内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

胃がんステージはどうやって決まる?胃がんの種類治療法も解説

胃がんは、初期で見つけることができれば完治できる病気です。ただし、初期の段階では無症状であることが多く見つかったときにはすでに進行しているケースもあります。

胃がんのステージを決める上で重要なのは、がんの広がり方と転移状況です。ステージによって、治療方法も再発のリスクも変わります。

今回は、胃がんステージの決め方や、胃がんの種類、治療方法について解説します。

1. 胃がんとは

腹痛の男性
胃がんとは、胃粘膜の細胞ががん化し、増殖を繰り返すことで発症します。胃がんが検診などで発見されるほどの大きさになるまでには数年かかるといわれるため、一般的な検診では初期の胃がんが見逃されてしまうケースもあります。

胃粘膜にできたがんは、大きくなるにつれて粘膜壁の中へ入り込み他の臓器にも広がっていきます。これを浸潤といいます。

がんができた場所から水が広がり浸み込むような感じで、付近の臓器や組織に進行していき、臓器や組織だけではなく、血管内やリンパ管内にも入り込んでいくケースもあります。

1-1. 胃がんの種類

胃がんには、大きく分けて2つの種類があります。

一つは腺がんと呼ばれるもので、胃壁の内部にある粘膜上皮細胞から発生するものです。胃がんの90%以上は、腺がんといわれ、「分化型胃がん」と「未分化型胃がん」に分けられます。

分化型胃がんは、がん細胞が胃粘膜の構造そっくりにまとまって増殖していきます。一方、未分化型胃がんは、まとまらずパラパラと広がりながら増殖していくのが特徴です。未分化型胃がんは分化型胃がんに比べて悪性度が高いといわれ、増殖スピードが早いとされるスキルス胃がんも未分化型に含まれています。

残りの数%は、リンパ腫と呼ばれるリンパ型のがんです。また、胃の平滑筋細胞にできる平滑筋肉腫は、紡錘形細胞腫瘍と呼ばれることもあります。

2. がんの進行状況を確認するための3つのカテゴリー

がんとハート
胃がんのステージには、病期ステージと進行度を組み合わせていきます。ここでは、進行度について解説します。

進行度は、下記の3つの要素から総合的に医師が決めていきます。
・がんの広がり方や深達度(T)
・リンパ節の転移の広がり(N)
・他の臓器への転移の有無や程度(M)

上記の要素は、それぞれアルファベットのT、N、Mで表します。Tは1~4、Nは0~3、Mは0か1に分けられています。

数字やアルファベットの組み合わせによって、胃がんの進行度(ステージ)で初期や末期などの状態を把握できます。

2-1. がんの広がり方や深達度

がんの深達度には、T1、T1a、T1b、T2、T3、T4a、T4bの7つがあります。

T1:がん細胞が粘膜、粘膜下層に留まっている
T1a:がん細胞が粘膜層に留まっている
T1b:がん細胞が粘膜下層に留まっている
T2:がん細胞が筋層に入り込んでいる、または浸潤している
T3:がん細胞が筋層を超え、漿膜下の組織に浸潤している
T4a:がん細胞が漿膜を超え、胃の表面に出ている
T4b:がん細胞が胃の表面に出ており、他の臓器にも広がっている

粘膜下層でがん細胞が留まっている場合は早期胃がん、粘膜下層よりも深いところまで広がっている場合は進行胃がんとなります。

2-2. リンパ節の転移の広がり

胃がん以外でもがんと診断された場合には、リンパ節への転移の有無が治療方針を決める上で重要なカテゴリーとなります。

胃がんの場合は、N0、N1、N2、N3の4つの段階で示されます。

N0:リンパ節への転移がない
N1:胃に接するリンパ節のみ転移がみられる
N2:胃に流れる血液を運ぶ太い血管の根本にリンパ節転移がある
N3:N2よりも遠くの臓器にリンパ節転移がある

2-3. 他の臓器への転移の有無や程度

大まかには、他の臓器への転移があるかないかを表しています。転移が見られる場合には、どの程度転移しているのかを表すケースがあります。

M0、M1のみで表すケースとM1をa~cに区別することがあるため、内容を知っておくと医師からの説明も理解しやすいでしょう。

M0:転移がない
M1:転移がある
M1a:腹膜以外の1臓器に転移がある
M1b:腹膜以外の2臓器以上に転移がある
M1c:腹膜転移がある
M1c1:腹膜転移のみ
M1c2:腹膜転移と他の臓器への転移がある

3. 胃がんのステージ

ステージ
胃がんと診断されると、検査を行いステージを確定します。

ステージや進行状況によって治療内容も決定されるためステージを確定することは重要です。上記のTとNのカテゴリーの組み合わせによりステージが決定します。

胃がんのステージには、早期から進行につれてⅠ期〜Ⅳ期の分類があります。その中で、さらにがんの状態によって細かくⅠA、ⅠB、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、Ⅳの8段階に分けられます。

3-1. ステージⅠ期

ステージⅠ期には、AとBがあります。それぞれの違いは下記の通りです。

(ⅠA期)
・胃の粘膜にがん細胞が留まりリンパ節への転移が見られない状態

がんが胃の粘膜のみの場合は、内視鏡による切除も可能で完治も見込めます。

(ⅠB期)
・がん細胞は胃の粘膜に留まっているが、リンパ節への転移が2個まである状態
・リンパ節への転移はないが、がん細胞が胃の粘膜の下層まで浸潤している状態

外科的手術が主な治療になり、術後は化学療法や対症療法が用いられることもあります。

3-2. ステージⅡ期

ステージⅡ期には、Ⅰ期と同じくAとBがあります。AとBの違いは、リンパ節への転移している数と粘膜の浸潤の程度です。

(ⅡA期)
・がん細胞が粘膜下層まであり、リンパ節への転移が6個までである
・がん細胞が漿膜まで浸潤しているが、リンパ節への転移はない
・がん細胞が筋層まで浸潤し、リンパ節への転移が2個までである

上記のいずれかの状態、またはいくつか当てはまる状態を指します。

(ⅡB期)
・がん細胞が粘膜下層まで広がり、リンパ節への転移が15個までである
・がん細胞が筋層まで浸潤しており、リンパ節への転移は6個までである
・がん細胞が漿膜まで浸潤しており、リンパ節への転移は2個までである
・がん細胞が漿膜をわずかに超えており腹腔内に達しているが、腹膜への浸潤していない

上記のいずれかの状態、またはいくつか当てはまる状態です。Ⅱ期では、開腹手術や腹腔鏡下手術など外科手術が一般的な治療となります。ただし、他の臓器への転移が見られる場合には、外科的手術ではなく化学療法が選択されるケースもあります。

手術などの治療をしても再発する可能性があり、3人に1人が亡くなる状態です。

3-3. ステージⅢ期

ステージⅢ期には、A、B、Cの3つの段階があります。

(ⅢA期)
・がん細胞が筋層まで浸潤しており、リンパ節への転移が7個以上ある
・がん細胞が漿膜下の組織まで浸潤しており、リンパ節への転移が3~6個ある
・がん細胞が漿膜を超え胃の表面まで浸潤しており、リンパ節への転移は1~2個ある

上記のいずれかの状態、またはいくつか当てはまる状態を指します。

(ⅢB期)
・がん細胞が漿膜下の組織まで浸潤しており、リンパ節への転移が7個以上ある
・がん細胞が漿膜を超え胃の表面まで浸潤しており、リンパ節への転移は3~6個ある
・がん細胞が胃の表面まで広がり他の臓器までも広がっており、リンパ節への転移は0~2個まである

(ⅢC期)
・がん細胞が漿膜を超え胃の表面まで浸潤しており、リンパ節への転移が7個以上ある
・がん細胞が胃の表面までや他の臓器へも広がっており、リンパ節への転移が3個以上ある

基本的には外科的手術が治療方法となりますが、段階によっては外科的手術ができないケースもあり、抗がん剤治療や免疫療法が選択されることもあります。

ⅢB期の場合は開腹手術によって切除しますが、見えないがんが残る可能性が高いため再発リスクがあり、術後の再発予防の治療も重要です。ⅢC期の場合も完全にがん細胞の切除が期待できないためⅢB期同様、術後の再発予防治療をする必要があります。

3-4. ステージⅣ期

がん細胞がリンパ節によって遠隔への転移がある場合や肝臓、肺、腹膜などに転移しているとステージⅣ期に分類されます。ステージⅣ期の状態は下記の通りです。

・肝への転移
・腹膜播種(胃の内側を覆っている薄い腹膜にがんが転移している状態)
・スキルス胃がんの場合

ステージⅣ期と診断された場合は、外科的手術ではなく免疫治療を積極的に行うケースが多いです。場合によっては、抗がん剤治療を行いⅢ期程度のがんにしてから外科的手術を行うこともあります。

4. まとめ

男性医師
内視鏡手術が可能なのは、早期がんかⅠA期の胃がんのみです。胃がんは症状が出てから診断された場合は、ステージが進んでいるケースもありますが、定期的な内視鏡検査(胃カメラ)をしていて早期発見できれば、完治できる病気です。

胃がんリスクの高くなる40代以上の方は、この機会に胃カメラ検査を定期的に行うことをおすすめします。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。