内視鏡医師の知識シリーズ
ENDOSCOPIST DOCTOR'S KNOWLEDGE SERIES

あなたにぴったりの胃薬はどれ?胃腸のプロが教える胃腸薬の選び方

胃の不調や腸のトラブルに遭遇したとしても、すぐに病院に行くことができれば適切な処置を受けられるかもしれません。しかし、日々忙しさに追われている現代人の場合、なかなか病院にも行くことができないことも多々あります。そんな時、薬局やドラッグストアで自分に合った胃腸薬を見つけて服用することがとても大切です。

今回はどういう症状の時にどのような胃薬を飲んだらいいか、自分で判断して購入するためにはどうすればよいか悩まなくて済むように、系統別に胃腸薬を分類してご紹介していきます。

1. おすすめの胃腸薬5タイプ

薬と水の写真
胃腸薬は大きく分けると「漢方系胃腸薬」「総合胃腸薬」「消化酵素系胃腸薬」「胃酸分泌抑制系胃腸薬」「胃腸の働きを調整する胃腸薬」の5タイプに分類できます。

それぞれの胃腸薬の特徴について詳しく見ていきましょう。

1-1. 漢方系(大正漢方胃腸薬、六君子湯)

漢方系の胃腸薬として有名なものに「大正漢方胃腸薬」「六君子湯」があります。なかでも非常に有名な大正漢方胃腸薬は誰もが1回は飲んだことがあると思いますが、中身が何なのか知らない人がほとんどでしょう。

「大正漢方胃腸薬」は、安中散と芍薬甘草湯エキスの2つが入った胃腸薬で、両方とも胃の動きを良くしてくれます。また、芍薬甘草湯には胃の筋肉の緊張を和らげ、胃痛を改善する効果もあります。そのため、胃もたれや胃が重たいといった患者さんによく使用される薬です。
ちなみに、芍薬甘草湯は足のつりやこむらがえりしやすい人向けの漢方薬なので知っている人も多いかもしれませんが、筋肉の急激な緊張を緩めて痛みを緩和する作用があります。そのため、足がつった時に飲む人が多い薬なのですが、もともとは胃薬の作用があり、胃の緊張をほぐして痛みを和らげてくれます。

もう一つの「六君子湯」ですが、これは人参、甘草、生姜、蒼朮、茯苓、大棗、陳皮、半夏などが含まれており、消化器内科ではない医療機関にて、胃の不調といったら絶対出すと言われている漢方薬です。胃の動きをよくしてくれる生薬が含まれていたり、食欲を増進させるホルモン「グレリン」を出してくれる作用があるのが特徴です。よって、食欲がないと感じる場合に飲んでみるとよいでしょう。

1-2. 総合胃腸薬(セルベール、サクロン、パンシロン、スクラート)

セルベール、サクロン、パンシロン、スクラートのような胃腸薬には、制酸作用(胃酸を抑えてくれる作用)や粘膜保護作用といったものが含まれています。これらは総合胃腸薬と呼ばれるもので、効き目が少しマイルドなのが特徴です。

処方薬でもあるセルベックスは飲んだことがある人も多いと思いますが、セルベックスはセルベールと同じ粘膜保護剤で、整形外科の先生が痛み止めにムコスタ、セルベックスなどを処方することがあります。

また、スクラートはスクラルファートという胃腸薬として名前を聞いたことがあるかもしれません。このスクラートには制酸作用があり、飲んだ後にすっきり感がほしいという人が飲むとよい総合胃腸薬です。とりあえず胃薬を飲んでおこう、といった時に飲んでおくのに適しています。

1-3. 消化酵素系胃腸薬(太田胃散、キャベジン)

太田胃散やキャベジンといった胃腸薬には消化酵素が入っています。消化酵素とは、食べたものを体が吸収しやすい形に分解するために働く物質で、ピロリ菌が胃の中にいたりすると、胃の粘膜が萎縮して萎縮性胃炎を発症し、胃の粘膜が薄くなってしまいます。そうなってしまうと、胃液が十分に分泌されず、消化不良や胃もたれを感じることがあります。

そういう症状を持つ患者さんに消化剤を医療機関で出すことがあるのですが、すぐに医療機関に行けない場合に薬局やドラッグストアで購入するとよいのが太田胃散やキャベジンといった胃腸薬です。萎縮性胃炎で胃酸がうまく出ずに消化不良を起こす人や、また食べすぎた時や外食する前にぜひ試してみるとよいでしょう。

太田胃散にはビオヂアスターゼ(タンパク質とでんぷんなどを消化する酵素)が入っているため、胃もたれにすごく効きます。しかも副作用が無いので、食べ過ぎた際に気軽に飲めますし、外食に行く前に飲んでおき、さらに外食から帰ってきてからもう一度飲んでから就寝すると、翌朝胃のもたれが少なくなるのでおすすめです。また、制酸剤や漢方の健胃生薬も入っていて、優しく消化を助けてくれます。

また、キャベジンコーワαにはビオヂアスターゼ2000といったたんぱく質や炭水化物のぶどう糖などを消化する酵素と、リパーゼAP12という脂肪を消化する酵素が入っています。動きの鈍ってきた胃の働きを正常に戻してくれる修復作用のある胃腸薬ですので、こちらもおすすめです。

1-4. 胃酸分泌抑制系胃腸薬(ガスター10、ガストール)

ガスター10やガストールはかなり知られている胃腸薬だと思いますが、ガスター10は第1類医薬品に分類されています。ガストールは第2類医薬品なので薬局やドラッグストアで誰でも気軽に買うことができますが、ガスター10に関しては調剤薬局などで薬剤師から購入する必要があります。

ガスター10とガストール、両方とも胃酸を強力に抑えてくれて胃の痛みに効く胃腸薬で、ガスター10にはH2ブロッカー(ヒスタミン受容体拮抗剤)、ガストールにはM1ブロッカー(ムスカリン受容体拮抗剤)が含まれています。いずれも胃酸を抑えてくれる薬ではあるものの、H2ブロッカーの方がより胃酸を抑えてくれます。そのため、胸やけや胃酸過多の症状がつらかったらガスター10を処方するほうがよいでしょう。

ただし注意すべき点として、ガスター10やガストールはずっと飲んでいると効果が薄れてきます。2週間も飲み続けるような薬ではないため、数日飲んだら飲むのをやめるといった使い方が効果的です。ちなみに、ガスター10はもともと長期で使わないように6錠しか入っていません。

1-4-1. 胃酸分泌抑制剤の飲みすぎに注意

胃酸は、食べ物の消化や鉄分の吸収を助けたり、胃の中に進入する細菌から身を守る働きがあり、絶対必要なものです。その胃酸を胃酸分泌抑制剤で抑えてしまうと、食べ物が消化できなくなってしまい、不消化の状態のまま腸に食べ物が届きます。その結果、腸にガスが溜まってお腹が張ってしまうことがあるのです。ですから、ガスター10やガストールを飲むよりも、医療機関を受診して医師に相談するほうが賢明であると言えるかもしれません。

1-4-2. SIBOの人は胃酸分泌抑制剤の連用を避けること

SIBO(小腸内細菌異常増殖症)とは、小腸内で腸内細菌が異常増殖し、小腸内にガスが異常発生する病気です。このSIBOと診断されている人が胃酸を抑える制酸剤を服用すると、胃酸が減少して小腸内の細菌を殺菌できなくなり小腸内に腸内細菌が異常増殖しSIBOが悪化してしまうことがあります。よって、SIBOの人は胃酸分泌抑制剤の連用を避けるようにしましょう。

1-5. 胃腸の働きを調整する胃腸薬(正露丸、ブスコパン)

整腸剤として飲む薬としては、正露丸やブスコパンが有名ではないでしょうか。

正露丸には、木クレオソートという木の成分が含まれています。この木クレオソートはブナ、マツなどを炭化する際に得られる木タールを蒸留して精製される液体で、これを抽出してできたのが正露丸です。

正露丸は、腸管の水分分泌の抑制や水分吸収を促進して腸管内の水分を調整する機能がありますので、下痢の時は水分があまり出ないようにして下痢を抑えますし、便秘の時は水を多く出して便を柔らかくして出やすくします。その他、腸の過剰な蠕動運動を正常な状態に戻す作用もあります。

また、ブスコパンA錠にはブチルスコポラミン臭化物が含まれており、胃腸の痙攣を鎮めたり抑えてくれる効果があります。「胃が痛い」といった胃の不調は、胃の中が悪くなって起こることはほとんどなく、神経的な影響や食べ過ぎにより、神経過敏になることで胃が動きすぎて痛みが出てしまうものです。

ですから、動きを止めてあげれば胃の痛みは取れます。ブスコパンにはそういった痛みを取る効果があり、痛い時だけ飲むのがよいでしょう。飲んで痛みが止まれば、「胃が痙攣していただけだった」といった証拠にもなります。

2. まとめ

ドラグストア
以上、どういう症状の時にどのような胃薬を飲んだらいいか、系統別に市販の胃腸薬を紹介してきました。

数ある胃腸薬の中から自分の症状に見合った薬を見つけ出すのは至難の業。なんとなく「これを飲んでおけば大丈夫かな?」と思って市販の胃腸薬を服用し続けてはみたものの、全く症状が改善しなかったということはありませんか?それは、おそらく目的にあった胃腸薬を選んで飲んでいなかったことが考えられます。

今回ご紹介した胃腸薬はどれも薬局やドラッグストアなどで手に入るものですので、急な胃腸炎に遭遇した場合には、自身の症状と照らし合わせて最適な薬を服用するようにしてください。それでも症状が改善しない場合には、速やかに医療機関にて医師の診断を受けることをおすすめします。
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この記事を書いた人

秋山 祖久医師

国立長崎大学医学部卒業。
長崎大学医学部付属病院・大分県立病院など多くの総合病院で多数の消化器内視鏡検査・治療を習得。2018年11月より福岡天神内視鏡クリニック勤務。