内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

今回は、食物繊維についてまとめました。

いきなりですが問題です。「3大栄養素」とは一体何でしょうか?

正解は

1 糖質
2 たんぱく質
3 脂質
です。これは簡単です。

それでは「5大栄養素」は一体何でしょうか?

上の3大栄養素に
4 ビタミン
5 ミネラル
が加わります。これが「5大栄養素」です。
腸活に一番大事な「食物繊維」が入っていませんね。
昨今、食物繊維は腸内環境を整えるのに一番重要と言われている食材なのですが・・・


実は食物繊維は5大栄養素の中には含まれません。

なぜなら、食物繊維は消化吸収されず、便の材料として排出されるため、栄養素として考えられていなかったのです。

以前は、食物繊維は食べ物の中では不要なものと考えられていました。消化吸収されず、人間が生きていく上で必要なエネルギーにならないからです。

ところが最近の研究により、食物繊維は善玉菌のエサとなることがわかりました。そして、その善玉菌が酪酸、酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を作り、これらの短鎖脂肪酸が体に様々な良い働きをすることが分かってきました。
さらに、食物繊維を摂ることで大腸がんの予防になることなども分かってきたのです。

現在では、食物繊維は私たちの腸内環境を整えるのに必須であるという考えに変わっており、「第6の栄養素」としての地位を確立しています。

その後の研究により、食物繊維には水に溶けにくい「不溶性食物繊維」と水に溶けやすい「水溶性食物繊維」があることが分かりました。そして、不溶性2、水溶性1の割合で摂取することが理想的であると言われています。

それでは、「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」とは何でしょうか?

不溶性食物繊維:

水に溶けない食物繊維のことであり、水分を含んでふっくらと膨らみ、便のカサが増すことで腸を刺激し、蠕動運動を促します。

水溶性食物繊維:

水に溶ける食物繊維のことであり、有害物質を吸着させて体外へ輩出したり、腸内の水分に溶け、便を柔らかくする作用があります。


この2つの食物繊維ですが、前述の通り

不溶性食物繊維2:水溶性食物繊維1

の割合で食べるのが理想的と言われています。

それぞれの代表的な食べ物ですが、

不溶性食物繊維
ブロッコリー、きのこ類、穀物類、ごぼう、タケノコ、バナナ、豆類など

水溶性食物繊維
らっきょう、海藻類、納豆、山芋、里芋など   いわゆるネバネバ系の食べ物です。


水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく含む食品
オクラ、プルーン、キウイ、サツマイモ、納豆、人参、ジャガイモなど


普段、私たちが食事をするとき、肉や魚などのメインとなるおかずがありますが、このメインディッシュには食物繊維はほぼ含まれません。
ですので、前菜、副菜で食物繊維を摂ることになります。

上述したような食材で前菜、副菜をしっかりと摂るようにしましょう。

ただし、ここで気をつけて欲しいのはそれぞれの摂取量です。

まずは不溶性食物繊維ですが、もともと便秘の方がこの不溶性食物繊維を摂りすぎると、便の水分が吸い取られてカチカチの便になり、さらに食物繊維がふっくらと膨らみ、お腹が張って苦しくなります。

便秘を解消するために食物繊維を沢山摂ろうと頑張りすぎると逆効果になることがありますので注意が必要です。

次に水溶性食物繊維ですが、上述の通り、便を柔らかくして便通を良くする作用がありますが、摂りすぎると便が緩くなりすぎて下痢になってしまいます。

このように、不溶性食物繊維、水溶性食物繊維、どちらも摂りすぎには注意が必要です。


それでは、食物繊維は1日にどれくらい食べれば良いのでしょうか?

2020年版の「日本人の食事摂取基準」によると、食物繊維は
成人男性で1日21g以上、成人女性で1日18g以上が必要となっています。

ところが、日本人の平均的な食物繊維の摂取量が約13g前後です。ちょっと足りないですよね。

「たかだか6~7g少ないくらい大丈夫かな」
と思っている方は注意が必要です。この6~7gで、腸内環境を良くするかしないかが決まってきます。

ちなみに、食物繊維を摂ると以下のような効果が期待できます。

1 咀嚼する回数が増えるため、満腹感が得られる。これが肥満抑制効果を促す。
2 咀嚼により唾液がたくさん出るため、虫歯予防になる。
3 胃液を分泌し、消化を助ける。
4 吸水力があるため、カサが増えて満腹感が得られる。
5 血糖値の上昇を防ぐ。
6. 腸内の有害物質や老廃物をかき集めて取ってくれる。
7 分解されずに大腸まで届き、善玉菌の餌になる。

ざっとこんな感じです。素晴らしい効果ですね。

それでは、食物繊維ってどのようにして摂ればいいのでしょうか?
食物繊維の代表と言えば、野菜です。手っ取り早く、野菜で食物繊維を摂ってみましょう。

野菜を1日350g摂取すれば、他の食事と合わせて1日に必要な食物繊維を補えると言われています。
我々が普段食べている食事の中で、知らないうちに約250gほどの野菜を摂っていると言われています。
つまり、あと100gの野菜を追加で摂れば、目標に到達します。

お勧めは「野菜サラダの小鉢を1品追加+納豆を1パック追加」です。

普段の食事にこの2品を追加するだけで十分です。
例えば、いつもの朝ごはんに野菜サラダを1品追加し、夕食に納豆を1パック追加する。
(その逆でももちろん構いません)

なんとかできそうな気がしませんか?
初めは面倒ですが、だんだん慣れてきて、そのうち野菜サラダと納豆がないと物足りなくなってきます。まずは2週間、頑張って食べてみましょう。

そうは言っても、野菜や納豆が嫌いであまり食べたくないといういう方もいるのではないでしょうか。

そんな方は食物繊維のサプリメントをお勧めします。

食物繊維のサプリメントで有名なのは「イヌリン」と「難消化デキストリン」のサプリメントです。
「イヌリン」は、主に野菜に含まれている食物繊維です。
「難消化性デキストリン」は、主に果物の中に含まれている食物繊維です。
ここで、2つの違いを解説します。

「イヌリン」は主に野菜から抽出されています。対して「難消化性デキストリン」は、トウモロコシのでんぷんから人工的に作られているんです。

どちらも効果としてはほぼ一緒と考えて良いです。主な効果としては、以下のようになります。

1 食後血糖抑制。
2 脂肪吸収抑制。
3 大腸まで到達し、善玉菌のエサとなる。これにより「短鎖脂肪酸」が作られる。

どちらも善玉菌のエサとなるのですが、「難消化性デキストリン」は摂取量の半分がエサとなりますが、「イヌリン」は摂取量の全てがエサになります。

つまり、イヌリンの方がより効果的に整腸効果を期待できるということです。

ただ、どちらも水溶性食物繊維ですので、過剰に摂取すると下痢を誘発します。
どちらも1日5g程度の摂取がベストと言われており、市販のサプリメントでも1日量は大体5g程度となっています。

また、「イヌリン」は「機能性表示食品」に沢山使用されています。
対して、
「難消化性デキストリン」は「機能性表示食品」だけでなく「特定保健用食品」にも使用されているという違いがあります。

「機能性表示食品」は消費者庁に書類を提出すれば認可されますが、「特定保健用食品」は国が厳正な審査を行い、許可されたものです。
つまり、「特定保健用食品」の方が信頼性が高いということになります。

そう考えると、「難消化性デキストリン」の方が、より信頼性が高い食品ですね。

しかしながら食物繊維をサプリメントで摂ることが本当に意味あるのでしょうか?食物繊維は食べ物から摂らないといけないのではないでしょうか?
このような疑問を持つ方も多いのではないかと思います。

確かに、食物繊維のサプリメントはサラサラとしたパウダー状のものが多く、無味であり、水やお茶などに溶かして摂取も可能なものが多いです。

結論から言うと問題ありません。
サプリメントの食物繊維でも効果があることが論文で実証されています。
(Microbiome. 2022 07 29;10(1);114. doi: 10.1186/s40168-022-01307-x.)

この論文によると、普段の食事で食物繊維摂取不足の方が「イヌリン」や「難消化デキストリン」などの食物繊維のサプリメントを定期的に摂取すると、酪酸などの短鎖脂肪酸が沢山作られることが実証されています。

サプリメントの種類は関係ないということですの。つまり、「イヌリン」でも、「難消化デキストリン」でも問題ないです。

普段から食物繊維を摂っていない方は、ぜひ食物繊維のサプリメントを摂ってみてください。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。