内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

遺伝確率は50%!遺伝性の大腸がん「リンチ症候群」についてお腹のプロが徹底解説

一般社団法人日本大腸肛門病学会によると、大腸がん全般で考えた時に、およそ3人に1人は遺伝的素因が関連していると言われています。全大腸がんのうち5%は生まれながら遺伝子のうち一部に異常が見られ、それが原因で大腸がんが発生する「遺伝性大腸がん」です。加えて近親者の何人かに大腸がんが認められるものの、遺伝子異常との関係が明らかでないものを「家族性大腸がん」と言いますが、これは全大腸がんのうち約20~30%とされています。

このうち、遺伝性大腸がんのひとつに「リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん:HNPCC)」という疾患があります。これは若い時から発がんするリスクが非常に高い疾患と言われており、もし家系に大腸がん、子宮体がん、卵巣がんが多いという人は、リンチ症候群に当てはまるかもしれません。

今回は、遺伝性の大腸がん「リンチ症候群」について詳しく説明していきます。

1. リンチ症候群はどのような疾患か?

医師の診察を受ける女性患者
リンチ症候群とは、大腸がんや子宮内膜がんや卵巣、肝胆道系、胃、小腸、腎盂、尿管がんなどの発症リスクが高まる疾患と言われるものです。全ての大腸がんのうち、約2~5%がこのリンチ症候群であると考えられ、最も頻度が高い遺伝性の腫瘍と言われています。

このリンチ症候群は、若年での大腸がん発症や大腸多発がんを発症する可能性、さらには多臓器がんの発生するリスクが高いとされています。遺伝性の大腸がんと言われているものの、大腸がん以外の他のがんが発生する可能性も非常に高いのが特徴となります。

1-1. リンチ症候群の発症年齢

リンチ症候群の平均的な発症年齢ですが、およそ42歳~45歳前後と言われています。ですから、50歳以下の人でも大腸がん・進行大腸がんが発見された人は、リンチ症候群である可能性を考えておかなければなりません。もしリンチ症候群の遺伝子が受け継がれてしまった場合には、早い人で30代から進行大腸がんが発見される場合もあります。

ただし、若い年齢でリンチ症候群と診断された場合でも、リンチ症候群の人の大腸がんはきちんと治療すれば通常の大腸がんよりも予後がいいことがわかっています。ですから、しっかりと検査を行って適切に対処していけば、治療をする意味は十分にあると言えます。

1-2. リンチ症候群の原因

リンチ症候群の原因について、これはミスマッチ修復遺伝子の変異(MSH2、MLH1、MSH6、PMS1、PMS2)であると言われています。ミスマッチ修復遺伝子には、細胞分裂の際に起こり得るDNAの複製の誤りを修復する働きがあるのですが、この修復機能が低下することにより、さまざまな遺伝子の異常が積み重なって、細胞ががん化します。リンチ症候群の人はこの遺伝子のどれかに変異が起こっているせいでDNAが複製の誤りを修正することができなくなり、それが原因でがんを引き起こすのです。

なおリンチ症候群の遺伝子を持つ人の約80%は、人生のうち1度は大腸がんにかかるとも言われています。

1-3. リンチ症候群は約50%の確率で遺伝する

リンチ症候群の遺伝は「常染色体優性遺伝」と言い、男女の差はなく親から子に約50%の割合で遺伝すると言われています。そのため、両親や両親の兄弟、祖父母など、どの人が何歳で大腸がんになったかを知ることはとても大事で、それによって自分がリンチ症候群であるかどうかが分かります。発症年齢や家族歴から、確定診断とまでは行けないものの、かなり確信に近い診断は可能です。

1-4. 女性の場合は大腸以外のがんでもリンチ症候群の可能性は高い

大腸がんの発症年齢が若い場合、かなりの確率でリンチ症候群の可能性が疑わしくなります。祖父が30~40代で大腸がんになった、また父親も同年代で大腸がんになった、といった場合にはリンチ症候群の確率は極めて高いといえるでしょう。

また女性の場合、大腸がんでなくても二世代にわたって近親者が若い年齢で卵巣がん・子宮体がんにかかっていたら、リンチ症候群を疑いましょう。リンチ症候群の女性の場合およそ20~60%の確率で子宮体がんを発症するとも言われていますので、女性は大腸がん以外のがんにも気を配る必要があります。

2. リンチ症候群の症状について

便秘の女性
リンチ症候群の症状は、通常の大腸がんとほとんど変わりません。血便や腹痛、便通異常(便秘や下痢、便が細くなる)、貧血、嘔吐などが症状として現れます。

3. リンチ症候群の診断基準

がんとハート
リンチ症候群の診断基準には、「アムステルダム基準Ⅱ(1999年)」と「改訂ベセスダガイドライン」というものがあり、これらはリンチ症候群かどうかを絞りこむためのガイドラインかつ決まりとなります。

アムステルダムⅡ基準は、3名以上の血縁者がリンチ症候群関連のがん(大腸がん、子宮内膜がん、小腸がん、腎盂がん、尿管がん)に罹患し、かつ次の全ての条件に合致する場合に診断されます。

その1:罹患者の1名は他2名の第一度近親者(親、子、兄弟)であること

その2:少なくとも継続する2世代にわたって罹患者がいること

その3:罹患者の1名は50歳未満で診断されていること

その4:家族性大腸腺腫症(FAP)が除外されていること

その5:がんの診断が組織学的に確認されていること

ここまで条件に合致した場合には、リンチ症候群であることはかなり疑わしくなりますが、もう少し基準を甘くして、50歳未満で大腸がんと診断され、親御さんが若い年齢で大腸がんを発症している人も少しリンチ症候群を疑ってみるとよいかもしれません。

3-1. リンチ症候群の検査について

リンチ症候群の患者の腫瘍細胞は、塩基の繰り返し配列である「マイクロサテライト」が正常細胞と異なった反復回数を示すことがあります。これを「マイクロサテライト不安定性(MSI)」と言い、腫瘍組織からマイクロサテライト不安定性が高頻度で確認できれば、リンチ症候群が疑われます。この検査(マイクロサテライト不安定性検査)は保険適用でき、大腸内視鏡検査を行って組織を採取し、調べることが可能です。

なお本当の確定診断となると、血液検査でミスマッチ修復遺伝子を調べることができるものの、 こちらの検査は保険適用ではなく費用がかかります。数は少ないものの「遺伝子外来」といった専門施設を受診すれば検査ができます。

リンチ症候群の腫瘍の増殖速度はすさまじく、慎重に検査や診断を行う必要があります。

4. リンチ症候群の治療方法

大腸がん検診
リンチ症候群の治療ですが、リンチ症候群は発症前に大腸を全摘することは一般的にありません。しかし、発症して大腸の進行がんが多発している場合には、危険性を考えて大腸を全摘出することもありますし、がんができたらその部分だけを切除する場合もあります。

リンチ症候群の人は、若い時から大腸がんを発症することが多いため、若いうちから検査することがとても重要です。大腸検査は、ガイドライン上は20歳から1年ごとに行うことが推奨されていますが、30歳以降は半年ごとでもよいのではないか、と考える医師もいます。

また女性の場合、子宮・卵巣など婦人科のがんについては、経腟エコーもしくは子宮内膜組織診が30歳から1年ごとと決められてますので、リンチ症候群と診断されている人は積極的に受診するようにしましょう。

4. まとめ

家系図
以上、遺伝確率50%とも言われる遺伝性の大腸がん「リンチ症候群」について紹介してきました。

家系内に大腸がんもしくは子宮体がん・卵巣がんが多い人は、高確率でリンチ症候群である可能性があり、若いうちから大腸がんをはじめ子宮体がん・卵巣がんが発生する可能性があります。そのため、リンチ症候群が疑われる人は早めに検査をして、まずはリンチ症候群かどうかを消化器専門の医師に確認するようにしましょう。

また自分がリンチ症候群だと診断された場合、お子さんがいる人だとお子さんがどれぐらいの年齢で大腸がん検診を受け始めたらいいかもわかります。お子さんの将来を考えた際には、お子さんもリンチ症候群かどうかを診断することは非常に重要です。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。