内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

潰瘍性大腸炎はどうして起こる?その原因や治療法を紹介!

安倍晋三元内閣総理大臣が患っていたことでも知られる「潰瘍性大腸炎」。欧米で多い病気ではあるものの、国の指定難病とされており、日本でも患者数は増加しています。厚生労働省の発表によると、現在の患者数は推定で22万人に達し、さらにこの数は増えていくと予想されています。

この潰瘍性大腸炎、軽い腹痛程度のものから1日に10回を超える下痢や発熱、粘血便などを発症し、重症の場合には貧血や体重減少などが伴うこともあるため、日常生活にも支障をもたらすものとなっています。

今回は、潰瘍性大腸炎はどのような病気なのか?またその原因や治療法について詳しく説明していきます。

1. 潰瘍性大腸炎とはどんな病気?

人体模型
潰瘍性大腸炎とは、大腸の表面粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患のことです。病変は直腸から連続的に口の方に広がる性質があり、直腸から横行結腸を超えて大腸全体に及ぶことがあります。なお、病変の広がりや経過などにより、いくつかの種類に分類されます。

直腸炎型:直腸のみに炎症がある
左側大腸炎型:大腸左側に炎症がある
全大腸炎型:大腸全体に炎症がある

潰瘍性大腸炎を発症するのが多い年齢としては20代がもっとも多く、ピークは男性が20~24歳、女性は25~29歳となっているものの、若い人から高齢者まで幅広く発症します。男女差はとくにありません。以前から若い人に多かった病気ですが、最近は若い人も大腸内視鏡検査をするようになり、見つけやすくなっています。

なお、虫垂切除を行った人の発症リスクが少ないこと、喫煙者は非喫煙者と比べると発病しにくいことが報告されています。

1-1. 潰瘍性大腸炎の症状

潰瘍性大腸炎の症状としては、下痢、血便、腹痛といったものがあります。症状が悪い時期(再燃)と症状が落ち着いている時期(寛解)を繰り返すのが潰瘍性大腸炎の大きな特徴です。なお、重症の再燃時には、腹痛が強く口を利くことすらつらくなることがあります。

潰瘍性大腸炎に罹患されている人の血便の色についてですが、鮮血から赤褐色までさまざまで、大量に出るというよりも粘血便(粘液の混じった便)が一緒に出ることが多いです。また、炎症具合によっては発熱や疲労感、倦怠感、食欲不振、体重減少なども見られることがあります。

1-2. 潰瘍性大腸炎の原因

潰瘍性大腸炎について、どうして発症するのかそのはっきりした原因はわかっていません。しかし一説には、腸内細菌の関与や免疫反応の異常、食生活の変化といったものの関与が考えられています。また、家族内での発症も認められているため、遺伝的因子が関与しているとも言われています。

腸内細菌の関与については、どの腸内細菌が関係しているかがわかっていないため、「腸内環境を整えれば予防となるのか?」というと、実際のところ難しいのが現状です。食生活の変化の関与については、潰瘍性大腸炎のアメリカでの発症率が日本の倍ほど高く、食生活の欧米化により発生が増えた可能性は高いとみられています。そのため、食生活の見直しで潰瘍性大腸炎の発生リスクは抑えられるのではないかと考えられています。

1-3. 潰瘍性大腸炎の診断方法

潰瘍性大腸炎の診断についてですが、まずその人にどういう異常があるか(軟便や下痢の期間など)、そして病歴や症状の経過などを問診することから始まります。そのあとに、病気の状態判断のために大腸内視鏡検査を行います。

大腸内視鏡検査では、粘膜の炎症や潰瘍がどういった形のものなのかといった状態を確認し、炎症がどれくらい広がっているかその程度や範囲などを調べます。さらに、内視鏡検査の際に、大腸粘膜の一部を採取する生検によって病理診断を行います。

潰瘍性大腸炎はわかりにくい腸炎です。食品などを介して発症する感染性腸炎も同じような下痢の症状があるため、この病理診断によって、本当に潰瘍性大腸炎かどうかを判断することができます。

2. 潰瘍性大腸炎の治療法について

潰瘍性大腸炎の治療ですが、現在は非常に良い薬がでてきているため、基本的に内科的治療(薬物療法)が行われます。潰瘍性大腸炎の内科的治療には、以下のようなものがあります。

・5-アミノサリチル酸(5-ASA):経口や直腸からの投与により持続する炎症を抑える
・副腎皮質ステロイド:経口や直腸、経静動脈的に投与される
・血球成分除去療法:血液中から異常に活性化された白血球を除去する治療法
・免疫調整役および抑制薬:ステロイド薬を中止すると症状が悪化する患者さんに有効
・抗TNFa拮抗薬:インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブなどの注射薬を使用
・抗接着分子抗体:炎症を引き起こすリンパ球が腸管粘膜へ侵入するのを防ぐ

病変が広く症状が重い場合には、経口剤と局所製剤の併用療法が行われることがあります。さらに、それだけでは潰瘍性大腸炎があまり良くならない人には、注射によって治療する場合もあります。

内科的治療で改善が見られない、症状がさらに悪化するような場合には、最終手段として外科的治療が施されることもあります。これは大腸を切除するほどのもので、局所的に切除しても残した部分にがんが発症しやすいこともあり、大腸全摘出が標準的治療となっています。最近は小腸で便を溜める回腸嚢を作成して、肛門へとつなぐ手術が主流となっており、術後には普通の人とほとんど同じ生活が可能となっています。

ちなみに、潰瘍性大腸炎の人が大腸がんになると、別の場所にもがんができてしまうことが多く、さらに浸潤速度も早いため、普通の人の大腸がんの場合では局所的に切除すればそれで治療終了となることが多いものの、潰瘍性大腸炎の人の場合は基本的に大腸全摘出となってしまうリスクが高いです。そのため、定期的に大腸内視鏡検査を行うことで、潰瘍性大腸炎のリスクを減らせるだけでなく、大腸がんのリスクも減らすことができます。

2-1. 潰瘍性大腸炎の予防法

潰瘍性大腸炎と診断された場合、普段症状が治まっている状態であれば食事や運動に特別な制限はありません。しかし、潰瘍性大腸炎の症状が増悪している場合には、カフェイン摂取は控えるようにしましょう。

3. 潰瘍性大腸炎は完治するの?

飲み薬
現在のところ、潰瘍性大腸炎が完治するといった治療法は確立されていません。しかし、5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤という潰瘍性大腸炎の基本薬を内服し続けることにより、大腸がんのリスクが軽減されるといった報告があります。

潰瘍性大腸炎は再燃と寛解を繰り返し、症状が良くなったり悪くなったりする病気であるため、良くなっている時は「完治したのではないか?」と安易に思ってしまいがちです。しかし、先ほど述べたように潰瘍性大腸炎は完治しない病気です。潰瘍性大腸炎の症状が抑えられてキープできていたとしても、潰瘍性大腸炎の悪化やがんの予防につなげる意味で薬物療法を続けることは非常に大事です。

4. 症状が無くても大腸内視鏡検査は必要?

男性医師
以上、潰瘍性大腸炎についての基礎知識、原因や治療方法、予防方法ついて紹介してきました。

潰瘍性大腸炎のリスクを減らすためには、定期的に大腸内視鏡検査を受けることが必要です。潰瘍性大腸炎の症状が現れないとつい油断してしまいがちになりますが、そのような寛解期であっても炎症の程度や拡がりといった大腸内部の状態を的確に把握しておく必要がありますし、治療内容の変更や薬の中止などを判断するためにも、大腸内視鏡検査はとても重要です。

また、潰瘍性大腸炎の人は累積発がん率に注意しなければなりません。潰瘍性大腸炎を母地とした大腸がんの発生率は罹患年月とともに増加していきますが、日本における累積発がん率は10年で0.5%、20年で4.1%、30年で6.1%となっていますので、1年~2年ごとの定期的な大腸内視鏡検査は必要となります。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。