検診などのオプションで腫瘍マーカー採血を無駄に行っていませんか?
腫瘍マーカーは早期がんの発見には有用でなく、また進行がんでも異常値を示さないことも少なくありません。腫瘍マーカーが正常だから「がん」がないから安心というのは大きな間違いです。
前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAは早期発見に有用ですのでおすすめします(前立腺がんは高齢者の「がん」と言われており、60歳以降でかかる方が多くを占めています)。
腫瘍マーカーを追加しませんか?と聞かれたことはありませんか
健康診断で「腫瘍マーカー(CEA, CA19-9, SCC, NSE, P-53, CA-125, AFP, PIVKA-Ⅱなど)を追加しませんか?」と聞かれたことはありませんか?
「がんの有無が採血だけで分かるなら追加しておこう」と2000円〜10000円もの高額の追加料金を支払っている方を多く目にします。
結果として下記のようなものができます。
腫瘍マーカーはがんを早期で発見する検査ではないのです。
また、進行がんでも異常値を示さないことがあります。
よって腫瘍マーカーが陰性であっても、それが「がん」の存在を否定することにもなりません。
では、そもそも腫瘍マーカーは何のためにあるのでしょうか?
腫瘍マーカーとは、進行がんに対して手術や抗がん剤治療、放射線治療を行い、その効果判定やがん再発の目安として使用されてきました。
別の臓器に転移するくらいの進行したがんでやっと腫瘍マーカーが陽性になることがほとんどです。また、かなり進行した段階であったとしても腫瘍マーカーが基準値内であることも少なくありません。
唯一、腫瘍マーカーでがんの早期発見に役立つものは、前立腺の腫瘍マーカーであるPSAです。PSAが前立腺がんの初期の段階で陽性になることが多いため、早期発見・早期治療に貢献する珍しい腫瘍マーカーです。
PSA以外の腫瘍マーカーを健康診断で「がんを早期発見するため」に採血の項目に追加するのは大きな間違いです。
自覚症状の出にくい「がん」の代表に挙げられる「食道がん」「胃がん」「大腸がん」に関しても、やはり腫瘍マーカーによって早期の「がん」を見つけることはまず期待できません。消化管の早期がんを発見するのは、内視鏡検査が唯一の方法なのです。
早期がんの特徴ともいえる粘膜の微細な色の変化やわずかな陥凹(へこみ)や隆起(ふくらみ)でも、ハイビジョン内視鏡であればしっかり観察することができます。
すでに腫瘍マーカーが健康診断の項目に組み込まれている場合は、あくまでその値は参考程度(他臓器に転移するような進行がんはない可能性が高い程度)と考え、定期的に内視鏡検査を受けることで食道・胃・大腸といった「消化器がん」を早期発見していきましょう。
進行食道がん
食道の約1/3を占拠する進行食道がんですが、食道がんの腫瘍マーカーであるSCCは基準値内でした。
早期胃がん
胃カメラでようやくわかるような、わずかな凹みです。このような病変ではまず症状は現れません。
早期胃がん
これらの症例のようなわずかな色調変化しかない「早期胃がん」では腫瘍マーカーに異常はまず見られません。
進行胃がん
進行胃がんの症例ですが、このようなかなり大きながんでも自覚症状はありませんでした。
進行胃がん
また、貧血などの採血項目はすべて異常なしで、腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)も異常ありませんでした。調べたところ肺転移を認め、stage IVと診断され、抗がん剤治療を行いましたが1年後に亡くなりました。
早期大腸がん
このような早期の大腸がんの場合は、腫瘍マーカーが異常値を示すことはまずありません。
進行大腸がん
この症例は血便が見られたため、大腸内視鏡検査を受けられました。直腸に進行がんを認めました。腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)は全て基準値内でした。その後、大学病院で手術と抗がん剤治療を行いました。
この記事を書いた人
平島 徹朗医師
国立佐賀大学医学部 卒業。
大分大学医学部附属病院消化器内科、国立がん研究センター中央病院内視鏡部など、多くの病院・内視鏡専門クリニックで消化器内視鏡診断・治療を習得後、2011年たまプラーザ南口胃腸内科クリニック開院。