内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

大腸がんの究極の予防法は「大腸カメラ検査を定期的に行うこと」です。

日本人の大腸がんは増え続けています。
2018年の部位別がん死亡率では、大腸がんは男性では第3位、女性では第1位です。2025年には、男女ともに部位別がん死亡率で1位になると予想されています。

そんな大腸がんですが、あることをきちんと行うと、大腸がんを予防することができると言われています。

それは「大腸カメラ検査を定期的に行うこと」です。
それではなぜ大腸カメラ検査を定期的に行うと、大腸がんが予防できるのでしょうか?

今回は、大腸がんの究極の予防法である「大腸がんを定期的に行うこと」について解説したいと思います。

大腸がんになりやすいタイプとは

上述した通り、日本人は大腸がんが激増しています。部位別がん死亡率ですが、大腸がんは男性で第3位、女性で第1位です(2018年:国立がん研究センターより)。

これが、2025年には、男女ともに、部位別がん死亡率で大腸がんが第1位になると予想されています。それだけ日本では大腸がんが増えているということになります。

それでは、大腸がんになりやすいタイプはどんな方でしょうか?

身体的特徴としては、高身長、肥満体です。
生活習慣としては、飲酒、喫煙、運動不足、牛肉、豚肉、加工肉(ハム、ソーセージ)の過剰摂取です。

大腸がんになりやすい食べ物の具体的なデータですが、

・牛肉、加工肉(ベーコン、ソーセージなど)→大腸がんのリスクが12~21%上昇します。
・アルコール→少量でもリスクが上昇し、飲酒量に比例してリスクがぐんぐん上がります。

ちなみに、鶏肉は大腸がんのリスクとは関係ないので、食べても大丈夫です。

さらに遺伝的特徴としては、家族に大腸がんがいる方です。
この中でも、食事に関しての興味深いデータがありますので解説します。

国立がん研究センターによる、日本人の肉摂取量と大腸がんとの関係についての研究結果ですが、
1日9gの牛肉を食べると大腸がんのリスクが上昇すると言われています。1ヶ月で換算すると270gです。
我々が焼肉を食べに行くと、1人平均350g程度の牛肉を食べると言われています。
つまり、1ヶ月に1回焼肉に行くだけで大腸がんのリスクが上がる計算になります。

ちなみに加工肉はもっと深刻です。少しでも食べたら大腸がんのリスクが上がります。
大腸がんの予防という観点で考えると、加工肉は食べないに越したことはないということになります。

豚肉は、1日36gまで大丈夫です。1ヶ月に換算すると1kgまでは大丈夫な計算になります。
鶏肉には基本的に大腸がんリスクはありません。たくさん食べても大丈夫です。

このように、豚肉や鶏肉がヘルシーなのはきちんとした理由があるのです。

若年性大腸がんが増えている

昨今、若年性の大腸がんが急激に増えています。ちなみに若年者とは、50歳未満のことを指します。
写真は、42歳男性の進行直腸がんです。
早ければ20代から大腸がんが発症する症例もあります。

実際、数十年前と比べると、若年者の大腸がんのリスクは3倍ほど上昇しており、現在の30代の大腸がんのリスクは、数十年前の50代の大腸がんのリスクと同じとまで言われているんです。

それでは、なぜ若年者の大腸がんのリスクが増えているのでしょうか?

リンチ症候群や、家族性大腸腺腫症などの遺伝性疾患で若年性大腸がんを発症することはよくあります。
しかしながら、これらの遺伝性疾患は、今も昔も数に変化はありません。
それでは、なぜ若年性の大腸がんが増えているのでしょうか?

それは、以下が原因なのではないかと予想されています。

A.食事
B.運動不足
C.腸内細菌の変化 です。

A.は、飲酒、喫煙、牛肉、加工食品(ハム、ソーセージ、ベーコン)などの高脂肪食の食べ過ぎであろうと言われています。

B.ですが、運動不足による肥満が若年者に増えていること、そして、座ってテレビなどを見ている時間が長いことが大腸がんのリスクを増加させると言われています。具体的に5時間以上座っていると大腸がんのリスクが上昇します。

C.ですが、これは、小さい頃から抗生物質を多量に使用したことによる腸内細菌の変化によるものです。

いかがでしょうか。
ここでもやはり食事の影響を色濃く受けていることが分かります。

大腸ポリープは成長すると大腸がんになる

大腸ポリープは、大腸の粘膜の層にできた「いぼ」のような盛り上がった病変のことです。
ポリープで頭に浮かぶのは写真のようなキノコ型のポリープですが、平べったいポリープもあります。サイズも数ミリから数センチまで様々です。

ポリープの種類ですが、腺腫性ポリープと非腺腫性ポリープに分かれ、そこからさらに細かく分類されています。
大腸ポリープは「良性のできもの」です。対して大腸がんですが、そのほとんどが、大腸ポリープが大きく成長してできたものと言われています。一般的に、大腸がんの8割が大腸ポリープから発生しています。
大腸ポリープから大腸がんに成長していくスピードですが、1cm未満の小さなポリープから、数年から10年程度で「大腸がん」に成長していきます。
逆に言うと、「大腸ポリープ」の段階で大腸カメラで切除すると、大腸がんの予防になります。

生活習慣を見直し、大腸がんを予防しよう

以上より、大腸がんを予防するために何をすれば良いかがなんとなく理解できたのではないでしょうか。

まず、我々がすぐに取り組める大腸がんの予防法は、食事と運動です。

特に食事に関してですが、牛肉や加工肉をなるべく避けることが重要です。
お肉を食べる場合は、豚肉や鶏肉をメインにして、牛肉はご褒美として食べるような意識づけをしましょう。
ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉は便利で美味しい食べ物ですが、なるべく避けたいところです。

また、飲酒量を減らすことも大腸がんの予防になります。
一般的に、1日の飲酒量は、アルコール換算で20gと言われています。ビールなら500ml、焼酎なら0.6合、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度です。ただし、週に2~3日の休肝日を設けることが必要です。
おすすめは、糖質を含まない焼酎やウイスキーといった蒸留酒です。ただ、そのまま飲むと食道の粘膜を傷つけてがんのリスクを高めますから、薄めて飲むようにしてください。

その他に、大腸がんを予防する食べ物は以下の通りです。
・食物繊維豊富なもの→大腸がんのリスクが22~43%低下します。
・果物、野菜→大腸がんのリスクが8~52%低下します。
以上より、食物繊維豊富や食品を食べることが、大腸がんの予防になるということです。

さらに、食事と合わせて、定期的な運動も行いましょう。

運動の効果は、約48時間持続すると言われています。毎日運動する必要はありませんので、2日に1回は運動を行いましょう。
具体的な運動方法ですが、一番手軽にできるのが、散歩です。少し息が上がる程度のスピードで、20分程度歩きましょう。

また、室内で運動する場合、効果的なのは「ラジオ体操」と言われています。
ラジオ体操には「ラジオ体操第一」「ラジオ体操第二」があります。どちらも3分程度です。
この2つの体操を毎日するようにしましょう。

究極の大腸がん予防は「大腸カメラ検査を定期的に行うこと」です

ここまでは、私達の普段の生活習慣から大腸がんを予防する方法を考察しました。
そしてここからは、一番効果的な大腸がんの予防法です。

それは「大腸カメラ検査を定期的に行い、大腸ポリープを切除すること」です。

大腸がんは、その8割程度が大腸ポリープが成長したものと言われています。
1cm未満の小さなポリープから、数年から10年程度で「大腸がん」に成長していきます。

つまり、大腸ポリープが大腸がんに成長する前に切除してしまえば、大腸がんの予防になるのです。

ただ、大腸ポリープは無症状ですので、いつ、どこに大腸ポリープができたかは全くわかりません。知らないうちにポリープができて、それが成長して大腸がんになってしまうのです。このため、定期的に大腸カメラ検査を行う必要があります。

大腸ポリープの治療は、ポリープのサイズや形態により、以下のような治療方法があります。

A. ポリペクトミー
ポリープの切除法の中で一番基本的な治療法です。「スネア」という金属の輪をポリープにかけ、この金属の輪を締めて電流を流し、ポリープを焼き切ります。
B. 内視鏡的粘膜切除術
平らな形や、茎がほとんどないポリープに対して行う治療です。
ポリープの下に生理食塩水を注入し、ポリープを浮き上がらせた後に焼き切ります。
比較的大きなポリープまで切除することが可能です。サイズによっては日帰り手術も可能となっています。
C. 内視鏡的粘膜下層剥離術
平らな形や、茎がほとんどないポリープで、サイズが大きなポリープに対して行います。専門的な器具が必要であり、かつ2〜3泊程度の入院が必要ですので、総合病院での治療になります。
大腸カメラ検査を行い、大腸ポリープを発見したら、かなりの大きさのポリープもその場で切除することが可能です。大腸ポリープを切除することにより、大腸がんの予防ができます。

大腸ポリープは切除しても、新しいポリープができることがあります。
このため、大腸カメラ検査を定期的に行い、ポリープを発見したら切除することが重要です。
ご自身の健康のためにも、ぜひ定期的に大腸カメラ検査を受けましょう。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。