内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

こんにちは。福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院の医師の細川です。
当院には胃の不快な症状を訴えて来院される方が沢山いらっしゃいますが、胃カメラ検査を行うと胃に良性のポリープが見つかる場合もあります。
ポリープって聞くと、良性であってもすぐに治療しなければいけないと思ってしまいますが、実は治療しなくて良いポリープもあります。

胃のポリープとは、医学的に難しく説明すると、「胃に発生する良性の上皮性の隆起性病変」のことをいいます。
分かりやすく言い換えると、「胃の粘膜から発生した良性の盛り上がったできもの」を胃のポリープといいます。
私たち消化器内視鏡医が胃カメラ検査を行った際によく遭遇するポリープは、ほとんどが胃底腺ポリープと過形成ポリープです。

そこで今回は、胃の良性のポリープである胃底腺ポリープと過形成ポリープについてお話ししたいと思います。

【胃底腺ポリープ】

胃底腺ポリープってどんなポリープなの?

胃底腺ポリープは、周囲の正常な胃粘膜と同じ色味をした良性のポリープです。ポリープの表面は均一で平滑なツルッと隆起した病変です。中年の女性に認めることが多いですが、男性や若い人でも認めることがあります。
ポリープの多くはサイズが5mm以下で茎を伴わない小さなポリープです。稀にサイズが5mm以上に大きくなることもあります。サイズが大きな場合は茎を伴う有茎性の形態をとることもあります。多発することも多く、経時的に経過観察するとサイズが増大したり、逆にサイズが縮小したり自然消退することもあります。
組織学的には、胃粘膜の萎縮(老化)や炎症細胞の浸潤のないヘリコバクター・ピロリ菌非感染の綺麗な胃粘膜に発生することが多く、胃の胃底腺領域(ひだがある部分)に発生しやすいポリープです。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌後に発生したり、増加することもあります。
胃カメラ検査(胃内視鏡検査)をした際に、医師から「胃にポリープがありますが、経過観察で問題ありません。」と言われた場合のポリープの多くは、この胃底腺ポリープです。

胃底腺ポリープは何が原因で出来るの?

実は胃底腺ポリープが出来る明らかな原因はまだ分かっていません。しかし、女性に見られることが多いことから女性ホルモンなどの関与が考えられています。
また、逆流性食道炎などの治療に用いる強力な酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI:proton pump inhibitor)を長期間にわたって服用すると胃底腺ポリープが新たに発生したり、増加するという報告もあります。PPIを長期間服用すると、胃酸の分泌が薬により強力に抑えられるため、体内では胃酸を出す司令となるガストリンというホルモンを沢山分泌するようになります。この状態を高ガストリン血症といいますが、PPI投与による高ガストリン血症が胃底腺ポリープの発生に関与している可能性も疑われています。しかし、まだ詳細は不明です。PPIの長期服用で発生した胃底腺ポリープは、PPIの服用を中止すると縮小、減少すると報告されています。

胃底腺ポリープがあるとどんな症状が出るの?

胃底腺ポリープがあってもそれ自体は、胃痛などの症状の原因にはなりません。ポリープがあっても症状は何も無く、人間ドックや検診のバリウムによる胃レントゲン検査や胃カメラ検査(胃内視鏡検査)で偶然見つかるケースがほとんどです。胃痛などの症状があり、胃カメラ検査を受けると見つかることもありますが、その場合も症状の原因は胃炎などポリープ以外が原因です。

胃底腺ポリープの診断はどうやって行うの?

胃にポリープがあるということは、バリウムによる胃レントゲン検査でも診断は可能です。しかし、バリウムの検査はいわゆる影絵のような検査のため、見つけたポリープが胃底腺ポリープなのか、それ以外のポリープなのか、胃がんなのかという確定診断にまでは至りません。
胃底腺ポリープを確定診断するためには、胃カメラ検査(胃内視鏡検査)で直接ポリープの形態や表面構造、色調などを観察することが必要になります。場合によっては、生検でポリープの表面の組織を一部とって病理組織学的に調べます。
胃底腺ポリープは基本的にはがん化のリスクは極めて低い良性のポリープです。しかし、非常に稀ですが、がんの併発症例の報告もあります。このため、胃カメラ検査などで胃底腺ポリープを指摘された場合は、定期的に胃カメラ検査を受けて、ポリープのサイズが急激に大きくなっていないか、表面に凹凸不整などの変化が出てきていないかをフォローアップする必要があります。

胃底腺ポリープの治療はどうするの?

胃底腺ポリープは基本的にはがん化のリスクの極めて低い良性のポリープです。このため、通常は切除などの治療は不要です。しかし、非常に稀ですが、がん化の報告もあるため、肉眼的には胃底腺ポリープが疑われる場合でも経時的にフォローアップしている際に急激にサイズが大きくなった場合や、表面に凹凸不整などの所見が認められた場合は、生検による病理組織診断まで行い、悪性化していないかをチェックする必要があります。悪性化している場合や細胞異型が出現している場合は切除が必要です。
例外的は、家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis; FAP)の方に認めるFAP関連胃底腺ポリープです。FAP関連胃底腺ポリープは、組織診断で高頻度に異形成(現状ではがんとは言えないが、将来的にがんに進行する確率が高い状態)を伴います。このため、がん化の可能性も考慮し予防的に切除が必要となります。

【胃過形成性ポリープ】

胃過形成性ポリープってどんなポリープなの?

胃過形成性ポリープは、ポリープ表面の血管が豊富なため周囲の正常な胃粘膜と比べると発赤調が強く、ポリープ表面には粘液や白苔付着を伴うことが多い基本的には良性のポリープです。
胃の入り口付近(噴門部)から出口付近(幽門部)まで胃内のどこの部分にも発生する可能性があるポリープです。ポリープの大きさや形態は非常に多岐にわたり、多発することもあります。
胃カメラ検査(胃内視鏡検査)時にカメラに搭載されているNBI(Narrow band imaging)という特殊光観察や病変を100倍にズーム観察可能な拡大機能を用いてポリープの表面を観察すると、粘膜模様は大型化しており、微小血管の拡張が認められますが、その形状は均一で規則性は保たれています。
病理組織学的には、腺窩上皮の過形成性変化が主体です。粘膜固有層に炎症細胞の浸潤を認める炎症性ポリープの一種です。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染により胃粘膜の萎縮(老化)がある胃に発生しやすいと言われています。経時的にポリープをフォローアップするとポリープのサイズは不変または経時的に増大傾向を示すことが多く、自然消失することはほとんどありませんが、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療後はサイズが縮小したり消失することが多く認められます。
基本的には良性のポリープで癌化することは少ないですが、サイズが2cm以上になるとがん化するものもあります。また、食事や胃酸などでポリープ表面の粘膜が物理的に刺激されると、持続的な出血を起こし、鉄欠乏性貧血の原因となることがあります。

胃過形成性ポリープは何が原因で出来るの?

胃過形成性ポリープは、腺窩上皮の過形成に加えて、粘膜固有層に炎症細胞が多数浸潤した炎症性ポリープの一種です。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると胃粘膜に炎症が起こるため、慢性的に炎症が持続します。この慢性炎症による粘膜の損傷が修復される過程で粘膜が過剰に再生された結果、発生するポリープと考えられています。

胃過形成性ポリープがあるとどんな症状が出るの?

胃過形成性ポリープ自体は、多くの場合、症状の原因にはなりません。人間ドックや検診のバリウムによる胃レントゲン検査や胃カメラ検査(胃内視鏡検査)で偶然見つかるケースがほとんどです。
まれに胃の入り口や出口付近にできた過形成ポリープが大きくなった場合に、胃内容物の通過障害を来し、吐き気や胃もたれなどの症状が出現することがあります。また、大きな過形成ポリープの場合、ポリープ表面の粘膜が食事や胃酸などにより刺激されることで、持続的な出血を来たし、貧血の症状が出現することがあります。

胃過形成性ポリープの診断はどうやって行うの?

胃にポリープがあるということは、バリウムによる胃レントゲン検査でも診断は可能です。しかし、バリウムの検査はいわゆる影絵のような検査のため、見つけたポリープが胃過形成性ポリープなのか、それ以外のポリープなのか、胃がんなのかという確定診断にまでは至りません。
胃過形成性ポリープを確定診断するためには、胃カメラ検査(胃内視鏡検査)で直接ポリープの形態や表面構造、色調などを観察することが必要になります。場合によっては、生検でポリープの表面の組織を一部とって病理組織学的に調べます。
胃過形成性ポリープは、基本的には良性のポリープで癌化のリスクが少ないポリープです。しかし、サイズが2cm以上になるとがん化するものもあります。このため、胃カメラ検査などで胃過形成性ポリープを指摘された場合は、定期的に胃カメラ検査を受けて、ポリープのサイズが急激に大きくなっていないか、表面に凹凸不整などの悪性化を疑う変化が出てきていないかをフォローアップすることが必要です。

胃過形成性ポリープの治療はどうするの?

胃過形成性ポリープは、ヘリコバクター・ピロリ菌感染により胃粘膜の萎縮(老化)がある胃で発生しやすいと言われています。経時的にポリープをフォローアップするとポリープのサイズは不変または経時的に増大傾向を示すことが多く、自然消失することはほとんどありません。
しかし、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療後にサイズが縮小したり消失することが多いポリープです。
ポリープ発見時にヘリコバクター・ピロリ菌の感染がある場合は、まずはピロリ菌の除菌治療を行い、その後、定期的な胃カメラ検査(胃内視鏡検査)によるフォローアップを行います。
ポリープのサイズが2cm以上ある場合、経過観察中にサイズが急速に大きくなった場合、内視鏡所見や病理組織学検査でがん化の併存が疑われた場合、ポリープの粘膜表面から持続的な出血があり貧血の原因となっている場合は、内視鏡的な切除術(ポリペクトミー)による治療を行います。


如何だったでしょうか?
胃の良性のポリープがどんなポリープか少しは分かったでしょうか?
参考になれば幸いです。
良性であってもポリープを指摘された場合は、定期的な胃カメラ検査によるフォローアップが必要です。
お悩みの場合は、是非一度ご相談ください。
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この記事を書いた人

萱嶋 善行医師

福岡大学医学部卒業。
福岡大学病院など多くの総合病院で消化器内視鏡検査・治療を習得。
病理診断にも研鑽を積む。2023年3月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。