内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

慢性胃炎を放置するのは危険?ピロリ菌と慢性胃炎について解説!

胃カメラ検査やバリウム検査を受けた後に、医師から「慢性胃炎がありますね」といわれた経験がある方もいらっしゃると思います。

慢性胃炎がどのような病気なのか、原因や治療、慢性胃炎とピロリ菌との関係について解説します。

1. 慢性胃炎とは

食べる女性
慢性胃炎は、胃の粘膜が萎縮を起こし修復されず長期にわたって放置されることで進行していく病気です。

胃炎には、急性胃炎と慢性胃炎があります。それぞれの胃炎の特徴について解説します。

1-1. 急性胃炎

急性胃炎とは、胃の粘膜に炎症を起こす病気で急激に発症することが特徴です。急性胃炎の主な原因は、暴飲暴食が連日続いた場合や薬の副作用などが考えられます。

胃酸や、食べ物によって傷つきやすく炎症が起きやすい状態である胃には、本来再生機能が備わっています。急激に発症する急性胃炎の場合は、医師の治療を受け安静にすることで2~3日で完治が目指せます。

1-2. 慢性胃炎

慢性胃炎はなんらかの原因によって、胃粘膜の萎縮状態が続き修復されないことで起きる病気です。胃粘膜の萎縮は、胃が老化している状態であるため胃の粘膜が薄くなり、胃酸を分泌する能力も低下しています。

胃の粘膜は再生機能が高いので、粘膜の血流が正常であれば、回復可能な臓器です。ただし、炎症が胃の再生機能や保護機能を上回りその状態が長期間続くと、慢性胃炎に移行します。

慢性胃炎は治療を行うことで改善に向かいますが、炎症が残るケースもあり胃がんリスクが残るケースもあります。

2. 胃炎を起こす原因とは

カップ麺とコンビニおにぎり
胃炎を起こす原因には、外因性因子と内因性因子があります。

胃は、食べ物を一番最初に消化する臓器です。食べ物の形が残った状態で運ばれるため、胃酸と食べ物が移動するときに、胃粘膜を擦って物理的な刺激を受けやすい臓器でもあります。

外因性因子や内因性因子を理解しておくと、胃の不調を感じたときに原因の特定がしやすくなるでしょう。また、専門医による診療の際にも役に立つかもしれません。

2-1. 外因性因子と内因性因子

ここでは、外因性因子と内因性因子について解説します。

(外因性因子)
・喫煙
・塩分の多い食事
・衛生環境
・ピロリ菌感染

・喫煙
喫煙は血管を収縮させ血行を悪化させます。胃粘膜には無数の毛細血管があるため喫煙により血行不順が起こると血流量が減少し、胃粘膜が酸素欠乏を起こしやすくなります。酸素欠乏した胃粘膜は、機能低下や胃粘膜の抵抗力が低下しやすくなります。

・塩分の多い食事
胃は、塩分の多い食事をとることでも刺激を受け胃粘膜が傷つきやすくなるといわれています。加工食品は控えるなど、食生活を見直しましょう。

・ピロリ菌感染
慢性胃炎の原因の約80%以上が、ピロリ菌感染によるものです。ピロリ菌感染によって、胃粘膜の萎縮が引き起こされることで発がんにつながるといわれています。また、胃がんの95%以上は、ピロリ菌感染が原因です。

・衛生環境
慢性胃炎と衛生環境は関係のないものと思われがちですが、衛生環境がピロリ菌感染に関係することがわかっているため、外因性因子として理解しておくといいでしょう。

(内因性因子)
・遺伝的要素
・人種
・加齢性変化
・免疫に対する反応

・遺伝的要素
慢性胃炎には、生まれつきなりやすい体質というものがあります。これは、遺伝的要素と呼ばれる内因性因子の一つです。

・人種
日本人は、胃がんリスクが高い人種ということも知られています。日本人の多くは、胃がんの原因となるピロリ菌感染が多く見られるためで、ピロリ菌感染は慢性胃炎の原因ともされています。

・加齢性変化
加齢によって臓器も老化していきますが、胃も例外ではありません。

胃粘膜は加齢によって萎縮するだけではなく、胃の弾力性も低下します。そのため多くの食べ物を消化できなくなります。また、胃のぜん動運動も弱くなり、胃の中に食べ物が残る時間が長くなるため、胃の不調を感じやすくなるのが特徴です。

・免疫に対する反応
免疫力には個人差がありますが、免疫に対する反応によって胃粘膜の修復や刺激の受けやすさが異なります。

3. 慢性胃炎の診断について

内視鏡
慢性胃炎が発見されるまたは、疑われるケースは大きく2つあります。一つは、胃カメラ検査によって発見されるケース、もう一つは、健康診断などで行われるバリウム検査で、慢性胃炎が疑われるケースです。

胃カメラで慢性胃炎が発見された場合にはピロリ菌感染なども明確にわかりますが、バリウム検査だけでは、慢性胃炎を発症しているのか確定はできません。

3-1. バリウム検査(上部消化管X線検査)

胃バリウム検査とは、発泡剤の炭酸で胃を膨らませ、造影剤(バリウム)を飲みX線(レントゲン)で照射しながら撮影する検査です。胃の粘膜の隅々まで造影剤を行き渡らせるために、検査台を上下左右に動かすので、苦手という方もいるのではないでしょうか。

バリウム検査は、胃、食道、十二指腸の病変(胃潰瘍、胃炎、ポリープなど)を発見することを目的として行います。多くの場合、会社などの健康診断で行われるので認知度も高い検査でしょう。

しかし、バリウム検査で慢性胃炎が疑われても、慢性胃炎を発症しているかは確定できません。また、バリウム検査ではピロリ菌感染の有無も確定できません。バリウム検査で慢性胃炎が疑われる場合は、胃カメラ検査をおすすめします。

3-2. 胃カメラ検査

胃カメラ検査の場合は慢性胃炎の発症を確認するだけではなく、迅速ウレアーゼ試験でピロリ菌の有無がその場で確認できます。また、初期の胃がんの早期発見につながることがあります。

胃カメラ検査は胃がんを早期発見し、早期治療につなげる方法です。また、早期治療を行うことで体の負担の軽減はもちろん、金銭的な負担も軽減できます。

健康診断で慢性胃炎を疑われた場合、胸やけや吐き気などの症状がなくても放置せずに、必ず胃カメラ検査を受けましょう。

4. ピロリ菌感染が疑われた場合の注意点

腹痛の男性
バリウム検査で慢性胃炎が疑われた場合に、多くの医師はピロリ菌感染も疑います。これは、慢性胃炎の原因のほとんどがピロリ菌感染であるためです。

慢性胃炎でピロリ菌感染が疑われた場合には、ピロリ菌の除菌治療が選択されることがありますが、治療の順番には注意が必要です。

4-1. ピロリ菌の除去治療で胃がんが見逃される?

初期の胃がんは、粘膜の変化も小さいためピロリ菌の除去治療を先にしてしまうことで、正常な粘膜に隠れてしまう恐れがあります。

ピロリ菌の除菌治療を行うと胃粘膜の萎縮が改善されます。そのため、正常な粘膜に戻ったように見えてしまい、小さな初期の胃がんを見逃してしまうケースがあります。もし、初期の胃がんが隠れていた場合には、知らない間にがんが進行し数年後には進行がんで見つかるケースもあるのです。

ピロリ菌感染が疑われた場合には、胃カメラ検査で初期の胃がんがないか、ピロリ菌の状況を確認してから除菌治療を進めることをおすすめします。

4-2. ピロリ菌感染があった場合には胃がんリスクがある

ピロリ菌を除去したからといって、胃がんリスクが無くなるわけではありません。

ピロリ菌の除去治療を行えば、慢性胃炎の症状は少しずつ改善に向かいますが、胃炎が残ってしまうケースもあります。

胃粘膜に炎症が残ってしまうと胃がんリスクがあるので、一年に一回の定期的な胃カメラ検査が必須となります。

4-3. 慢性胃炎の症状

慢性胃炎には、慢性胃炎だからという特徴的な症状はありません。ただし、逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどにも見られる症状が現れることがあります。

主な症状をまとめてみました。
・胸やけ
・胃酸の逆流
・みぞおちの痛み
・背中の痛み
・胃部の不快感(胃がムカムカする)
・吐き気

上記の症状は、一般的に胃が不調なときに出てきやすい症状と同じです。胃薬を服用することで、一時的に症状が治まるケースもありますが、慢性胃炎やそれ以外の疾患が隠れている場合があるため胃カメラ検査を受けることをおすすめします。

胃の不調からくる症状がある場合、胃カメラ検査を受けることで慢性胃炎の有無や症状を起こす病気の有無、ピロリ菌の有無が確認できます。

もし、ピロリ菌が発見された場合には、胃がんリスクにつながるため適切な対処を行いましょう。

5. まとめ

男性医師
慢性胃炎は特定の症状がないため、見逃しやすい病気の一つです。バリウム検査で、慢性胃炎を指摘された場合には、胃カメラ検査を受け適切な対処をすることをおすすめします。

慢性胃炎の治療で、胃がんリスクの軽減は可能です。胃がんで命を落とさないためにも、気になる症状がある方は専門医に相談をしましょう。

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この記事を書いた人

萱嶋 善行医師

福岡大学医学部卒業。
福岡大学病院など多くの総合病院で消化器内視鏡検査・治療を習得。
病理診断にも研鑽を積む。2023年3月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。