内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

人間ドックや会社の健康診断での胃バリウム検査だけで済ませていませんか?

現在でも胃バリウム検査が、多くの会社の検診などで行われています。人間ドックや会社指定の検診などでも、現在のようなインターネットが普及しているこのご時世でも胃カメラはまだまだ普及していないのが現状です。それでは、胃バリウム検査を受けていれば胃がんの早期発見に関しては問題ないのでしょうか?


残念ながら、答えは完全に「No(ノー)」です。

それでは、なぜ検診などでは未だに精度の低い胃バリウム検査を勧めてくるのでしょうか?

それは費用と医師などの人材確保の問題が大きく関わってきます。
通常、検診の胃バリウム検査などでは
  1. 医師立ち会いの下
  2. 立ち会いの医師が放射線技師に指示を出し
  3. 様々な角度から放射線を出し続け
  4. 医師の指示に沿って適切なタイミングや位置で胃や食道の写真の撮影をする
ということが決められています。
しかしながら、医師の人件費が余計にかかることや人材確保が難しいため、ほとんどの検診施設では医師の立ち会いはなく、放射線技師1人がマニュアルに沿って撮影しているのが現状です。これでは適切なタイミングや適切な撮影位置で胃や食道を撮影されているのかなど甚だ疑問であると考えざるを得ません。
検診センターの利益を上げるためには、医師の立ち会いを省き、放射線技師のみで大量の検診者を流れ作業的に機械的に撮影するしかなく、胃カメラでの検診では大量の人数を丁寧に観察しようと思うと到底無理であり、医師一人がさばける人数には制限が出てしまいます。
胃カメラは流れ作業的な検診でもさすがに法的にも医師が行いますので、医師の人件費がかかることや検診できる胃カメラの件数に制限が生じて、検診センターの利益が少なくなることとなり、やはり大量に人数をさばける胃バリウム検査が優先されてしまう現状があります。
胃バリウム検査は、大量の放射線を照射することで胃や食道の粘膜の凹凸を「影絵」のように見ています。
つまりがんなどがある程度の大きさまでにならないと、発見できないことが多いのです。つまり、身体に負担なく内視鏡のみで治療できる段階の早期胃がんや早期食道がんの発見にはほとんど役に立たないということになります。

特に口から直線的に続く食道に関しては胃バリウム検査では口から飲み込んだバリウムは一瞬で食道を通過してしまいますので、シャッターチャンスはほんの一瞬ですし、シャッターを押したその瞬間(ほんのほんの一瞬)の食道の状態だけしか写りませんので、微細な粘膜の色調の変化だけを示す早期食道がんを見つけることはまず無理だということは小学生でも原理をきちんと説明すれば理解してくれると思いますし(このような原理の説明は検診などではまずされませんし、思考停止に陥ってしまっている検診者は会社の指示に従って流れ作業的に胃バリウム検査をなんとなく受けてしまっているのが現状です)、このような早期発見には不向きなバリウム検査の原理をきちんと理解すれば、食道がん・胃がんの早期発見目的では胃バリウム検査はまず受けないであろうと思われます(少なくとも私たちのクリニックで定期的に胃カメラを受けられている患者さんにはきちんと胃バリウム検査の不利益を説明するようにしていますし、私たちの患者さんで胃バリウム検査受けている人はほとんどいません。仮にいれば「受けない方が良いですよ」とお話ししています)。
早期の胃がんや食道がんはかなり微小であり、粘膜の凹凸を伴うことは少なく、粘膜の微細な色の変化のみであることがほとんどであるため、「影絵」の原理である胃バリウム検査ではほぼ発見が難しいとされています。

胃バリウム検査で発見された「胃がん」や「食道がん」というものの多くは、がんがかなり進行した状態となっており、多くが身体にかなり負担のかかる外科的手術や長期間に渡る抗がん剤での治療となってしまい、時間的にも金銭的にも大きな負担となりますし、何よりも精神的に大きな負担となってその後の人生が大きく狂ってしまうことになりかねません。
胃バリウム検査は検査台に乗せられ、かなりの急な角度に体位を変換させられ、長時間にわたり高量の放射線を被曝することになります。周りの医療者は被曝しないように部屋の外からマイクで受診者に指示を出し、決して撮影中は部屋の中には入ってきません(部屋に入ると被曝してしまいますから)。放射能が外に漏れないように部屋の壁には何重にも分厚い鉛を充填するように法律で指示があるため、部屋の中には高量の放射能が満ちあふれてしまいます。

胃バリウム検査の被ばく問題

また、皆さんはあまり気にされていないかもしれませんが、胃バリウム検査には「被ばく」という大きな大きな問題があるのです。福島原発事故の報道などでご存じかもしれませんが、放射線被ばくは長期間に渡る「蓄積性」があり、遺伝子の本体であるDNAを損傷させるため、医療被曝による「発がん」の可能性が出てきます。
イギリスのオックスフォード大学のグループの調査では、日本人は75歳までに「がん」になる人のうち3.2%の人が放射線診断による被ばくで「がん」が誘発されたというデータが出ています。これは調査した15か国のうち、日本が一番高い数字でした。

胃バリウム検査は検診で行うくらいだから、まさか被ばく量は多くないだろうと思っていませんか?被ばくがあっても、胸のレントゲン検査と変わらないくらいではないかと思っていませんか?

実は、1回の胃バリウム検査で受ける被ばく量は検診センターの直接撮影(大きなフィルムで撮影する方法)15~25mSyととても高く、検診車の間接撮影(小さなフィルムで撮影する方法)では20~30mSyにもなります。これは驚くことに胸部レントゲン検査のおよそ150~300倍の被ばく量なのです。一般的な全身CT検査でもおよそ10mSyですので、いかに胃バリウム検査の被ばく量が多いかがわかります。全身CTは多くの情報が得られるのに対し、胃バリウム検査は得られる情報量がとても少ないのに対し、被ばく量だけはとても多いことがわかります。

どうして胃バリウム検査ではこのように被ばく量が多いのでしょうか?

胃バリウム検査を受けたことがある方は分かると思いますが、検査中にポイントポイントで「息を止めてください」というアナウンスと共に「カシャッ」という撮影音が聞こえてきます。この「カシャッ」という音のタイミングでのみ放射線を照射していると勘違いしている方が多くいますが、実は放射線は常に照射し続け、胃の形をバリウムの状態を見ながらマニュアルに沿って撮影していきます。適切な食道や胃の形状を撮影するように指示があるために、常に放射線は放射し続け、適切なタイミングを見計らって撮影するのです。そのため、放射する放射線量がかなり多くなり、被曝量も驚くほど多くなってしまいます。
放射線により傷ついたDNAが原因で「発がん」するには1回の被ばく量が50~200mSyといわれていますので、たしかに1回の胃バリウム検査で「発がん」することはまずありませんが、毎年胃バリウム検査を受け続けることで放射線被ばくが「蓄積」し、徐々にDNAが傷つけられて「発がん」の一因になってしまう可能性があります。
胃がんが心配で胃バリウム検査を毎年受けているのに、結果的に胃バリウム検査を受けることが「発がん」の原因の一因になってしまったのでは、何のための検査であるのかわかりません。
「胃バリウム検査で異常を指摘されて、胃カメラを受けるきっかけになった」という意味では確かに胃バリウム検査の意義はあると思われるのですが、そもそも胃バリウム検査だけでは胃がんの確定診断には至りません。胃バリウム検査で問題があった場合の精密検査や確定診断は結局のところ胃カメラが必要になります。
そして胃バリウム検査を受けた方はご存じかと思いますが、実はかなり苦しくて辛い検査でもあります。検査中のゲップや、検査後のお腹の張りやグルグルした不快な症状が出ることが多いですし、バリウムが排便と共になかなか出ずに苦しむ方を多く目にします。


以下に、胃バリウム検査よりも胃カメラを受けていただきたい理由をまとめました。

胃バリウム検査の落とし穴

01 微細な色調変化のみの早期胃がんや早期食道がんはまず発見できません

レントゲン(胃バリウム検査)で撮影した胃や食道は、凹凸を伴わない小さなごく早期の胃がんや食道がんは影絵の原理としての「影」としては映らないことが大部分です
上図の影絵のように、リンゴの木はスクリーンを通すと、平面の影の絵になります。
胃バリウム検査でも、角度によっては影絵の中に「がん」がある場合や凹凸を伴わないごく小さな早期の胃がんや食道がんでは写真に映し出されないことが多々あります。
内視鏡検査では、ハイビジョンスコープを実際に直接胃や大腸の中に挿入して観察しますから、小さな病変でも発見し易くなります。

02 胃を膨らませるための発泡剤入りのバリウムを飲むこと自体が、かなりの苦痛を伴います

胃バリウム検査中はゲップが出そうになったりしますが、ゲップは絶対に我慢しないといけませんし、ゲップをしようものなら放射線技師さんに怒られてしまい、再度発泡剤入りのバリウムを飲む羽目になってしまいます。胃バリウム検査後もお腹の張りやグルグルした感じが続くことがありますし、便秘気味の方はバリウムがなかなか出ずに苦しむことが多くあります。

03 放射線による「放射能被ばく」が大問題です

胸部レントゲン検査の約300倍もの被ばく量があり、医療被曝による発がんの問題が出てきます。がんを早期で見つけるための医療被曝は多少仕方ない面はありますが、精度の低い胃バリウム検査を被曝してまでわざわざ受ける意味は全くないと考えております。

04 バリウムを胃全体に行き渡らせるためにかなり無理のある体勢にさせられます

数年前に群馬県の沼津市で行われた検診での胃バリウム検査中に検査台から落下して台と壁の間に頭が挟まって死亡されたという痛ましい事件がありました。
胃バリウム検査ではバリウムを胃の隅々まで行き渡らせるため、検査台の上でかなり無理な体勢を取らされます。頭が下向きになったりしますので、横に付いている棒を必死に握りしめて全身の力で耐えないといけません。これは力のない高齢者や女性ではかなり無理のある検査となってしまいます。

05 「胃バリウム検査でしか分からない胃がんがある」とテレビで言っていた

テレビの健康番組などで「胃バリウム検査でしか発見できない「がん」がある」ということを発言しているドクターを時々目にしますが、これはいわゆる「スキルス胃がん」のことです。スキルス胃がんとは粘膜の下を這うように広がっていくがんで、かなり進行しないと胃粘膜の表面にはでてきません。スキルス胃がん=硬がん(硬いがん)と言われており、読んで字の如く胃粘膜が硬くなり、胃の膨らみがかなり悪くなってしまいます。胃バリウム検査では発泡剤を服用して胃を膨らませますので、胃の膨らみが悪い時にこの「スキルス胃がん」を疑い、胃カメラの再検査を指示するという理屈です。しかしながら結局のところ精密検査・診断は胃カメラとなってしまいますし、胃カメラでも空気を送気して胃を膨らませますので、胃の膨らみが悪いかどうかや、粘膜の硬い印象を直接見ることができるので、やはり胃カメラが情報量では格段に優れていると言えます。
「胃バリウム検査でしか発見できない「がん」がある」という表現はかなり誇張した、胃バリウム検査をなんとか推奨したい検診センターの思惑が見え隠れしている言動だと思われます。

胃バリウム検査は 「被ばく量がかなり多く、かなり辛い検査の割には、がんを早期の段階で見つける情報がかなり少ない」 という意義や意味の少ない(声を大にしては言えませんが、意義や意味が全くないとも言えますが。。。)検査であることは是非知っておいていただきたい事実だと思われます。

胃がん・食道がん・大腸がんの内視鏡画像

症例 01 凹凸の少ない早期胃がん

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ハイビジョン内視鏡

早期胃がんの内視鏡写真です。このように内視鏡検査を受けると腫瘍があることは明白になりますが、バリウム検査ですと凹凸が少ない種類の腫瘍の場合は、見逃されてしまう可能性があります。
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インジゴカルミン特殊染色

インジゴカルミン染色を用いると、胃粘膜の凹凸がはっきりしてきます。

症例 02 胃バリウム検査でも認識できるぐらいの進行胃がん

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ハイビジョン内視鏡

進行胃がんの内視鏡写真です。これくらいの凹凸が出てくるとバリウム検査でも、「要精密検査」という結果となりますが、結局は内視鏡検査で確定診断をしなければなりません。
しかもこの段階での発見になると、がんがリンパ節転移や血行性転移を起こしている可能性もあり、大手術や全身の治療を行わなければいけないこともあります。
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インジゴカルミン特殊染色

インジゴカルミン染色を行い、組織検査で診断を確定します。バリウム検査では、「腫瘍などがありそう」という予想にとどまり、診断の確定には至りません。

症例 03 胃バリウム検査では決して認識できない上咽頭(喉の奥)にできた早期上咽頭がん

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ハイビジョン内視鏡

矢印で示している発赤部分が上咽頭がんですが、胃バリウム検査では当然ですが、喉の撮影は行えませんので、発見は不可となります。
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NBI

NBI(狭帯域光観察)に切り換えるとより病変の表面構造が認識しやすくなります。
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NBI

NBIで100倍に拡大観察した画像ですが、表面構造がよりはっきり認識でき、上咽頭がんであると認識することができます。

症例 04 粘膜の退色(色あせる)のみの微細な早期胃がん

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ハイビジョン内視鏡

矢印のように粘膜の僅かな退色変化のみの早期胃がんです。画質の悪い経鼻内視鏡検査や凹凸の変化を見るのみの胃バリウム検査ではまず発見できない微細な病変です。
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ハイビジョン内視鏡拡大

ハイビジョン100倍拡大の内視鏡写真ですが、粘膜の不整な模様を判別することができ、早期胃がんの診断が可能となります。このような早期段階で発見することができれば内視鏡での治療が可能となり、胃全摘などの外科的な手術を回避することができ、胃を失わないで済みます。