内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

サイレントキラー!膵臓がんの原因と知っておきたい基礎知識3選

皆さんは膵臓がどのような役割を担っているかご存じでしょうか?胃や大腸、心臓、肺などと比べると、あまりその役割は知られていないかもしれません。膵臓がんは「サイレントキラー」と呼ばれており、すべてのがんの中でもっとも死亡率が高く、早期発見が難しいといわれる疾患の一つです。

膵臓がんの症状はさまざまですが、症状を自覚したときにはすでにがんが進行している恐れがあります。ここでは膵臓がんのサインを見逃さないために膵臓がんの原因や症状、知っておきたい膵臓がんの3つの基礎知識について解説します。

1. 膵臓とはどんな臓器?

人体模型
膵臓は長さ10〜15cm程度で、胃の背中側にある細長い形の臓器です。主な役割は、外分泌機能と内分泌機能の2つです。外分泌機能とは、食べ物を消化する膵酵素とよばれる消化酵素を作る働きのことです。

また内分泌機能は血糖値を下げるホルモンのインスリンや、血糖値を上げるホルモンのグルカゴンなどを作り、血液中の糖分の調整を行います。膵臓の機能が低下すると、体全体にある細胞に栄養が行き届かず、エネルギーが産出できなくなります。

2. 膵臓がんとは?

背中が痛む男性
膵臓がんは悪性腫瘍が膵臓にできる病気で、その多くは膵臓全体に網目状に張り巡らされた膵管(すいかん)にできます。膵臓がんは、令和3年9月に厚生労働省が発表した『令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況』では、令和2年に膵臓がんで亡くなった方が37,677人と報告されました。

また、公益財団法人がん研究振興財団が発表した『がんの統計2021』では、膵臓がんの5年相対生存率は、すべてのがんの中でもっとも低く8.5%と報告されています。

2-1. 膵臓がんの原因

膵臓がんの原因は、いまだ十分にわかっていないのが現状です。しかし、遺伝的なことや糖尿病や慢性膵炎、加齢などが大きく影響していると考えられています。その他にも肥満や多量の飲酒、ストレスなども関係しているといわれています。

2-2. 膵臓がんの症状

膵臓は体の奥深い位置にあるため、初期の膵臓がんでは自覚症状はほとんどありません。膵臓がんが進行すると、背中の痛みが出現し、とくに背中の左側が痛くなるといわれています。その他にも、皮膚が黄色くなる黄疸や、体重減少、食欲不振なども見られます。

3. 膵臓がんが怖い理由

絶望する男性
膵臓がんという病気を一言でお伝えすると、とても怖いがんです。医師の間でも、怖いがんと認識されている病気の一つです。膵臓がんがここまで怖いといわれる理由は、先にご紹介したように生存率の低さにあります。

膵臓がんは生存率が低いことや自覚症状がないまま静かに進行していくことから「サイレントキラー」と呼ばれています。
膵臓がんは胃や大腸のように、内視鏡検査などでスクリーニング検査ができないため、早期発見、早期治療が難しいのも怖いがんといわれる理由です。

4. 知っておきたい膵臓がんの基礎知識は3つ

灰皿とウイスキー
膵臓がんは確かに怖い病気ですが、ただ恐れるだけではなく正しい知識を理解しておくことが大切です。ここでは膵臓がんの3つの基礎知識について解説します。

4-1. 膵臓がんは罹患率が低い

上述の通り、膵臓がんの死亡率は高いですが、罹患率は他のがんと比べると非常に低いと言われています。
国立がん研究センターのがん統計では、2018年の部位別のがん罹患率で膵臓がんは、10万人あたり33.5人が罹患すると発表されました。約3,000人に1人が膵臓がんになるという計算です。

ちなみに、罹患率が高いとされる胃がんは10万人あたり99.7人、約1,000人に1人、またもっとも罹患率が高い大腸がんは10万人あたり120.4人、約830人に1人が罹患します。数字的に見ても、膵臓がんになる方は少ないといえるでしょう。

4-2. 特徴的な初期症状がない

膵臓がんには、血便が出れば大腸がんが疑われる、といったような特徴的な初期症状はありません。一番気をつけなければいけないのは、糖尿病の発症や悪化です。医師は、糖尿病を初めて指摘された方、あるいは糖尿病の治療中に、糖尿病が悪化した方に対して、必ずすい臓がんが隠れていないかを考え、精密検査を行います。

また、肥満や多量の飲酒、喫煙も膵臓がんのリスクを上げるといわれており、糖尿病を含めてこれらの特徴をもっている方は、膵臓がんのことを頭の片隅において健康診断を受ける必要があります。

膵臓がんは、症状や検査データを総合的に判断して診断されます。いままで健康だった方が突然糖尿病といわれたり、治療中の糖尿病がどんどん悪化したりする場合は注意が必要です。

膵臓がんの症状として、その他にも皮膚が黄色くなる黄疸や体重減少、食欲不振なども見られますが、これらの症状は他のがんでも認められます。

4-3. 膵臓がんになる方に共通する特徴がある

膵臓がんになる方には、さまざまな特徴があります。以下に当てはまる方は、膵臓がんのリスクが一般的に高いといわれているため、膵臓がんのことを頭に入れて健康診断を受けましょう。

〇膵臓がんになった家族がいる

膵臓がんになった方に家族の既往歴を聞くと、本人以外に膵臓がんになった方がいる場合が多くあります。特に親、兄弟姉妹、子どもなど身近な家族で膵臓がんを患った方がいる場合は、家族に膵臓がんになった方がいない方と比べると、約4倍膵臓がんのリスクが高くなるといわれています。

〇慢性膵炎・IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)

慢性膵炎(まんせいすいえん)とは、慢性的に膵臓に炎症が起きる病気です。慢性膵炎は、過度のアルコール摂取や胆石、ストレスが原因で発症します。慢性膵炎を発症した方は、慢性膵炎ではない方と比べると、膵臓がんのリスクが約4倍高くなります。

IPMNとは膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきしゅよう)のことで、膵臓の真ん中を通る膵管にできる、水が入った袋状のできものです。健康診断などの超音波検査で発見されることが多く、IPMNがある方も膵臓がんになりやすいといわれています。

〇糖尿病

糖尿病と診断された方は、膵臓がんのリスクが約2倍高くなるといわれています。糖尿病とは、血糖値が慢性的に高くなる病気です。血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されますが、糖尿病になるとこのインスリンの分泌量が減少したり、働きが弱くなったりするため、常に血糖値が高い状態となります。インスリンの分泌を促す働きがある膵臓と糖尿病には、大きな関係があるのです。

5. 膵臓がんの治療方法

手術
膵臓がんの治療法は、がんのステージや病状に応じて異なります。一つの治療法だけではなく、複数の治療法を組み合わせて行われます。

5-1. 外科手術

膵臓がんの外科手術の種類は、主に4つあります。

・膵頭十二指腸切除術(すいとうじゅうにしちょうせつじょじゅつ):膵頭部やその周辺にできたがんを切除する手術です。この手術では腫瘍を切除した後、残った膵臓や胆管、胃を小腸と縫合する消化管再建法が必要です。

・膵体尾切除術(すいたいびせつじょじゅつ):膵臓の体部や尾部のがんを切除する手術です。この場合、脾臓の摘出も同時に行われます。

・膵全摘術(すいぜんてきじゅつ):膵臓全体にがんが広がっている場合に行われます。膵臓を全摘出するとインスリンやグルカゴンなどを分泌する機能が失われるので、術後はそれらを補充する必要があり、患者様の生活の質(QOL)が著しく低下してしまいます。

・バイパス手術・内視鏡的ステント手術
バイパス手術は、十二指腸や胆管ががんでふさがれてしまうと、食事の摂取ができなくなったり嘔吐したり、黄疸が出たりとさまざまな症状が現れます。それらの症状を緩和するために行われるのが、バイパス手術です。また内視鏡的ステント手術は、ふさがった胆管にステントを挿入し、拡張させる手術です。これらの手術は症状を緩和し、日常生活に早く復帰できるように行われます。

6. まとめ

医師の診察
膵臓がんは罹患率がとても低い病気ではありますが、がんの中でも5年生存率がもっとも低く、特徴的な自覚症状もないので「サイレントキラー」といわれるほど、怖い病気です。膵臓がんにかかりやすい方の特徴は、身近な家族に膵臓がんの方がいる、慢性膵炎、糖尿病、IPMNがある、肥満、飲酒、喫煙者です。

これらの特徴に当てはまる方は、主治医と膵臓がんのスクリーニング検査について相談することをおすすめします。膵臓がんだけでなく、病気は早期発見・早期治療が大切です。気になる症状がみられる際は、早めに医療機関を受診しましょう。

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この記事を書いた人

萱嶋 善行医師

福岡大学医学部卒業。
福岡大学病院など多くの総合病院で消化器内視鏡検査・治療を習得。
病理診断にも研鑽を積む。2023年3月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。