ピロリ菌除去治療後に胃の調子が悪い場合は萎縮性胃炎かもしれません
ピロリ菌除去治療を行うと、胃炎の症状が軽減し胃がんのリスクが低くなるといわれています。
ただし、ピロリ菌が長い間胃に住みついている場合は、萎縮性胃炎が進行しているケースも多く、健康な状態に戻すにも時間がかかります。また、ピロリ菌除去をしても胃の不調が改善しないケースもあります。
今回は、ピロリ菌除去後に残る萎縮性胃炎について、また萎縮性胃炎の症状を少しでも軽減するための方法について解説します。
胃は食道と腸の間にある袋状の臓器で、胃のすぐ下には小腸があります。胃の部位は3つあり、噴門側から胃底部、胃体部、幽門部と分けられます。
胃壁は、内側から順に粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜の層に分かれており、胃液や粘液を分泌するのは粘膜層です。
胃の働きは、食べたものを胃酸で消化し、消化された食べものを少しずつ小腸に送り出すことです。胃は、ぜん動運動により栄養分を十二指腸(小腸)に送り出し、消化吸収のサポートをします。
ピロリ菌の正式名称はヘリコバクター・ピロリといい、1000分の4mmほどのらせん状の細菌です。ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に住みつき炎症を起こす原因となります。
胃粘膜が炎症を起こすと、胃もたれや胃の痛み、不快感などの症状が出る場合があります。
2-1. ピロリ菌に感染することで考えられるリスク
ピロリ菌に感染することで、考えられるリスクは下記の通りです。
・胃炎
・慢性胃炎
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍
・胃がん
ピロリ菌に感染した方は、ほとんどの方に慢性胃炎が起こり、胃の不調が現れることがあります。また、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を発症したり、慢性胃炎から胃がんに発展することもあります。
ピロリ菌に感染すると、胃がんのリスクが高くなるため、リスク軽減を目的としてピロリ菌を除去します。
ピロリ菌に感染する時期は、胃の発達が未熟な5歳までといわれています。感染経路の多くは、汚染された水の摂取や母子感染です。母子感染では離乳食を与えるときに、母親が使ったスプーンなどに付着した唾液などを介し口から感染します。
近年は、虫歯予防などの一環で同じスプーンを使わないことが定着していることもあり、母子間でのピロリ菌感染は減少傾向にあります。
ピロリ菌が体内に入ると、胃の出口にあたる幽門部に感染します。ピロリ菌に感染してすぐには、感染に気づかない場合がほとんどです。ピロリ菌に感染していることに気づかず放置していることで、さまざまな胃の不調が起きるようになります。
3-1. ピロリ菌感染を長く放置すると萎縮性胃炎になる
胃の出口である幽門部にピロリ菌が感染すると、胃の出口側から入口側の噴門部へと萎縮が進行します。噴門部まで達した萎縮は、噴門部から幽門部にかけて胃の外側に膨らむ大きく湾曲した部分である大彎(だいわん)にあたる粘膜を萎縮させ、最終的には萎縮が胃全体に広がっていきます。
萎縮性胃炎とは、慢性胃炎が長期にわたって続くことで炎症を起こし、胃の粘膜が薄く痩せてしまう状態です。胃の老化が進む胃炎というイメージを持っていただけるとわかりやすいでしょう。
胃の下側にあたる大彎にはひだがありますが、粘膜が萎縮してしまうと徐々にひだがなくなります。
胃がんが発生する部位の多くは、ピロリ菌に感染して炎症を起こした胃粘膜からです。萎縮性胃炎が進行すると、胃がん発生の危険性がより高まります。
ピロリ菌に感染し萎縮性胃炎になり胃の働きが低下すると、胃酸が出にくくなり消化不良で胃もたれが起きやすくなります。
ピロリ菌に感染していても、胃炎が進行していなければ何も症状がない場合も多いです。
ピロリ菌は尿酸をアンモニアに分解するウレアーゼという酵素を出し、胃酸を抑えたり、中和したりすることで胃の中に住みつく細菌です。ピロリ菌に感染すると萎縮性胃炎になるだけではなく、胃酸が強力に抑えられるため胃もたれや胃痛などの症状が出やすくなります。
ピロリ菌除去治療が成功した場合、胃粘膜の状態や胃もたれ、胃痛などの症状はどうなるのでしょうか?
実は、ピロリ菌が胃の粘膜に住みついていた期間や胃粘膜の状態によって異なります。
4-1. 胃粘膜の回復にはどのくらいの期間がかかる?
ピロリ菌の除去治療が完了してもすぐに胃の調子がよくなるのではありません。除菌までにかかった胃炎の期間や胃酸の出やすさによって個人差はありますが、改善しない場合も多く、改善する場合で非常に長い年月が必要といわれています。
ピロリ菌感染から慢性胃炎や萎縮性胃炎と長い時間をかけて胃の状態は変化していきます。ピロリ菌によって胃炎の進行がかなり進んでいる場合には、ピロリ菌除去治療が成功しても完全に元の胃粘膜に戻らないケースもあるのです。
また、すでに胃炎や萎縮性胃炎になってしまっている胃は、消化能力自体が落ちているため胃もたれや消化不良などの症状が出やすい状況が継続するケースもあります。
胃粘膜のひだがなくなり、胃液をつくる機能も低下した萎縮性胃炎では、胃もたれが起きやすいです。ピロリ菌除去治療をした後の胃もたれを防ぐには、下記に気を付けることで症状を緩和できます。
・避ける食べ物と飲み物を知る
・食べ方に気を付ける
・萎縮性胃炎に対して使う胃薬の選び方を知る
胃もたれの症状を軽減するには、今までの食生活を見直すこともひとつの方法です。
5-1. ピロリ菌除去治療後に胃もたれしやすい食べ物と飲み物
胃の消化能力自体が落ちている場合に避けたい食べ物と飲み物は、下記のものです。
・アルコール
・カフェイン
・炭酸飲料
・揚げ物
・刺激物
・タンパク質
・脂肪分が多い食事
上記に挙げた食べ物や飲み物は、胃粘膜を刺激するものや消化しにくいものです。アルコール、カフェイン、炭酸飲料、刺激物は胃粘膜に刺激を与えます。また、タンパク質や脂肪分の多い食事は消化しにくいため、消化機能が低下している胃にとっては負担となる食べ物です。
胃もたれしないために禁止するのではなく、症状に合わせとる量を調整するとよいでしょう。
胃もたれを軽減する食べ方を知って実行することで、食後の胃もたれも出にくくなります。避けたい食べ方は、早食いです。
早食いは、食べ物をしっかり噛み砕くことなく食べ物が大きい状態で飲み込まれてしまいます。大きな塊のままの食べ物を、胃の中で小さく消化するには時間を要し負担がかかります。
萎縮性胃炎では胃酸が出にくくなっているため、胃の中に食べ物が残った状態が続くと胃もたれの症状が出やすくなります。口の中でよく噛んで小さくなった食べ物が胃に送られた場合は、消化不良が起こりにくくなります。また、よく噛むと口内から唾液が分泌されやすくなります。唾液と食べ物が混ざることで、胃での消化を助けます。
胃もたれを軽減するには、食べ物をよく噛んで食べるようにしましょう。
食生活に気を付けていても胃もたれが気になる場合には、胃薬の服用を検討する方もいるでしょう。胃薬にはさまざまな特徴があり、萎縮性胃炎では避けたい胃薬もあります。
病院で処方される胃薬は、通常であれば胃酸を抑える作用がメインです。しかし、胃酸を抑える胃薬は、胃酸の分泌機能が落ちている萎縮性胃炎に対しては、相性が悪いです。ただでさえ胃酸が出づらくて消化不良を起こしているのに、薬によってさらに胃酸が抑えられてしまうと、より消化不良の症状が悪化します。
市販の胃薬を購入する場合は、胃酸を抑える薬は避け消化吸収を助ける作用があるものを選ぶことが重要です。特に、過去にピロリ菌感染があった人は胃酸を抑える薬は避けることもポイントになります。薬の内容や作用がわからない場合は、薬剤師に相談しましょう。
6. ピロリ菌除去をしても胃がんリスクはゼロにはならない
ピロリ菌除去治療をしても萎縮性胃炎は残り、粘膜が萎縮している部位は胃がんが非常にできやすいです。除菌治療をすれば胃がんリスクは下がりますが、ゼロにはなりません。
まれにですが、ピロリ菌感染によって慢性胃炎や萎縮性胃炎になっていても、胃の不調を感じない方がいます。ピロリ菌の除去治療後は、胃もたれや胃痛などの胃の不調がない場合でも年に1回は胃カメラ検査を受けましょう。
ピロリ菌感染によって胃がんリスクが高くなるという認識は多くのメディアによって広まり、ピロリ菌による胃がん発生や死亡率は減っています。一方で、ピロリ菌除去後に「胃がんリスクがなくなった」と勘違いするケースも多く、除去後の胃カメラ検査を受けなくなる方がいるのも事実です。
胃がんは、早期発見早期治療できれば完治も見込めます。過去にピロリ菌に感染した方は、年に1回胃カメラ検査を受け、胃がんリスクを軽減するようにしましょう。
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この記事を書いた人
秋山 祖久医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。