塞栓術による止血、または緊急手術によって出血腸管を切除することによって止血します。

※憩室出血は、出血多量により重症(ショック状態)となることがあります。緊急処置が必要な時がありますので、憩室出血が疑われる場合はすぐに輸血ができる総合病院を受診しましょう。

まとめ

血便をきたす病気は様々です。
今回は
「感染性大腸炎」
「炎症性腸疾患」:クローン病、潰瘍性大腸炎
「大腸ポリープ」、「大腸がん」
「虚血性大腸炎」
「痔核」
「憩室出血」
を解説しました。
できる限り、早く医療機関を受診し、診断・治療してもらいましょう。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。