内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

話題の線虫がん検査N-NOSE(エヌノーズ)の実態や問題点について胃腸のプロが徹底分析

世界初の線虫がん検査として、電車広告などでも見かけるほど話題の「N-NOSE」。現在世界で22件の特許を取得し、国内外で26の病院や研究機関との共同研究が行われています。これまでの受検者は50万人を超え、これからさらに受検者数は増えていきそうな勢いです。患者さんは保険適応外ながら自宅で行える手軽な検査で14,800円(税込:1回検査コース)と非常に安いのが特徴となっています。ですからN-NOSEでがんがわかったらとてもお得だと感じる人も多いでしょう。

そんなN-NOSEですが問題点も数多く露見されており、これからN-NOSEを利用してみようと考えている人は本当にN-NOSEで検査を受けていいのか少々不安に思っている人もいるかもしれません。

今回は、N-NOSEとはどのような検査なのかその実態について、また現在N-NOSEが抱えている問題点についても詳しく見ていきます。

1. N-NOSEとは?

尿検査
N-NOSEとは端的に言うと、手軽に早期のがんリスクを自宅でも調べられるサービスのことです。線虫を使うことでとても微細ながん細胞の匂いに反応、ステージ1の早期がんリスクを判定できるとされています。

1-1. 全15種のがんに対応

N-NOSEでは、全身網羅的に15種のがんについて調べることができます。通常五大がん検診では「胃がん」「大腸がん」「肺がん」「乳がん」「子宮頚がん」の5つのがん種しか見つけることができませんがその5つのがんを含めて3倍のがんに対応しているという大きな特徴を持っています。

反応確認されている15種のがん

口腔・咽頭がん、食道がん、肺がん、乳がん、胃がん、肝臓がん、すい臓がん、胆のうがん、胆管がん、大腸がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん

1-2. 検査が簡単・手軽に行える

自宅で行うN-NOSEは、非常に簡単な検査方法で行われます。検査キットを購入して尿を検査機関に送るか自宅まで取りに来てもらうだけで、病院に行かなくても検査が可能。レントゲンや注射、内視鏡検査などのように身体的な負担が一切ない点もポイントとなっています。

1-3. 医療機関で検査を受けることも可能

N-NOSEは医療機関で検査を受けることもできます。ただしその場合はN-NOSEを扱っている医療機関でしか行えません。N-NOSEを医療機関で受けると、医師に相談できて安心なことや、健康診断や人間ドックとの併用で、よりがんの早期発見が可能になります。

2. N-NOSEが抱える6つの問題点

医者とはてなマーク
そんなN‐NOSEですが、問題点も数多く存在します。ここでは6つの問題点について指摘していきます。

2-1. 全15種のがんのうちどのがんのリスクが高いのかわからない

N-NOSEでは、15種類のがんのいずれかが陽性であった場合に、どのがんのリスクが高いのかが全くわかりません。つまり、がんの種類が特定できないという点がN‐NOSEの抱える大きな問題点として挙げられます。

最近では、膵臓がんに特化したN‐NOSE plusもでてきているようですが、1回検査コースで30,000円(税込:3/31までの限定キャンペーン価格)と高額ですし、精度としておすすめできるレベルと言えるかどうかは疑問です。

2-2. 診断率が低い

また、診断率の低さも問題です。N‐NOSEの精度として、感度(がん患者を「がん」と診断する確率)は86.3%、特異度(がん患者ではない人を「がんではない」と診断する確率)は90.8%とかなり高いものの、実際のがん患者さんを本当にリスク陽性と診断してくれる確率はわずか約8%と非常に低いという課題もあります。

2-3. 高リスク後の検査が全て自費となる

N-NOSEで早期がんのリスクが高いと言われた患者さんは、その後15種のうちどのがんにかかっているのかを調べなければなりません。そのがん種を特定するためにさまざまな検査をしなければなりませんが、原則それは全て自費で行わなければならないという問題もあります。たとえばPET検査、胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査、CT検査、MRI検査などを行っていけばかなりの高額になりますし、それを一生やり続けなければならない別のリスクも出てきます。

2-4. がんと診断された人がいる比率の高い母集団でのみ検討されている

がんと診断された人の比率が高い母集団での検討が多い点もN-NOSE検査の問題点です。一般的な健康診断のような母集団で検討された結果ではないため信ぴょう性に疑問符が付きます。

2-5. 利害関係者からの論文が多い

N-NOSEと利害関係がある著者からの論文がかなり多いという特徴があります。

2-6. ブラインドテストを行っていない

N-NOSEでは、ブラインドテスト(がんかがんでないかの見分けができないよう隠して行う実験)が実施されていません。ホームページでは行う必要がないと記載されていますが、その点も問題点として挙げられる要因のひとつです。

3. 信頼性に欠けるN‐NOSE

陰性と陽性
現在N-NOSE検査に疑問を持っている医師は多いのが現状です。

福岡で2023年6月に開催された日本がん検診・診断学会総会にて、N‐NOSEについての学会発表が行われました。これは健康診断をするような医師が研究発表を行う学会だったのですが、N‐NOSEに関しての発表もいくつかあり、衝撃的な内容が報告されていました。ここでは、3つの病院の医師がN‐NOSEで高リスクと判定された患者を集めて、実際にがんがあるのかをPET検査等で調べた精密検査の結果が発表されました。

1つ目の宮崎市にある宮崎鶴田記念クリニックでは、N‐NOSEで陽性(高リスク判定)となり来院された患者さんが14人いたものの、PET検査などの検査を行いがんと診断された人はなんと0人という結果が出ました。

2つ目の奈良の西の京病院でも同様に、N‐NOSEで陽性高リスクになった患者さん28人に対してPET検査などで精査したところ、がんと診断された人が0人という結果が出ました。

3つ目の福岡市の福岡和白PET画像診断クリニックでは、N‐NOSE陽性で来院された333人の患者さんに対しPET検査等を行なった結果、がんと診断された人は8人(2.4%)でした。ただし、この8人の陽性患者のうち2人はN‐NOSEの15のがん種と関係ない甲状腺がんだったため、333人中6人(1%程度)しか引っ張ることができない検査だったことがわかったのです。

さらに1つ目の宮崎の宮崎鶴田記念クリニックの先生は、実際がんと診断を受けたばかりの患者さん10人に承諾をもらいN‐NOSE検査を行ってもらったようなのですが、がん患者で陽性となった人はなんと0!全員が陰性(低リスク)と出たようです。

3-1. N-NOSEの精度を検証するためのワーキンググループが誕生

このような学会での研究報告を受け、N‐NOSEの精度(感度・特異度)は実際どれくらいなのか、これをしっかり検証しないといけないのではないかということで、日本核医学会の中のPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループが立ち上がりました。これは約200施設を対象としてN‐NOSEの精度を検証するために、N‐NOSEをきっかけにPETがん検診に訪れた人、そしてがんと診断された人に、診断されたがんの種類やがんの進行度などをアンケート形式で答えてもらい、発表結果をまとめた上で検査の有効性を科学的に評価する方向に現在動いているようです。

N‐NOSEで陽性が出て検査するとなれば、その後の検査は全て自費となることを知らない人はとても多いです。場合によっては15種類のがん全てに対して検査をやらないといけなくなるわけなので、非常に高額な検査になりかねません。N‐NOSEは日本が薬機法で認めていない検査のため、保健診療ではできません。

4. まとめ

がんとハート
以上、N-NOSEとはどのような検査なのかその実態について、また現在N-NOSEが抱えている問題点について紹介してきました。

N‐NOSEが現在抱えている問題点ですが、N‐NOSEはがんと診断してはいけない検査であり、早期がんのリスクを指摘するだけの検査なので、正直なところ早期がんを見つけられる検査とは言えないのが実情です。また、がんと診断されてない健康な人を対象としたデータではなく、科学的な根拠が不足してる検査のため現段階では受けないほうがよい検査だと思われます、

N‐NOSEで早期がんのリスクを指摘されたとしても、その後高額な料金をかけてがんの特定検診を行わなければならないことなどを考えれば、N‐NOSEではなく一般的に行われている各種検診を行った方が賢明です。その方ががんの特定もしやすいですし、その後の治療や手術等にもスムーズに入っていけるため、N‐NOSEの検査はしばらく様子見するのが最善の選択と言えるでしょう。

今後業界自体がよい方向に動いて検査精度が上がっていけば、N‐NOSEは良い検査になる可能性を秘めています。だからこそ、精度の向上や検証に時間をかけてもらいたいものです。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。