大腸がんと飲酒の関係についてアルコール量に潜むリスクを徹底解説
中国の史書「漢書」の中の一説に「酒は百薬の長」と言う言葉があります。これは「適量のお酒はどんな良薬よりも効果がある」といった意味となりますが、この言葉があることにより「お酒を飲むことは身体にいいんだ」という意味合いで肯定的に捉えられているふしがあります。
また、「飲酒のJカーブ効果」というものもあり、ビールにして1日2~3本程度のお酒をたしなむ人は、脳卒中や心筋梗塞にかかって死亡したり病気になったりするリスクが下がるという研究結果が米国保健科学協議会(ACSH)によって報告されたこともあります。
しかし年々研究が進むにつれ、お酒を一滴でも飲むと健康リスクが下がってしまい、がんや脳卒中、心筋梗塞などを引き起こすなど身体に良くないと言われるようになってきました。なかでも肝臓がんや大腸がん、食道がん、糖尿病などは確実にアルコールの影響があると、国立がん研究センターも発表しています。
今回は、がんの中でも大腸がんについての飲酒との関係性について、アルコールを摂取することによる大腸がんのリスクについて詳しく見ていきます。
飲酒は特に肝細胞がんや食道がん、大腸がんといった種類のがんとの関連性が高いと言われています。ほかにも、ほぼ確実と言われているものとして女性の閉経前の乳がんや男性の胃がんにもアルコールの影響があると言われています。
国立がん研究センターのがん予防・検診研究センターがまとめた「日本人のためのがん予防法」によると、日本人の男性を対象とした研究において1日の平均アルコール摂取量が、純エタノール量換算で23g未満の人に比べた場合、46g以上摂取する人でおよそ40%、69g以上摂取する人でおよそ60%がんにかかるリスクが高くなるという調査結果が出ています。つまり、ビール大瓶(633ml)にして2本、日本酒は2合、焼酎や泡盛は1合と1/3、ワインではグラスで4杯、ウィスキーはダブルで2杯程度のお酒をたしなむ人はがんのリスクが高いということです。
また別の研究によると、平均1日あたり日本酒に換算して3合以上(純アルコール約60g) を消費するような多量飲酒をしている人の食道がんのリスクはお酒を飲まない人の約8倍、またお酒が弱いのに多量飲酒している人は約50倍リスクが高くなるとも言われています。
実際の医療現場からは、飲酒歴として毎日缶ビール500mlなどを飲んでいる人の大腸内視鏡検査を行うと、ほとんどの人に大腸ポリープが発見されるといった報告もあります。
なぜ飲酒ががんの原因になるのかというと、飲酒によって体内にアルコールの一種であるエタノールが取り込まれます。取り込まれたエタノールは、動物での発がん性が示されている「アセトアルデヒド」に代謝されますが、これががんの原因になると言われているものです。
アルコールとアセトアルデヒドには発がん性があるため、2つの酵素の働きが弱い人がお酒を大量に飲むようになった場合には、頭頚部がん(頭から首まであたりに発生するがん)や食道がんのリスクが特に高くなります。
国立がん研究センターの最新がん統計によるとがんの罹患数の順位は2019年のデータで以下のような結果となっています。
男女合わせたがんの罹患数第1位は大腸がんで、2019年に大腸がんと診断されたのは155,625例(男性87,872例、女性67,753例)です。なお、大腸を結腸と直腸に分けた場合、男性の場合には結腸は4位、直腸は5位に、女性の場合には結腸は2位、直腸は7位となります。
先ほど飲酒は肝細胞がんや食道がん、大腸がんとの関連性が高いと述べましたが、日本人が大腸がんにかかりやすいのには、このデータからも飲酒の影響が大いにあると見て間違いないと思われます。
ちなみに2021年のデータでは、女性のがん死亡数の第1位が大腸がんです(男性および男女総数は第2位)。
過度なアルコールの摂取は、大腸がんのリスクを増加させる可能性があると言われている中、韓国においてお酒と大腸がんの関係についてまとめられた論文が2023年6月に発表され、非常に興味深い内容として注目されています。これは「Jounal of Clinical Oncology誌オンライン版」に掲載された「1日のアルコール摂取量と早期発症大腸がんの関連性について」が発表されました。
内容としては、2009年1月1日から2019年12月31日における韓国の国民健康保険サービスのデータに基づき、20~49歳の566万6,576例(非飲酒者が41.6%、軽度飲酒者が28.0%、中程度飲酒者が20.4%、多量飲酒者が9.9%)を対象に分析が行われました。
1日の飲酒量を
非飲酒者:0g
軽度飲酒者(基準):男女とも10g未満
中程度飲酒者:男性10~30g未満、女性10~20g未満
多量飲酒者:男性30g以上、女性20g以上
と4つに分類して調査を行ったところ、中程度飲酒者および多量飲酒者は軽度飲酒者に比べて早期大腸がんのリスクが高いことが示されました。つまり1日10g以上の飲酒で早期大腸がんのリスクが高くなるという結果になったわけです。
これによれば、純アルコール20gに相当する量として、たとえばビール中瓶1本(500ml:アルコール度数5%)、日本酒1合(180ml:アルコール度数15%)、ワイングラス2杯弱(180ml:アルコール度数5%)であれば、1日おきのペースなら飲酒をしてもリスクが高くならないことになります。とはいえ、現実にはお酒が好きな人とってこれではかなり物足りない量と言えるかもしれません。
アルコールの摂取には、がんのリスクもあるとはいえ、当然良い面もあります。たとえば適量の摂取であれば場を楽しい雰囲気にしてくれる、ストレス発散、食欲増進、血行促進、人間関係を円滑にしてくれるなどのメリットも享受したいところではないでしょうか。
厚生労働省が定める生活習慣病のリスクを高める飲酒量は、1日の平均純アルコール摂取量が男性の場合40g以上、女性は20g以上と定義されていますので、それ以内を目途に飲酒を楽しむことを実践してもよいと思われます。ただしこの飲酒量はあくまで目安であって、あまりお酒が強くない人もいますし体格にも個人差があります。よって自分なりに適切だと思える量を探りながら、飲酒とうまく付き合っていくようにするのがベストです。
また飲酒する際には、毎日飲むのではなく必ず休肝日を作るようにするとよいでしょう。肝臓が休めるだけでなく、併せて腸も休めることができます。
とはいえ、多量飲酒をしている人の場合、いきなりお酒の量を減らすのに抵抗があるという人もいるかもしれません。そのような場合には、ノンアルコール飲料や炭酸水を代わりに飲みつつ、徐々に置き換えていくのも手です。
以上、大腸がんについての飲酒との関係性、アルコール摂取による大腸がんのリスクについて紹介してきました。
飲酒には大腸がんをはじめとしたさまざまながんのリスクがあります。飲酒しないことでがんのリスクを大幅に軽減できるといった各種データもあり、今後飲酒をやめようと考える人も出てくるかもしれない一方で、飲酒をやめることができない人も多数いることでしょう。
飲酒にはデメリットだけでなくメリットもあります。そのメリットを享受できるほどの飲酒量をしっかりと守れるのであれば、健康に気を付けつつも飲酒を楽しむこともできます。大腸がんにならないためにも、適度な飲酒量を心掛けるように自己管理を徹底しましょう。
「癌にならない腸活実践メルマガ講座」では、がんで亡くなる人・苦しむ人を一人でも多く減らすために日常生活の中で実践できる
・免疫を上げる方法
・正しい腸活の知識
・腸内環境とお肌の関係
・健康的なダイエット方法
・乳酸菌のすごい効果
などを、腸の専門医が毎日メールでお届けいたします。
免疫力をアップして、いくつになっても健康的な毎日を過ごしたい方におすすめの内容になってますので、気になる方はぜひ記事下のバナーをクリックしてお申し込みください。
↓↓
この記事を書いた人
秋山 祖久 医師
国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。