内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

食道がんと飲酒・喫煙との密接な関係をご存じですか?


食道がんの多くは生活習慣病と言われています。お酒やたばことの密接な関係について動画で詳細に解説しております。
食道癌の危険因子の多くは、「飲酒と喫煙」です。

日本で90%以上と頻度の高い扁平上皮癌では飲酒と喫煙が危険因子として重要であり,その両者を併用することでさらに危険性が増加することが知られている。
特に中年以降の男性に多く、男女比は男性:女性=6:1です。

「食道がん」どんな”がん”かご存知ですか?

最近は芸能人の方が亡くなったり、手術をしたりと何かと聞くことが多くなってきた 「食道がん」。

症例 01 食べると胸のあたりにつかえる感じがすると来院されました。食道に進行がんを認めました。【60歳代 男性】

食道がんは、他の臓器同様にかなり進行しないと症状が出ないうえ、内視鏡検査以外では早期発見が難しいがんのひとつです。多くが進行がんの状態で発見されます。
進行がんの治療は、抗がん剤治療、放射線治療、そして手術療法の3つを組み合わせて行われます。どの治療にしても合併症が多く、入院が必要になるため身体への負担が大きくなります。

では、どのように予防すれば良いのでしょうか?
食道がんには「扁平上皮がん」と「腺がん」があり、原因や性質などがそれぞれ異なります。日本などの東アジアでは、食道がんのほとんどは扁平上皮がんです。扁平上皮の原因の大部分は、大量の飲酒と喫煙といわれています。
よって、禁煙と禁酒、節酒が一番の予防法と言えます。

飲酒と喫煙のリスクについて

01 飲酒

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日本人の約半数はアルデヒド脱水素酵素のALDH2の活性が遺伝的に極めて弱い欠損型です。このタイプの人は、発がん物質である「アセトアルデヒド」の分解が遅く、蓄積されます。飲酒後に顔が赤くなる方をフラッシャーとよびますが、フラッシャーの大部分はALDH2欠損者です。
つまり、食道がんに一番注意が必要なのは、飲酒後に顔が赤くなる方です。
お酒に「強い」「弱い」は遺伝による生まれつきの体質なので、強くなろうと努力せず、体質に合った適量を飲むようにしましょう。また、お酒を毎日3合以上飲んでいる方の食道がんのリスクは、飲まない方の60倍以上になるといわれています。
お酒に強いからといっても飲みすぎには注意が必要です。

1日3合以上を毎日飲酒している方で、家族の勧めで胃カメラを受けられて偶然見つかった食道がんの内視鏡写真です

胃カメラの通常光

胃カメラの通常光

わずかな粘膜の色調の変化を認めますが、この段階でも痛みや嘔吐などの明らかな症状が出現することはまずないでしょう。

また、レントゲン検査ではこのような色調のわずかな変化のみの病変であれば認識するのが難しいと思われます。
NBI(狭帯域光観察)

NBI(狭帯域光観察)

腫瘍の部分が茶色く映るようになり、色の違いとして認識がしやすくなります。この操作は内視鏡スコープのボタンで簡単に切り替えることができるため、1回の内視鏡検査で詳しく調べることができます。
ルゴール(ヨード液)を散布

ルゴール(ヨード液)を散布

正常な部位はルゴールで染色され茶色になりますが、がん部分は染色されずに白っぽく「不染帯」となります。

02 喫煙

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喉頭・咽頭がん(のどのがん)で、喫煙者では非喫煙者と比べて3~14倍、食道がんが7倍と非常に高くなっています。これに飲酒が加わるとさらに3~5倍上乗せされると言われているため、喉頭・咽頭がんでは最大で約70倍、食道がんで約35倍となります。
タバコの煙には4000種類以上の化学物質および250種類以上もの毒物・発がん物質が含まれています。タバコが直接的な原因となった死亡者数は、全世界で年間600万人に上ると言われています。6秒に1人がタバコにより死亡している計算になります。日本でも11万人を超える人が死亡している(男性9万人、女性2万4000人)といわれています。
年間の交通事故死亡者数6000人、自殺による死亡者数3万人と比較しても非常に多い数字です。
IRAC(国際がん研究機関)はタバコを最も危険な発がん物質に分類しています。
また喫煙者が吸っている主流煙以外にも、タバコの先から出る煙の「副流煙」、つまり受動喫煙も発がんの大きな原因となります。副流煙は主流煙と比べてフィルターを通さないために、ニコチンは2.5倍、一酸化炭素は約4.5倍、発がん物質のニトロソアミンは約50倍と有害物質の濃度が濃くなってしまい、むしろ発がんのリスクは喫煙者よりも高いのかもしれません。

2020年の東京オリンピックに向けて病院や学校をはじめとした全面禁煙に乗り出すことを検討

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2016年に国立がん研究センターが、日本人で受動喫煙がある人は、ない人に比較して肺がんリスクが約1.3倍になると報告しました。受動喫煙の害が、ハッキリした数字として報告されたのです。

同センター長は、「世界の中で日本の受動喫煙対策が遅れていることを知ったうえで、室内での完全禁煙に向け、国民運動として受動喫煙対策を進めてほしい」と話しています。
これを受け、ようやく国が2020年の東京オリンピックに向けて病院や学校をはじめとした全面禁煙に乗り出すことを検討しましたが、日本の受動喫煙対策は、まだまだ始まったばかりです。

飲酒や喫煙のほかにも食道がんのリスク要因として、肥満、熱い飲み物や食べ物、逆流性食道炎などがあります。

とくに逆流性食道炎は欧米で多い、「食道腺がん」の原因になります。食生活の欧米化のため、日本でも「食道腺がん」の報告が増えています。

症例 01 食道腺がん

食道がんは、遺伝の要素というよりも生活習慣病から発生するものです。生活習慣を見直していくことができれば、食道がんのリスクも減らしていくことができる、とも考えられます。
肥満などとの関係から逆流性食道炎が多い欧米諸国で発症が多くみられるとされていた「食道腺がん」ですが、食生活の欧米化での肥満増加に伴い日本でも増加傾向にあり
ます。

矢印の凹みを伴った病変が「食道腺がん」です。
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この記事を書いた人

平島 徹朗医師

国立佐賀大学医学部 卒業。
大分大学医学部附属病院消化器内科、国立がん研究センター中央病院内視鏡部など、多くの病院・内視鏡専門クリニックで消化器内視鏡診断・治療を習得後、2011年たまプラーザ南口胃腸内科クリニック開院。