内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

加齢とともに筋肉が減少していく「サルコペニア」の予防法はこれだ!

加齢は誰もが避けて通ることができない問題ではあるものの、「いつまでも元気で暮らしたい」「年を重ねても旅行に行きたい」といった願望は誰しも持っていることでしょう。それらを実現するためには、なるべくサルコペニアを進行させないようにしないといけません。

サルコペニアという言葉自体、聞いたことがない人も多いかと思いますが、サルコペニアは筋肉量が減って体の機能が低下している状態を指します。放置すると生活の質を大きく損なう可能性があるため、早期の予防や対策が非常に大事です。

では、いったいどのようにすればサルコペニアの進行を防ぐことができるのでしょうか?今回は、サルコペニアとはどんなものか、さらにその予防法について詳しく解説していきます。

1. サルコペニアとは?

車椅子と老人
サルコペニアとは、高齢化に伴い筋肉量や筋力が減少する現象を指す言葉です。ギリシャ語の「サルコ(筋肉)」と「ペニア(減少)」を組み合わせた造語で、加齢により筋肉が衰える状態を表します。筋肉の収縮力が弱くなることで日常生活の動作が困難になったり、バランス感覚や歩行速度の低下により転倒のリスクが高まったりするなどの危険があり、ケースによっては、自立した生活が難しくなり、介護が必要になる場合があります。

1-1. サルコペニアの症状

サルコペニアの主な症状ですが、具体的には次のようなものが挙げられます。

筋力低下…重い物を持ち上げたり、握力が弱くなったりする
歩行速度の減少…歩く速度が遅くなり、長い距離を歩くのが困難になる
バランス感覚の低下…立ち上がる時や方向を変えるときにふらつきやすくなり、転倒のリスクが高まる
持久力の低下…疲れやすくなり、日常的な活動で息切れを感じることがある
体重の減少…筋肉量の減少により、体重が減ることがある
活動量の減少:動くことが億劫になり、座っている時間が長くなる

これらの症状が現れ始めたら、サルコペニアかもしれません。

1-2. サルコペニアの原因

サルコペニアの原因はさまざま考えられますが、一般的には加齢による筋肉の合成能力の低下、運動不足による筋肉の萎縮、タンパク質の不足などの栄養不良、糖尿病や心血管疾患といった慢性疾患が筋肉の減少に影響を与えることが挙げられます。

1-3. サルコペニアの判別方法

実はサルコペニアかどうかを判別するのに非常に簡単な方法があります。医療業界では有名で「指輪っかテスト」と呼ばれるものです。まず、両手の親指と人差し指を合わせて輪っかを作ります(中指ではありませんので要注意)。そして椅子に座った状態で、利き足ではないほうのふくらはぎを囲みます。その際に指がくっついてしまうようであればサルコペニアの可能性が高いと言われています。ふくらはぎに筋肉がついているかによって、サルコペニアの危険度がわかるので、気になる人はやってみるとよいでしょう。

2. サルコペニアを予防するために必要な4つのこと

食事をする子どもとおばあちゃん
サルコペニアを予防するためには、次の「たんぱく質をしっかり摂る」「ビタミンB群をしっかり摂る」「腸内環境を良くする」「ビタミンDをしっかり摂る」、これら4つのことに注意するのが良いとされています。

2-1. たんぱく質をしっかり摂ること

筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂るようにすると、サルコペニアの予防になります。厚生労働省が発表している日本人の食事摂取基準として、65歳以上の場合には1日体重1kgあたり1g以上のたんぱく質摂取がよいと言われています。

ちなみに朝昼晩の三食どこでたんぱく質を摂取したらよいかというと、朝食に摂取することで骨格筋の合成効率が高くなるといった報告があります。セカンドミール効果により、たんぱく質を朝食で摂取すれば日中の血糖値も上がりにくいため、朝はたんぱく質中心で糖質を控えるのが好ましいです。

なお、最近発表された論文で、高齢者は高たんぱくの食事だけではサルコペニアの発症を予防することができないといった報告もあります。たんぱく質だけ摂っていてもダメで、いろんな食物を組み合わせて食べることが大事です。

2-1-1. たんぱく質が摂れるおすすめの朝食

朝食にたんぱく質を摂るとよいのはわかっていただけたかと思いますが、おすすめの朝食としては、卵料理が手早く簡単で誰でも摂れて良いです。卵1個(Mサイズで約50g)に約6gのタンパク質が含まれていますので、目玉焼きやスクランブルなどにして食べるとよいでしょう。あと納豆もおすすめの食材のひとつで、1パック(約40g)の中に約6.6gのたんぱく質が含まれています。

2-2. ビタミンB群をしっかり摂る

たんぱく質の代謝に必要なものにビタミンB群があります。ビタミンB群は「ビタミンB1」「ビタミンB2」「ナイアシン」「パントテン酸」「ビタミンB6」「ビオチン」「ビタミンB12」「葉酸」の計8種類があります。それぞれいろいろな作用があるものの、単独では作用が発揮しにくいと言われており、8種類がお互い助け合いながら、それぞれが活性型になって作用していくと言われています。ですから、どれか1つだけを重点的に摂ってもあまり効果がありません。

ちなみに、たんぱく質の代謝に使用されるものとして主に「ビタミンB6」が有名です。たんぱく質を摂取するとアミノ酸に分解され、それぞれの細胞でたんぱく質に再合成されます。その際にビタミンB6は欠かせない要素となりますが、ビタミンB6だけを摂っても効果は薄いため、ビタミンB群をまんべんなく摂るのが理想的でありかつ効率的です。たんぱく質を摂りつつも、たんぱく質の代謝を促すためにもビタミンB群をまとめて摂ることが大事です。

2-3. 腸内環境を良くする

たんぱく質やビタミンB群は消化管で吸収されますが、腸内環境が悪いと腸漏れ(リーキーガット症候群)を起こしてしまいます。そのような状態では、どんなにたくさん栄養を摂っても吸収されず意味がありません。

そこで大事になってくるのが腸内環境を良くすること。たんぱく質やビタミンB群を大量に摂取しても腸内環境が悪ければ一切吸収されないので、サルコペニア予防には腸内環境の改善が一番です。

とある健康雑誌では、日本人の約7割の人が腸漏れしている可能性があると示唆されており、血液検査によるデータ解析によると、約8割の人ががたんぱく質をうまく吸収できていないことがわかっています。

腸内環境を良くするためには、善玉菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖をしっかり摂ることがとても重要です。善玉菌はビタミンB群を作ることができ、体内で必要なビタミンB群の3割程度を腸内で作れるだけでなく、ビタミンB群8種類全部を作れますので、善玉菌を増やすことができる腸内環境を目指しましょう。

また、食物繊維を多く摂ることも腸内環境改善には大切です。厚生労働省によると、1日の食物繊維の目標摂取量について男性では21g以上、女性が18g以上摂るのがよいと言っています。さらにWHOでは10歳以上の男女の場合、食物繊維を1日25g以上摂りましょうと言っています。

一昔前に比べ、現代人は食物繊維摂取量がかなり減っているため、大腸がんが増えているのではないか?と言っている人もいます。欧米食が増えたことで食物繊維摂取量が少なくなり大腸がんが増えている。つまり、腸内環境が悪くなっていることで大腸がんが増えているといった見解もあるのです。今の日本人は食物繊維を1日14g程度しか摂れていませんので、あとプラス10gは食物繊維を摂ることを意識した食生活を心掛けましょう。

2-4. ビタミンDをしっかり摂る

ビタミンDをしっかり摂ることもサルコペニア予防には重要です。実際に血中ビタミンDの濃度が低いほど筋力が低下しやすいという報告もあります。

ビタミンDがサルコペニア予防になるメカニズムは以下の通りです。
いろいろな細胞にはビタミンD受容体といったものがあり、ビタミンDはビタミンD受容体にくっつくことで作用します。当然筋肉の細胞(筋細胞)にもビタミンD受容体がありますが、筋細胞は老化とともに脂肪細胞に分化する(置き換わる)と言われています。

また、最近発表された論文で、筋肉を構成している分子鎖アミノ酸(BCAA)の分解をビタミンDが抑制しているのではないかといった報告もあって、ビタミンDが筋肉低下の予防に関わっているのではと言われています。

さらに血中のビタミンD値が高い人は、腸内細菌の多様性が高まると言われています。そのため腸内環境もよくなりますし、ビタミンDの血中濃度が高くなると善玉菌の仲間である酪酸菌が増えるといった報告もありますので、ビタミンDを普段からしっかり摂取すれば、筋力の低下も予防でき、さらに腸内環境も良くなるといった好循環が起きやすくなります。

3. まとめ

リハビリで階段の昇り降りをする高齢者女性
以上、サルコペニアとはどんなものか、どのようにすればサルコペニアの進行を防ぐことができるのか、その予防法について紹介してきました。

サルコペニアを予防し健康でいるためには、先ほどご紹介した4つの予防法を実践することがおすすめです。

筋肉の材料となるたんぱく質をしっかりと摂ること、たんぱく質の代謝に必要なビタミンB群をしっかり摂ること、さらにたんぱく質やビタミンB群をしっかりと消化・吸収するために腸内環境を良くすること、ビタミンDをしっかりと摂ること。これらの予防法は、どれも比較的簡単で全然難しいことではありません。実践するだけで腸内環境が良くなりますし、筋力も維持できるなど良いことづくめです。そのほかにも生活習慣の見直しをしたり、定期的な健康チェックを行ったりしながら、サルコペニア予防に勤しみましょう。

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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。